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STRUGGLE  作者: 春巻き系男子
44/54

43rd Card 咆哮

 礼拝堂で北条が言い放った言葉の意味を、理解するのに時間を要した。先ほどまでバッハに関する蘊蓄を述べていたかと思ったら、唐突に自分がモンスターの封印を解いたと言ってきた。様子がおかしいことは誰もがわかっていたが、あまりにも突然の告白に戸惑うばかりだ。どうすべきなのかわからない。

「北条さん、それは……本当なんですか?」

 雅志が尋ねた。ここにいる全員が思っている疑問だろう。

「すべて、真実です」

 様子から察するに、理性はしっかりしている。しかし、こちら側に理性を抑えられなくなったやつがいる。瀬戸が、うおおおおと叫び声を上げた。

「お前か! お前のせいで!」

 礼拝堂に瀬戸の声が反響する。パイプオルガンにも負けない声量だ。瀬戸の眉間には皺が寄り、鬼のような形相で北条を睨みつけている。いまにも飛び掛かりそうだと思っていたら、あいつの手に長刀が握られた。

 おいおい。

「やめろ、瀬戸」

 守護者が人間を傷つけてはいけない。それでは役割を見失ってしまう。

「うるさい!」

 おれの制止を振り切り、瀬戸は北条に向かって勢いよく飛びかかった。それは超えてはいけない一線というものだ。

 北条は逃げる素振りを一切見せない。おれたちは瀬戸を止めようと動くも、瀬戸のほうがわずかに早い。長刀の切先が北条を捉えたかに見えた。が、長刀が北条の身体を貫くことはなかった。守護者が人間を傷つけてはいけないのはもちろんだが、人間を傷つけることもできない。その制約により、長刀は北条の身体の前で動きを止めた。

 高揚した瀬戸の荒い息遣いが聞こえる。溢れ出る怒りのやり場に困っているのだろうか。

「こんな私でも人間とみなされるようですね」

 北条は自嘲気味につぶやいた。できるかどうかはともかくとして、殺される覚悟はできていたようだ。いま死なれても後味が悪い。

「北条さん、おれにはあなたの考えがわからない」

 おれは北条に詳しく話すよう促した。

「まずは、私が解放を思い立った理由から話しましょうか」


 環境が著しく変化していくのに対して、いくら人間が環境に対応できる存在だとしても瞬時に対応するのは難しいことです。長い年月を費やさなければ、適応することはできません。かつて、自然環境の大いなる変化によって多くの生命が絶えました。我々にその順番が回ってきていないだけで、いずれはやってくるでしょう。これを踏まえると、自然環境は私たちにとっての脅威とも呼べるのではないでしょうか。

 ところが、人間にとっての脅威はこれだけではありません。

 か弱い生き物である人間は科学技術を頼り、その恩恵を享受することで文明を発展させてきました。しかし、我々が築き上げてきた科学技術さえも、我々に刃を向けるときがあるのです。人間自身によって脅威を及ぼす場合と、予期せぬ形で暴走し、我々の制御を離れて仇となる場合です。前者は、歴史を振り返ればわかるでしょう。戦争に用いられる兵器の数々は、まさに時代の最先端の科学技術で作られたものが主役となります。そして、後者の最たる例が二次災害です。

 つまり、我々には二つの悲劇的結末が用意されていることになるのです。自然環境に淘汰される未来と自らが創造した力に破れる未来。私は、人類にどちらの道も歩ませたくはありませんでした。そのためには、人類は次なる段階へ、いえ、遥かな高みへ進化するべきだと思ったのです。誰もが強くなり、制御できない力に頼らなくてもいいようにしたい。人間は過去の過ちを振り返り、同じ過ちを繰り返さないことで、未来へ大きく前進できる存在です。そこで目につけたのが、古代の文明で生まれた大いなる力でした。

 古代文明について調べていくうちに、古代の遺物をいくつか見つけ出しました。巨大な剣、白い札、そして以前お話しした古代文明に関する書物です。H.O.P.E.で最も活用したのはこの書物でしたが、私は白い札も使いました。それを読み解き、私は考えました。古代で創られた強大な力を我々に取り込むことができれば、自然環境にも科学技術にも滅ぼされずに済むのではないか、と。

