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STRUGGLE  作者: 春巻き系男子
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エピローグ

 すべての力の化身が還元されて数カ月が経つ頃、西部緑地の奥深くに七人は集まっていた。まだ辺りの空気には冷たさが残っている。枝に葉はなく、緑地がその名に相応しくなるにはまだ時間が必要である。

「封印の塔がようやく完成した。これで外からの封印も大丈夫だ」

 H.O.P.E.の戦闘員だった男、相川が三メートルほどもある真っ白な塔を軽く叩いてみせた。

「現代の技術でも造れるなんて驚きました」

 普久原が感嘆の声を上げる。彼の怪我は一番酷いものだったが、想い人に看病されたことが相当良薬だったようで、一番早く回復した。

「北条さんがデータを残していたんだ」

 相川がその名を口にすると、一同の空気は重たくなった。

「結局、あの人に救われたのか」

 金澤がつぶやいた。

それを聞いて、普久原は北条のことを思い返す。人類を進化させるために人間をモンスターへと変えようとした。その研究を進めるために、力の化身の封印を解いた、いわば事件の張本人。しかし、彼は人間が好きだったのだ。その歪んだ愛がここまでの悲劇を生んだ。そう考えると、普久原には北条が真っ向から悪だと決めつけられない。

「わたし、あの人のことは許せない」

 瀬戸が隣にいる金澤に言った。瀬戸は家族と友人を力の化身によって殺されている。その元凶たる北条をどうして許すことができるだろうか。力の化身の封印に役立つものを造れたとはいえ、そもそも彼が封印を解かなければこのような事態にはならなかったのだ。

「ま、そうだな」

 金澤は瀬戸に同意する。彼は人よりも損得勘定で行動する性質が強い。今回の件は明らかに損な役割であった。損なことはしたくないのに、それをしなければいけなくなったのはだれのせいか。思い返すのを面倒に思い、彼は適当に北条のせいにすることにした。ただ、本当は親友と呼べる存在と同じ位置に立てたことを少し得に思っている。

「では、そろそろお別れですね」

 古代人の少女エルーが、すべてのカードを地面に置く。いよいよ完全封印がおこなわれようとしていた。その言葉を聞いた木崎は、わかりきっていたはずなのに気を沈める。およそ一年前、初めて彼女と会った時にはこのような感情を抱くとは思ってもいなかった。

 木崎のそんな様子を見ていたレイモンドは、彼の真意を悟る。

「みんな、そろそろ行こう」

 そう言って、相川や普久原の肩を押す。早くこの場から離れて、木崎とエルーの二人きりにしようというレイモンドなりの配慮だ。木崎を除く一同はエルーにそれぞれ礼を言い、この場から去ろうとする。

 木崎とレイモンドの目が合う。レイモンドは微笑みながら片目で目配せした。それを受け取った木崎は立ち止まる。木崎だけが立ち止まる。やがてその場にいるのは二人だけになった。


 なんと言って切り出せばいいのかわからない。言いたいことは山ほどある。整理できない。この日が訪れるまで猶予はあった。それなのに、おれは現実から目を背けて過ごしていた。言葉にしてしまえばエルーとの別れを決定的なものにしてしまう。それができなかった。

「みなさん、行かれてしまったんですね」

 こちらを振り向きもせずにエルーが言った。封印の準備をしているのだろう。手を

目の前で祈るように組んでいるように見える。

「ああ」

「けんいちさんは行かないんですか?」

 答えられない。

「そんな困った表情をしないでください」

 少し笑いを混ぜて言った。エルーはおれの顔を見てはいないのに表情を言い当ててきた。おれたちが一緒にいた時間は、一生のうちの僅かな期間だ。それでも、お互いのことを知るには充分だった。エルーにはおれの表情がわかるように、おれにはエルーの気持ちがわかる。そんな気がした。

「エルー、これは本当にお前がやらなくちゃいけないことなのか?」

 いまさらなにを言っているのか自分でもわからない。ただ、おれは必死に足掻いていた、逃れられない現実で。

「これが私の役割です」

「でもやりたいことではない、そうだろ?」

 ああ、おれはなにを言っているのだろう。こんなことを言ってもエルーを困らせるだけだ。でも、言葉を止められない。

「そうだ、カードをロケットに載せて宇宙に飛ばしてもらおう。そうすれば……」

「けんいちさん」

 遮られた。

「他の方にこれ以上、迷惑はかけられません。これは力を生み出してしまった古代人としての責任でもあるんです」

「……わかってるよ」

「え?」

 エルーに伝えるにはあまりにも声が小さすぎた。

「わかってる、そんなこと。おれは……おれは」

 続きを言おうか迷う。

 いや、これは言わなければいけない。言わないと、きっと後悔してしまう。

「おれはエルーと一緒にいたい」

 エルーが振り返る。その瞳には光るものがあった。涙をこらえようと、彼女は自分の口に手を当てる。

「エルーに会うまで、自分に相応しい役割を見つけられずにいたんだ。でも、守護者の役割を与えられて、エルーと一緒に過ごして、それからわかったんだ。おれはエルーと一緒にいたい。それを役割にしたいってことに」

 彼女は目を逸らさずに聞いてくれた。射抜くような視線をこちらに向けている。だからおれも彼女の視線から逃げない。

「……はい」

 泣き声が混じった声だった。それでいて表情はとても穏やかだ。おれも微笑みを返す。

「けんいちさん、私は役割というものは二通りあると思うんです」

 エルーは涙を拭いながら話す。

「与えられる役割と、自分から手に入れる役割です。私には与えられる役割しかありませんでした。ですが、けんいちさんなら、自ら役割を手に入れることができるはずです。自分に相応しいと思える役割を」

 ……それは、つまりそういうことなのだろう。それがエルーなりのおれへの答えというわけだ。わかってはいた。変わらないことは知っていた。それでも、僅かな可能性を信じたかったのだ。

 風がおれたちのあいだを通り抜けていく。

 おれは湧き上がる感情を押し殺しながら、最後に言った。

「さようなら、エルー」

読んでいただき、ありがとうございました。

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