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STRUGGLE  作者: 春巻き系男子
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49th Card 一パーセントの閃き

 ヴェルティナにやられた背中の傷は、マナの消費と時間の経過とともに勝手に癒える。しかし、一人で戦っている状況下でマナを頻繁に使っていては、ヴェルティナ一人をどうにかできたとして、先に待つ皇帝を倒すことはできないように思える。だからいまは、背中の傷を癒すほうにマナを回すわけにはいかない。

「ほらどうしたの? かかってこないのか?」

 ただの【瞬速斬】でヴェルティナに勝つことはできない。【連続瞬速斬】をやるにしても、先ほどのマナの消費が気になるところだ。黒のカードをもう一度使うのなら、アウェイクニングを使用してマナが増えた状態であるのが最適条件だろう。

 北条が残したワインレッドのカードを出す。他の手札のカードは、衝撃波、コピー、武器強化、風の力の四枚。

「かかってこないのなら、こちらから行かせてもらおう」

 カードを使うよりも早く、ヴェルティナの姿が消える。

 どこから来る。

 前か。後ろか。意識を集中させる。

 ……後ろ!

 気配がした方向に振り向くと、剣を振るうヴェルティナの姿がある。迫ってきた一撃を受け流し、反撃の刃をぶつけようとするも瞬間移動によってこちらの攻撃は当たらなかった。だがアウェイクニングを使うのならいまだ。

 身体の底から力とともに熱が湧き上がってくるのを感じる。同時にマナの流れが見えるようになる。おれの目の前にあるカプセルの中身が、やはり奪われたマナであることは一目瞭然だった。

 玉座でふんぞり返っていた皇帝がわずかに前に乗り出す。

「そんな姿、見かけ倒しだ!」

 ヴェルティナが大きな声を出す。瞬間移動を連続で発動した。あちらに現れたと思いきや、別の場所に現れるといったように混乱させようとしている様子だ。だが、それは無意味だ。

 やつはおれの左側に現れる。その瞬間に、右の脇腹から左肩にかけて斬り上げた。ヴェルティナが宙に舞う。そこで二度目の黒のカードを使う。【斬破烈葬】発動。

 空中のヴェルティナに向かって刀を振り、放った竜巻で拘束する。そして、やつを中心にした四角形を描くように瞬間移動しながら、斬撃波を放つ。四度目の斬撃波の後、【瞬速斬】でヴェルティナの下方から突撃し、頭上からも【瞬速斬】を食らわせる。さらに折り返して攻撃の往復をした。

 最後の一撃を終えて着地すると、わずかに遅れてヴェルティナが床に落ちる。

 いまの攻撃は、アウェイクニングを使っているぶん、通常よりも威力が増している。なにより、瞬間移動させる余裕を与えなかったことが大きい。

「まだだ……」

 ヴェルティナがよろよろと立ち上がる。

 やつの身体からマナが抜けていくのが見えている。どんなに強がって見せても、もう勝負は決している。やつが斬りかかってくるが、少し動くだけでかわすことができた。ヴェルティナはそこで力を使い果たしてしまい、倒れる。

「陛下……」

 まるで助けを求めるかのように、皇帝へ手を伸ばしている。だが、無情にも皇帝はなにもしない。

 ヴェルティナの身体が黄色の光を帯びる。それが消えると、一枚の黄色のカードだけが残っていた。

「ヴェルティナを倒すとはな」

 予想外だったと言いたいようだが、そうは見えない。おそらく、ヴェルティナは時間稼ぎに過ぎなかった。

「覚悟はいいな、キサキ・ケンイチ」

 いよいよ正面衝突というわけだ。いま黒のカードを使ったばかりで、次に使うにはまだ時間がかかる。戦いながらマナを溜めていくしかない。

 皇帝が玉座から立ち上がる。まるで空気が揺らぐ感覚がした。


 シオエルドの十数回目の攻撃をもらいながらも、まだわたしは耐えていた。防御力が上がっているとは言え、いくらなんでも我慢と体力の限界というものだ。ずっと反撃の機会を待っていた。そろそろいい頃合だろう。わたしにしてはよくやったほうだ。

