52nd Card ブルーモーメント
最終回です。
ブルーモーメントというのは、朝の5時頃に世界が真っ青になっている時間のことを指すのだそうです。
ついに皇帝は倒れた。そう思うと気が緩んで一気に崩れ落ちてしまいそうだ。おれは刀を支えにしてなんとか体勢を維持する。そんなふらふらで意識が朦朧とした状態で、床に落ちている黄色のカードと赤のカードを拾いに向かおうとする。いや、待て。他にもやることがあるはずだ。
「木崎」
絢十に呼ばれた。振り返ると、ボロボロな絢十が立っていた。いや、絢十だけじゃない。雅志も瀬戸も、みんなボロボロだ。服は所々破れ、身体は傷だらけ。出血もある。それに、いまいるこの部屋も壁は崩れているし、床は凹んでいるしで立派にボロボロと呼べる状態だ。
「木崎は早く、あの子のところに行ってやれよ」
絢十は親指で背後にある扉を指した。さっきの戦いでドレンが出てきた扉だ。
そうだ、エルーを助けてやらないと。あいつはマナを奪われているはずだ。忘れていたわけではないが、おれの思考が追いついてきていない。
うなずき、エルーが囚われている部屋へ向かった。鍵はもちろんかかっていない。スライドしてドアを開ける。窓のない暗い部屋だ。左右は狭く、前後が長い。そのせいか奥のほうは全然見えない。元々なにを目的として使われていたのかはわからない。皇帝たちによって改造でもされたのだろうか。目を凝らし、壁に手を当てながらなかへ入る。
「エルー、助けにきた」
部屋の奥まで届くほどではないが、声をかけてみる。微かに動く音が聞こえた。早くマナを分けてやらなければ危険な状態かもしれない。おれはできるだけ早く進む。
「……いち……さ……」
いまにも途切れてしまいそうなほどか細い声が、おれの耳に届いた。
「エルー!」
すぐに声の居場所を突き止め、そこへ駆ける。
暗がりに慣れたおれの目が、うつ伏せになっているエルーの姿を捉える。すぐに抱えて呼びかける。
「エルー、大丈夫か?」
思わず揺らしてしまった。それでようやく、彼女の目が開く。随分とマナを吸われたのだろう。体調不良というレベルを通り越して、衰弱している。
「けん……いちさん」
ひとまず会話はできそうだが、早くなんとかしないと手遅れになる。マナの流れは見えないが直感がそう告げている。おれはエルーを支えていない右手を、彼女の額の近くでかざした。
「すまない、遅くなって」
「いえ、私のほうこそ、迷惑をかけて……」
多分、エルーのせいではない。どちらかと言えばエルーを一緒に連れて行かなかったおれのせいだろう。
「けんいちさん、こんなにボロボロになって……」
エルーがおれの腕を掴んだ。いや、掴むというよりかは添えるといったほうが適切かもしれない。力はまったく感じなかった。
「お前のほうこそボロボロじゃないか。もうしゃべるな」
と、言ったのだがエルーはまだ会話を続ける。
「ここにいても……聞こえていましたよ。けんいちさんが、戦っている声や……苦しんでいる声。私、それを聞くことのほうが……辛かったです」
だからいまは辛くないと? ご冗談を。おれは見ていられない。
「もういい」
だから話すな、と言いかけたとき、エルーがおれから身体を離す。まだそこまで動けるほどではないだろう。
「けんいちさん、本当に、ありがとうございます」
なにをするのかと思えば、深々と頭を下げてきた。
ああ、そういうことか。
その姿を見て、おれは気づいたのだ。役割だからエルーを助けに来たのではないということに。おれは、自ら望んでエルーを助けに来た。そしてこの発見は新たな謎を生むことになる。胸の奥でなにかが熱くなるようなこの感覚はなんだろう。
エルーが顔を上げる。目が合う。おれは咄嗟に視線を逸らす。
「もう、大丈夫です」
「いや、でも」
おれは手をエルーに向けたままでいる。
「立てますよ」
エルーはその場に立ってみせた。ほら、と身振りまで丁寧に加えて。しばらく無言で見てみる。本当に倒れたりしないか心配だった。