 シオエルドの能力は、人の行動を操るというもの。こちらの動きを封じ、一方的に攻撃するといった戦法を取ってきている。シオエルドの術を受けると、抜け出すのは非常に困難なものとなる。何度か抵抗してみたが、全然動けなかった。

 ただし、隙がないわけではない。

 攻撃の一瞬、強く赤い光の剣を振るときだけは、わたしを縛る力が弱まる。ほんのわずかな時間なので気づくのに随分と時間がかかってしまったが、わかってしまったからにはあとは機会を待つだけだった。

 シオエルドのマナは四割ほど消費している。抵抗する相手の動きを長らく止めるというのも結構な力が必要なのだろう。

 剣が頭上に上がる。

 チャンス到来。力がわずかに弱まる。わたしはトリニティの力を使いつつ、全力で抵抗を試みることにした。

「まだ、抗う力が残っていたか」

 剣を動かす腕が止まり、わたしを縛る力が強まる。

 やっぱりそう簡単に抜け出せそうにはない。でも、ここで諦めたらわたしの我慢が無駄になってしまう。体力的にも次はありえない。絶対に抜け出してやる。わたしは出せる限りの力を出す。徐々に、わたしの身体が動いていく。

「なかなかやるな。だが、甘い」

「うわっ」

 せっかくわたしのコントロールが戻ってきたところだったのに、一気に奪われてしまった。わたし一人じゃモンスターの女帝には勝てないということなのか? 諦めたくはない。モンスターなんかに負けたくなんかない。しかし、ついに見つけた希望もすでに隠れてしまった。

 抵抗を続けていた力が弱まっていく。わたしの身体は再び動きを封じられる形となった。

 もうだめだ。

 わたしにはこのままシオエルドに打たれ続けて死ぬ未来がわかる。これ以上の抵抗ができない。

 お母さんと奈美に、会えるかな。

 剣が振り下ろされる。スローモーションのように、動きの一部始終が見えた。

 そのときだ。シオエルドの後ろにお母さんと奈美の姿が現れた。二人は静かに首を振っている。

 まだ。

 まだ、わたしは。

 わたしは叫び声を上げながら、拘束から抜け出そうとする。

「なんだ、この力は!」

 シオエルドは馬鹿だ。攻撃する一瞬に、術の力が弱まることをわかっていない。でも、それをもっと早くに利用しなかったわたしも馬鹿だ。お互い馬鹿だから、最後は力の比べ合い。いまのわたしの力を、シオエルドは止めることができるか。いや、わたしたちの力を止めることができるか。

 どんどんわたしの腕は広がっていく。足も一歩を踏み出そうとしている。

「馬鹿な。信じられない」

 わたしは長刀を両手で持つ。鋒をシオエルドに向ける。長刀を振り払おうと、シオエルドは剣で弾いてくる。

 一気にわたしを縛る力が弱くなった。

 わたしは瞬時に間合いを詰め、シオエルドを斬りつける。呻き声が部屋に響く。まだ終わらせない。振り返り、一撃、二撃、三撃と仕返しの如く斬っていく。防ぐ暇を与えなかった。

 受けた傷が痛み、途中で攻撃を止める。シオエルドはここぞとばかりに距離を取り、近くのテーブルを蹴飛ばす。お互い肩で呼吸している。そろそろ、決着がつく。

「やはりお前を敵にするには惜しい。その力は是非とも妾のそばに置き、手足となってもらいたかった」

「そんなの、死んだほうがマシ」

 言葉を吐き捨てる。

「ならば、死ね」

 シエオルドが剣を一振りして、迫ってくる。わたしも真っ向から向かっていく。

 まだ死ねない。犠牲になった二人のためにも、ここで死ぬわけにはいかない。

 剣と長刀がぶつかる。わたしはすぐさま二撃目に移る。だが、軌道が逸れてシオエルドに当たらなかった。隙が生じた脇に一撃もらう。身体が壁に叩きつけられる。背後でぱらぱらと壁の一部が崩れる音がした。立ち上がり、長刀を構えて考える。