エルーは、自然と周りからマナを吸収することができる。きっと、おれが分け与えているあいだにもそうしていたのだろう。もしかしたら、カプセルから解き放たれたマナの残りを吸収したのかもしれない。
「……わかった。帰ろう、エルー」
「はい」
笑顔でうなずいた。久しぶりに、彼女の微笑む姿を見られた気がする。
エルーを支えながら牢屋のような部屋から出る。
「シャドウくん、解放のカードを返してくれないかな」
部屋から出た途端、なにやら雅志の険しい声が聞こえてきた。普段聞きなれない口調であるだけに、不穏な空気を感じる。そういえば、雅志は解放の力と戦っていたわけだが、なぜかシャドウがそのカードを持っている。さっきまで戦闘中だったから気にしていられなかった。二人のあいだにどのようなやりとりがあったのだろうか。
「どうしたんだ」
小声で絢十に状況を確認する。
「シャドウが解放の力を奪ってたんだ」
奪っていた、だから「返せ」と申し立てているということか。
もう皇帝は倒された。しかもシャドウの手によって。一応、あいつが最強のモンスターになったということでいいだろう。だからもう、解放の力を持つ必要はない。
雅志はおれたちに背を向けたままのシャドウに近づく。
「ねえ」
「そうだな、これは返すよ」
シャドウが振り返り、雅志に青のカードを差し出す。
「あいつ気に入らない。なにか企んでる」
瀬戸はシャドウから目を離さずに言った。
雅志が青のカードを受け取ろうと手を伸ばす。そのときだ。シャドウの身体が光る。
まさか解放の力を使ったのか。
「ははははは! いまのおれは最強だ。最強の状態で解放の力を使ったとき、おれはどのような変貌を遂げるかな?」
シャドウから放たれた光が周囲を包んでいく。あまりのまぶしさに顔を手で覆った。光のなかで高笑いが響き渡る。やがて笑い声が低くなり、建物が揺れる感覚がする。さらに上のほうから崩れるような音がした。
それから間もなくして光は収まり、視界が使えるようになる。最初、正面になにがあるのかわからなかった。ただなにか良くないことが起きたということはわかる。シャドウの姿は見えないが、暗い色のなにかが目の前にある。鱗のようなものまである。
おそるおそる上のほうへ視線をずらしていくと、巨大なドラゴンがこちらを見下ろしていた。体長、およそ二十メートル。さすがに天井を突き破る大きさだ。体色は群青。稲妻状の髭を生やしている。広げれば体長を超してしまうほどの翼も備えている。
これが、解放の力によって覚醒したシャドウだと……。
戦闘力どころが、見た目まで激変してしまった。
シャドウが、いや、シャドウドラゴンが空に向かって吠える。轟がおれたちの身体を震わせた。
「見よ、これが俺の真の姿だ! すべての頂点にして終焉、我が名はシャドウ!」
ボイスチェンジャーを使ったようなくぐもった声で言った。
シャドウドラゴンは高らかに翼を広げると上空へ羽ばたいていく。それによって生じる突風がおれたちに襲い掛かる。崩れた天井や壁の一部は吹き飛ばされ、本部の外へ落ちていく。おれたちは飛ばされないように踏ん張るので精一杯だった。
五十メートルほど離れたところでやつは滞空する。
「まずはお前たちで、俺の力を試してやる」
シャドウドラゴンは大きく息を吸い込む。今度は上空へ引っ張られそうになった。さすがに踏ん張るだけではどうにもならないので壁に掴まる。シャドウドラゴンの口のなかには、なにか光るものが作られている。
嫌な予感。
吸い込みが終わる。ようやく自由に動けるようになった。
「みんな逃げろ!」
どうにかなるだろうというよりかはどうにかしなければいけないという感情のもと、エルーを抱えて動く。天井や壁が崩れていたおかげで、おれたちはH.O.P.E.の最上階から飛び降りることができた。
シャドウドラゴンの口から光線が吐き出される。見た目だと絢十のラストシューティングの上を行く威力のように思える。なんとか攻撃を凌ぎ、近くのビルの屋上に着地したときにはH.O.P.E.の最上階はもちろん、その下に続く階層は見事に粉砕される。本部は半分ほどの大きさになってしまった。