 さっき、シオエルドはわたしの身体を一瞬だけ操った。動きを止めるよりかはマナの消費が少なく扱いやすいということなのか、やつのマナはそこまで消費していない。接近戦だとまた攻撃の軌道を変えられて当てられなくなる。馬鹿なりに考えて戦わないと、本当に次がない。

「どうした。死ぬ覚悟ができないのか?」

 やつの言葉は癪に触るけれど、いまは無視。

 術にかからずにどうやって攻撃するか。スピード勝負にマナを使うくらいなら、黒のカードで一発決めたほうが確実だろう。わたしが使えるのは、威力の高い一発を打つ技、素早い連続攻撃を繰り出す技、重力操作の力を使って叩きつける技の三つ。三つ目の技をやるのはこの空間では狭い。やるなら一つ目の技か二つ目の技だ。

 わたしは黒のカードを出す。

「愚か者が!」

 シオエルドの掌からマナが飛んでくるのが見える。避けきれず、それがわたしの手を掴んだ。手は勝手に動き、黒のカードを放り投げてしまう。

 シオエルドが猛スピードでこちらに向かってくる。拾っている余裕はない。一か八か、賭けてみよう。

 わたしは重力操作の力を使う。範囲は、わたしの前方の空間だ。

 剣を突き出したシオエルドの身体が空中に浮かぶ。さらに、置いてあった椅子や長テーブルまでもが宙に漂う。無重力空間を作り出すことができた。シオエルドは身体の自由がきかないまま、空中で手足を動かしている。

 黒のカードを再び出し、発動。

 壁を蹴り、その勢いを利用して突撃する。腕に力が集まり、長刀が光り輝く。力が集まってくるのがわかる。空中で身体を縦に回転させ、重くなった長刀を一振り。同時に重力操作をやめる。一撃をシオエルドに叩き込んだ。ドン、と音が響き、部屋が揺れる。宙に浮かんでいたものもすべて落ちた。変化したわたしの姿は元のものに戻る。

 着地してシオエルドを見ると、身体が赤く発光している。強い相手だった。わたしが戦ったなかで間違いなく最強の相手だ。そして、因縁の相手。それをわたしはこの手で打ち破った。

 シオエルドは憎らしげにこちらを睨んでいたが、なにも言わずにカードへと還元される。残った一枚の赤のカードを拾い上げた。


 ヘビ頭が作った幻想空間は、マナでできている。あちこちにマナの流れが見える。加えて、木崎とファジニの幻もマナで作られたものだ。

 幻とはいえ、木崎の動きは本物のそれに等しい。刀での一撃をかわすも、すぐさま二撃目が飛んでくる。隙がない。本物と変わらないというのはファジニにも言えることだ。杖から火球を飛ばしてくるのも相変わらず。この二人を同時に相手にするというのは、ここまでオレを苦しめるものなのか。むしろ、二人だけで良かったと前向きに考えるしかない。

 ヘビ頭を撃つが光弾を木崎に刀で弾かれ、ファジニには炎の鎧で耐えられる。二人の幻を操っているヘビ頭を仕留められれば話は早いのだが、木崎とファジニが必ず妨害に入ってくる。

 今回もだめか。もっと手っ取り早く攻撃できれば攻略できるかもしれないが。ここで黒のカードを使うべきか、迷いどころだな。

「ご自慢の射撃も、今回は無意味なようじゃな」

 それはまだわからない。

 木崎が接近してくる。オレは耐久力が上がるモンスターと融合している。一撃くらいなら余裕で耐えられるだろう。刀が振られる。その攻撃を右腕で受ける。

 ……結構痛い。

 すぐさま木崎の腹に銃口を近づけ発射。木崎が後方に吹っ飛んだ。見れば横たわっている木崎の身体からマナが流れ出ていく。効果ありか。そう思ったのだが、周囲から木崎に向かってマナが逆流していく。マナを吸収すると、木崎は起き上がった。

「この空間内で我輩の幻は滅びぬ」

 そのようだ。厄介な相手だな。

 ファジニが杖を掲げる。杖の先に炎の眩しい球体が現れ、そこから人の拳くらいの火の粉が飛んでくる。さすがにこれを耐えるつもりはないので避ける。どういうわけか、この空間内で行き止まりというものにぶつかることはなかった。ファジニの能力がここではあまり活かされないというのは救いだ。ヘビ頭へ狙い撃ちを試してみるも、やはり木崎が遮ってきた。

 この空間の支配者に攻撃しようにもそれを妨害してくる幻が二体いる。その幻を倒そうとしても、この空間内では不死身。つまり、この空間をぶっ壊さなければ、キリがない。そんなことができるのか。

 オレは闇雲に発砲してみる。

「ついに見境なしに撃つようになったか」

 ヘビ頭は笑い声を上げているが気にしない。

 光弾は空間の端でなにかに当たったかのように弾けた。すると、その部分に流れているマナが消える。

 へえ。

 炎が飛んでくるので回避する。木崎はヘビ頭を守るためか動かない。持久戦になった場合、苦戦を強いられるのはオレとヘビ頭のどちらだろう。いずれにせよ、考えてる暇はない。

 これまで様々なモンスターと戦ってきたけれど、空間を相手にしたことはなかった。マナは充分残っている。やってみるか。

 オレはフュージョンの効果を取り消し、元の姿に戻る。普通の視界が随分と懐かしいものに感じらえる。かえって、マナの流れが目視できないことに違和感を覚えてしまう。

「おや、ついに諦めたのか?」

 ヘビ頭の舌の出し入れが一層速まる。

「そいつは違うな」

「ほう。では、どうするつもりなんじゃ?」

「こうするんだよ」

 オレはもう一度、フュージョンのカードを出す。次に融合するのは、このカードだ。

 炎を操る力。

 再び視界がマナの流れがわかるものになり、力も身体の奥底からみなぎってくる。先ほどフュージョンを使ったときとは違う姿に変わった。肌は鱗のようなものになっており、胴体にはファジニが身につけていた装飾が施されている。

「今更、ファジニの力を借りたところでなにができるというのじゃ」

 オレも初めてこいつと融合するから、なにができるのかよくわからない。なんとなくこれはできるのではないかという予想で動いているだけだ。

 引き金を引いてみる。標的は、空間の端。

 銃口から吐き出されたのは光弾ではなく、火球。やはり、ファジニの力が反映されている。火球が当たった箇所は焦げ目がつき、そこから少しずつ穴が広がっている。穴の向こうの景色もはっきりとわかる。H.O.P.E.本部の廊下がそこにはあった。

「馬鹿な!」

 マナさえも焼き尽くすファジニの炎。フュージョンを使ったおかげで弾数も増えている。この力、上手く利用させてもらおう。

 四方八方を撃つ。すると、着弾した場所には焦げ目がいくつもできた。

「やめろ!」

 やめない。撃ち続ける。幻想空間は穴だらけとなった。焦げ目によって、穴は広がり続けている。

「ええい、止めにかかれ!」

 木崎が遠くから刀を振って斬撃波を放ち、ファジニは杖から火球を飛ばしてくる。すべてかわし、二人に向けて引き金を引く。銃口から吐き出された火球は二人の腹部を貫く。先ほどと同様に木崎とファジニの身体からマナが出ていく。その傷を修復しようと、空間から二人にマナが流れてくる。ただし、違うこともある。彼らを修復しようとマナは逆流しているが、それよりも速く焦げ目が広がっているせいで追いつかない状態だ。さらに幻想空間のマナは、空間そのものを修復しようともしている。あっちもこっちも向かわなければいけずに、どちらも手付かずになっていた。