シャドウドラゴンはおれたちに追撃してくることはなく、ゆっくりと地面に降り立った。手当たり次第、近くにある建物を壊し始める。ひたすら手を動かしている。目に映る建物を壊すのが楽しくて仕方がないという様子だ。
「せっかく皇帝を倒したっていうのに。やっぱりモンスターなんて信じられない」
瀬戸が吐き捨てる。眉間に皺まで寄せ、そのままビルの下へ飛び降りる。そのままシャドウドラゴンへ向かっていった。
「早くあいつを倒さないと。この町から出ていくと取り返しがつかなくなる」
雅志が遠くで暴れているシャドウドラゴンを眺めると、瀬戸と同じくシャドウドラゴンのところへ向かう。
「待てよ、二人とも!」
しかし、先に行った二人におれの声は届かない。
まだ作戦を立てていないというのに。あんな大きくて規格外の強さを持つ敵を相手に真っ向から戦いを挑んでも勝算は見えない。だからこそ、四人で力を合わせて行動するべきなのに。「木崎、今回ばかりはあまり悠長な時間はないみたいだぜ」
シャドウドラゴンは次々に建物を破壊していっている。ここら一帯の建物がなくなるのも時間の問題だろう。そうなれば次にやつが向かうのは、別の町だ。絢十の言う通り、時間は残されていない。
神の力を封じたのはいいが、結局おれたちに余裕はないのだ。
「……そうだな」
考えるのは後回しだ。いろいろと試してみるしかない。
「よし、おれたちも攻めよう」
そうと決まればエルーをここに置いておくわけにはいかない。アウェイクニングを使い、ウェアドの身体能力を借りる。絢十も同じくフュージョンを使った。翼が生えていることから、感覚を鋭くさせる力と融合したのだろう。
再びエルーを抱え、地上に向かって飛び降りる。着地して、エルーを降ろした。
「お前は安全なところに隠れてろ」
シャドウドラゴンが進行している方向とは逆を指して言った。
「けんいちさん」
エルーが言いかけて視線を逸らす。
「どうした」
もしかしてまた、おれが役割を果たすところを見たいと言いたいのだろうか。今度ばかりは敵が巨大過ぎるのでさすがに無理だとわかってくれるだろうが。それに、もうモンスターは残っていない。彼女を一人にしても捕まえようとする存在はいないはずだ。
「……私は、あなたが役割を果たすところをこの目で見たい、そう言いたいです。しかし、さすがに相手が悪すぎますね。ですから、代わりの言葉を言わせてください。私もあなたとともに戦っています」
「ああ」
うなずく。
エルーはそこから動こうとはしない。
おれと絢十は、シャドウドラゴンへ滑空して向かうことにした。途中、何度か後ろを振り返ってみたが、やはりエルーはじっとこちらを見つめていた。
「気になるか?」
不意に絢十が尋ねてきた。
「……いや」
そう返すと、絢十は笑ったようだった。
「大丈夫、オレたちなら終わらせられるさ」
「そうだな」
終わらせる。いや、終わらせなければならない。
前方には瀬戸と雅志が攻撃の手を止めて立ち止まっていた。先へ進むシャドウドラゴンをただ見つめているようだ。
「二人とも大丈夫か」
着地し、様子を窺う。
「全然攻撃が効かない。それどころか、わたしたちを無視してやがる」
瀬戸が舌打ちする。大丈夫そうだ。
「いまのぼくたちじゃ力が足りないみたいだね」
瀬戸でさえ歯が立たない相手に、普通の状態で挑んだところで結果は見えている。エナジーカードを使うしかない。コピーのカードを使って瀬戸の分も用意し、それを渡した。
「二人もエナジーカードを使え」
「やっぱり、そうなるよね」
雅志はデザートイエローのカードを出す。マルチプルだ。
「気をつけなきゃいけないのが、エナジーカードを使っている状態だと、守護者の攻撃は通るってことだね。ぼくはそれで足を怪我した」
ほう。それは知らなかった。たしかに、以前やったようなだれかがモンスターを押さえて、ほかの守護者に攻撃させるといった作戦は取れない。もっとも、今回の相手にそれは不可能だろうが。
雅志と瀬戸もエナジーカードを使った。これにて全員が変身を完了させたことになる。
「行くぞ!」
おれたちは空中移動をしてシャドウドラゴンに近づく。
絢十の光弾がシャドウドラゴンの顔面に当たる。雅志が腹を突く。瀬戸が背中から斬りつけ、おれが胸に斬撃波を撃つ。どの攻撃も防がれることなく命中した。おれたちの攻撃力はたしかに上がっているはずなのに、シャドウドラゴンは依然健在。耐久力が人型のときの比ではなくなっている。
「効いてない……うわっ」
シャドウドラゴンの尻尾が鞭のようにしなやかな動きを見せ、瀬戸を叩き落とした。彼女は近くに建物に激突し、煙が上がる。
「瀬戸!」
助けに行こうとした絢十だが、シャドウドラゴンの左手に捕らえられてしまう。抜け出そうとする絢十だが、明らかに力で勝れる相手ではない。さらにやつは、口を大きく開けて息を吸い込み始めた。先ほどの光線をもう一度出すつもりだ。あんな攻撃を間近で受けたらいくらなんでもひとたまりもない。おれは高速でシャドウドラゴンの顎に向かった。
光線が吐き出される寸前に、顎に突進を食らわせる。これで攻撃の方向を変えてやろうと思ったわけだが、おれ一人の力ではどうすることもできない。
両手で押してもびくともしない。とうとう光線が放たれてしまった。
「絢十!」
絢十のほうを見る。どういうわけか、光線は彼にぶつかる手前で止まっているようだった。いや、鎧を装備した雅志が盾となって攻撃を受け止めている!
「おい、普久原!」
「なんのこれしき……!」
光線と拮抗している。しかし、鎧にはヒビが入っているのが見えた。もう持たない。絢十を早く解放しなければ、雅志の行動を無駄にしてしまう。刀身に力を込める。それを思い切り振り、絢十を捕まえている左手に斬撃波を飛ばす。さらに絢十も接射することでようやく手が緩んだ。絢十はすぐにそこから離れる。
「雅志、絢十は大丈夫だ! お前も避けろ!」
しかし雅志はその言葉が届く前に光線に敗れる。遠くまで吹っ飛ばされ、遠くの建物にぶつかった。
「雅志!」
なんてことだ。二人とも大丈夫だろうか。
そんな心配をしていると、巨大な手がこちらに向かってくる。空中を翻して回避し、距離を取る。絢十と並ぶ形となった。シャドウドラゴンは上空へ逃げたおれたちに目もくれず、再び暴れて建物を壊していく。
戦力は一気に二分の一。この状況でどう戦えばいい。思わず、絢十の顔を見てしまう。
「オレはあいつを倒す良い策が思い浮かばない。でも、このままじっとしてはいられない。少しでも多くのダメージを与えてやりたいんだ。だからオレが攻撃してるあいだに、木崎は作戦を考えてくれ」
「おい待て、絢十!」
おれの制止も聞かず、絢十はシャドウドラゴンへ挑みにかかる。
闇雲に立ち向かって勝てる相手ではないことははっきりしている。どういう策で倒せばいい? 圧倒的な体格差、力量差、火力差。どれをとってもステータスにおいて分が悪すぎる。
絢十が二人になる。青のカードを使って分身した。
そうだ、シャドウドラゴンに唯一勝っているといえた点は数だ。そこで上手いこと、なにか思いつかないだろうか。四人で黒のカードを使って攻撃すれば活路は見出せたかもしれない。いまは二人、いや三人か。でも、それしかやれることはない。
「絢十、黒のカードを使って攻撃だ!」
遠くから伝える。絢十は「了解」とつぶやき、うなずいた。おれと絢十、そして絢十の分身に黒のカードが握られる。絢十と分身はシャドウドラゴンを真正面から挟んだ位置にいる。おれはシャドウドラゴンの右手側で滞空している。
照準を合わせた銃口から無数の光線がシャドウドラゴンを狙う。しかも前後から。そして左右からはおれの【斬破烈葬】。四方位からの同時連続攻撃。果たして耐えきることはできるか。
「莫迦が!」
シャドウドラゴンは身体を大きく開き、衝撃波のようなものを放った。あまりの威力に、絢十の攻撃が跳ね返されてしまう。光弾は絢十とその分身に直撃した。分身は消滅し、絢十も地上へ落下することとなる。
「絢十!」
助けに向かおうとしたが、シャドウドラゴンが手を振ってきたことで阻まれる。回避はできたが、バランスを失い、近くのビルの窓を突き破ってなかに入る。