 これでもう、ヘビ頭の手下は使えない。黒のカードを出す。

「おのれぇ!」

 ヘビ頭は杖を一振りする。やつの前にマナが撒かれ、それが複数の人型を形成していく。最後の足掻きというわけだ。いいだろう、ここがヘビ頭の最終地点だ。

 黒のカードを発動する。すると、ヘビ頭を挟んで向こう側にもう一人のオレが現れた。どうやら、この前のファジニとの戦いでやった攻撃を、黒のカードは覚えたようだ。それを最大攻撃力で撃ってやる。

 銃口をヘビ頭に向ける。もう一人のオレも同じく狙いを定める。引き金を同時に引いた。火炎放射のように炎が吹き出る。それは空間そのものを焼き、ヘビ頭が作り出していた人型のマナさえも燃やす。そして、目標であるヘビ頭を紅蓮の炎で覆い尽くす。

 空間は焼き尽くされ、H.O.P.E.の廊下に戻る。

 前方と後方からの攻撃を受けたヘビ頭は、その場に倒れていた。やつのマナはもうない。決着はついた。

 ヘビ頭は動かないまま黄色い光を出し、還元される。カードを拾ってふと思う。そういえば名前が最後までわからなかった。


 速さ、攻撃力、耐久力の上昇に驚いたわけだけれども、ネオは跳躍力もかなり高い。あいにく、元々の跳躍力を知らないのでほかの三つと違って比較はできないけれど、浮遊しているぼくに向かって一跳びして斬りつけてくるのには驚かされた。おかげであまり休めなかったし、考えも浮かばなかった。

 空中にいたところで攻撃されるのであれば、マナの無駄遣いだ。ぼくは地上に降り立つ。ネオはまだパワー全開のうえに元気溌剌。黒のカードを使っても倒しきれない。できるだけもっとダメージを与えないと。

「諦めて降りてきたね」

 ネオは笑い、こちらへ走ってくる。その動きは最初に見たオオカミモンスターよりも速い。逃げたところで意味はない。少しでもこちらの攻撃を当てるために、槍を構えて応戦する。

 剣の一撃を槍で受け流す。上手く隙を作らせることができた。柄で胴を叩く。大きなダメージは与えられていないけれど、一撃は一撃だ。距離を取ってから槍を突き出す。が、突きは盾で防がれてしまった。さらに剣がぼくに襲いかかる。槍は盾で捌かれてしまったので、攻撃を防ぐ手段はない。胴体に斬撃を受ける。幸い、鎧は装備しているからダメージは抑えられたけれど、後方に飛ばされてしまった。

 飛行の力で制動をかける。そして地面に槍を突き刺し、地の力を使い、地面を盛り上げる。追撃を狙っているネオの進行を遅らせるためだ。ネオは地面の盛り上がりに素早く反応し、それを避けながら向かってくる。こちらの体勢を整える時間は作れた。

 土の壁はネオが迂回しているあいだに、ぼくの前にできあがる。ネオが来るなら右か左。感覚を集中させる。

 ……正面!

 ネオは土の壁を壊す。粉々となった土が飛んでくる。それに紛れてネオも迫ってくる。

 そのとき、ぼくは閃いた。こんなに冴えわたる瞬間が果たしてあっただろうか? 思わず、ヒャッホーイと叫びたくなる。

 ぼくは地の力を使って、飛んでくる土がネオに向かっていくよう操る。しかし、空中の土は軌道を変えることはなかった。思わず、なんでだよーと叫びたくなる。

 ネオの斬撃をなんとか槍で防ぐ。土煙が舞い上がっている。

「いくら小細工をしたところで無駄だよ」

 ああ、これはかなり侮られている。状況が状況だけに仕方がないけれど。

 さっきの発想、悪くはなかったと思う。きっと、地の力で操るものは地上にないと意味がない。空中に舞った土では効果を成さないのだ。剣と槍の押し合いの最中で、もう一度地の力を試してみる。狙いは、ネオが立っている足元だ。そこを沈めてみせる。できるかな。