「ははははは! 残る守護者はお前だけだ、木崎剣一!」
シャドウドラゴンは高らかな笑いとともに巨大な翼を動かし、夜空に舞い上がる。魔竜の姿が月と重なった。
「こんな町吹き飛ばしてやる。小蝿のごときお前たちに、もう用はない!」
大きく息を吸い込む。風が生まれ、シャドウドラゴンに向かっていく。口のなかに光が作られる。
あの光は、おれたちを消し去る絶望。
諦めないと誓った。守護者が諦めてはいけないと、おれは理解している。しかし、ここまで強大で凶悪な敵は初めてだ。
おれは地上に降りて膝と両手を地面につける。
勝てないのか。
ここまでいくつもの戦いを切り抜けてきたのに。
皇帝も倒し、エルーを救い出したのに。
シャドウドラゴンは長く息を吸い込んでいる。吐き出される光線は先ほどの威力のさらに上をいくだろう。たしかにこの町を壊すにはもってこいの技だ。どうすることもできない。
「けんいちさん!」
遠くからエルーの声がした。こちらに駆け寄ってきている。
「なんで来た、お前は逃げろ!」
「これを使ってください!」
エルーの手には一枚の青のカードがある。それを手渡された。このカードは、解放の力だ。
「さっき落ちているのを見つけました」
そうか。シャドウが使ったあと、落としたままだったのか。
だが、これ一枚でなにができる。おれ一人になにができる。
「お前だけでも逃げてくれ、エルー」
「逃げませんよ」
静かだが力強い口調で返してきた。
「私はけんいちさんが守護者として戦う姿を見届けると誓いました。そのためにも、私はこのカードを渡しに来たんです。だから逃げません」
「エルー……」
おれとエルーのあいだを風が通り抜けていく。
瀬戸も、雅志も、絢十も倒れた。やつに立ち向かえるものはおれしかいない。
ふと、握っている刀を見つめる。
守護者の得物。
いままで幾度も一緒に戦ってきた。そして今日が最後になるだろう。だから、おれに力を貸してほしい。
刀から粉雪ほどの小さな光がこぼれる。その光は少しのあいだ、宙をさまよっていた。
奇跡だった。おれは視界の隅に映り込んだそれを見つけたのだ。無我夢中で走り、それがあるところまで向かう。
「けんいちさん!」
エルーには逃げ出しているように見られたかもしれないが構わない。
地面に転がっている拾い上げたそれは、守護者の得物。ロスト・ガーディアンの得物である大剣だ。
「それは……?」
追いついたエルーが尋ねた。
「最後の守護者の得物だ」
大剣に青のカードをかざす。かけられた封印から解放させる。すると、大剣から金色の光が噴水のように溢れ出す。その光が大剣を包み込んでいく。また、その最中にどこかからか飛んできた光が大剣のなかに入っていった。やがて、大剣は失われたその輝きを取り戻す。
モンスターに利用されっぱなしで終わらせたりしない。これでみんなを守ってみせる。
おれは刀と大剣を合わせてみた。特に理由はない。直感でやってみようと思った。その瞬間、二つの得物が一つになる。どのような武器になるのかと思ったがなんのことはない。おれの刀が少し長くなっただけだった。
「けんいちさん」
エルーは真っ直ぐにおれを見つめている。
「あなたは守護者です。絶対に負けません」
「ああ」
シャドウドラゴンの攻撃の準備はすでに整おうとしている。上空へ向かって飛んだ。
おれは一人なんかじゃなかった。ずっと、先代の守護者とともに戦ってきたのだ。それはいまも変わりはしない。
「消えろぉ!」
シャドウドラゴンの口から青白い光が吐き出される。
感じる。絢十が、雅志が、瀬戸が、エルーが、みんながおれに力を与えてくれている。
負けない。おれは絶対に負けない。
光のなかに入る。痛みは感じない。ただひたすら突き進んでいく。
これが、最後の瞬速斬だ。
シャドウドラゴンの身体を一瞬のうちに刀で斬りつけ、やつよりも空高くに舞い上がる。そのとき、東の空が真っ青に染まっているのが見えた。おれの下では青白い光の粒子となるシャドウドラゴンがいる。世界は一瞬だけ、青く染まっていた。
長い夜が、明けていく。
エピローグ、あります。