 競り合いのなか、ぐにょっとした感触が足元に伝わる。まるで沼に沈んでいくようだ。

 ああ、しまった。ネオの足元とぼくの足元って、そんなに距離がない。

 液状化現象を起こせたわけだけど、ぼくも一緒に沈んでしまう。自分が出した術にはまるとはなんとも間抜けな展開だ。

「またお前がやったのか。こんな術、僕には効かない!」

 ネオがぼくを剣で押す。そんなことで液状化が収まるわけではない。ぼくらはどんどん沈んでいく。ジャンプしようとしても抗力がないからできない。効かないと言っても、それは強がりにしかならない。でも、ぼくには飛行の力がある。それを使って空中に上がる。

「逃がすか」

 がしっと足首を掴まれた。上空を目指していた身体が下に引っ張られる。

 このまま上昇を続けるとネオの脱出も許してしまう。ぼくは槍で抵抗する。放してくれ。何度も槍で叩く。叩くだけじゃ意味がない。槍で足首を掴む手を突き刺す。

 痛い!

 守護者の得物は人間を傷つけることはできない。それなのに槍はネオの手を貫き、ぼくの足に刺さる。どういうことだろう。まさか、マルチプルを使っている状態では、得物に人間だと判断されないということなのか。なんにせよ、ちょっと立つのは厳しい状態になったのはたしかだ。

「くそっ」

 ぼくの足にも刺さる勢いで突いたのだ。さすがのネオもようやく放してくれた。その瞬間にすぐさま上空へ向かう。

 そうだ、地面の液状化を解こう。

 すると地面は沼状態から一変し、先ほどまでの地面に戻る。ネオの身体は半分近く地面に埋まったままだ。相手が動けないこの状況なら、ネオに黒のカードの攻撃を食らわせることができる。そして空中からなら、足の痛みは気にせずに済む。【螺旋天翔破】だ。

発動。

 空中で回転をしながら槍を突き出し、ドリルのような動きでネオに向かっていく。

「そんな攻撃、耐えてみせる!」

 ネオは盾で攻撃を防ぐ。回転する槍が盾とぶつかり、激しく火花が散っている。アーザングの手甲を砕いた攻撃だけど、たしかに彼は耐えている。丈夫な盾だ。それを支えている腕も相当なものだ。でも、下半身が地面に埋まっている状態で長く耐え続けることはできない。

 ネオの盾が、砕けた。続いて突進が彼の身体を貫く。

 ぼくの後ろから叫び声が響いてくる。振り向けばネオが青く発光していた。地面から抜け出そうとしているが、それらは空しく終わる。やがて、彼の姿は青のカードに変わる。

 これでひとまずは安心かな。マルチプルから元の姿に戻る。

片足を引きずらせながら、それを取りに向かう。そのときだ、背後から近づいてくる気配を感じたのは。気づいたときには遅かった。ぼくは背中に一太刀受けてしまう。手を伸ばせば青のカードに届きそうな距離に倒れた。ぼくの代わりに、青のカードを拾ったのは黒い衣に身を包んだ男。

「おれの代わりに倒してくれて礼を言うぜ、雅志」

 剣一と同じ顔、同じ声だけど、中身はまったくの別人がそこにいた。

「シャドウ!」

「悪いな、あんまり構っていられる時間はないんだ。それじゃ」

 シャドウはそう言うと飛行モンスターへ姿を変え、H.O.P.E.本部の上の階を目指して飛んでいく。シャドウは皇帝に反旗を翻していたモンスターだ。まさか、皇帝に戦いを挑むつもりなのか。

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