 私はどんな手を使ってでもこの研究を完成させたかった。だからこそ、モンスターの封印を解くことにしたのです。

 モンスターを基に、私たちを救う力を生み出すこと、それを目的とし、辿り着いた答えが、人間をモンスターと同等の力を持った存在に変えることです。


 人間をモンスターに変える力。そんなものを北条は創り出そうとしていたのか。いや、まさか、すでに創り上げていた?

「その力って、もしやこのカードじゃ」

 おれはワインレッドのカード、アウェイクニングを見せる。

「あなたたちに渡した三枚のエナジーカードは、どれも試験段階のものに過ぎません。私が求めた究極の進化の力は、他のカードなしに使えて、尚且つ永久に効果の続く力です」

 エナジーカードはいままでずっと使ってきた。これから迎える最終決戦でも勝敗を決めるうえで欠かせない存在となる。しかし、この話を聞いても平気な顔で使い続けることができるだろうか。完成品ではないのだから、おれたちがモンスターになることはないと思うが。

「では、真相を語りましょう」


 古代の書物に、モンスターが封印されている土地について記されてありました。そこへ数名を引き連れて向かいました。封印の塔があるその場所は、やはり近寄り難い雰囲気が漂っていました。一度の調査で終わらせることができず、何度か赴きました。

 最終的に塔を壊すことを決めました。もちろん、素手や鑿岩機では壊れません。そこで、以前に発見していた巨大な剣を使って壊すことにしました。実は巨大な剣は守護者の得物の一つです、正確には、元守護者の得物ですね。守護者は本来五人いたのです。ロスト・ガーディアンと私は呼んでいます。

 話を戻します。ロスト・ガーディアンの得物は、輝きや選ばれた人間しか使えないという制約を無くしていましたが、封印の塔を壊すだけの力はありました。塔を壊すことに成功すると光が天まで伸び、気づいたときには地面にカードが散らばっていました。

 そのなかで、強く惹かれるカードがありました。いまにして思えば、あれらのなかで最も強大な力を秘めていたからなのでしょう。そのカードを手に取ってから、しばらく我を忘れて効果を楽しんでいました。その結果、カードがマナを吸収したため、モンスターへと姿を変えたのです。そのモンスターこそ、シャドウでした。

 シャドウは私に同行してきた部下を殺しました。そのなかに、沖田くんも含まれています。一人になってしまった私もシャドウに首を絞められましたが、私を手にかけようとはしませんでした。私の成さんとする意志がシャドウに伝わったのです。それを興味深く思ったシャドウは、自分を最強にする手伝いをするのなら生かしてやる、と言いました。そして、沖田くんの姿になり、私と行動を共にするようになったのです。散らばったカードにはシャドウが細工を施し、皇帝を目覚めさせるために復活してもらうということで、回収はできませんでした。それから数日後、シャドウの手によって解放されたモンスターが西部緑地の封印の塔を破壊し、木崎くんたちはモンスターと遭遇することになったのです。


「以上が、モンスター解放の真相です」

 北条がすべての元凶だった。人類を救済するという目的のためにモンスターを解放し、多くの人を犠牲にした。瀬戸はまさに被害者でしかない。いや、瀬戸じゃなくても、すべての人間が被害者だ。

「他人を犠牲にして、どうして平気な顔でいられるんですか!」

 雅志がいつにも増して、強い口調で言った。北条は顔色一つ変えずに答える。

「進化に犠牲は付きものです。彼らは尊い礎でした」

 たしかに、進化に犠牲は付きまとうものかもしれない。それは認めよう。おれたち人間の進化にも、他の犠牲があって成り立っていることもある。

 では、人間の進化のために、同じ人間が犠牲になるのは正しいことなのだろうか。これはもはや感情論でしかないが、同じ種族のなかに必然的な犠牲を強いることが正しいとは、おれには思えない。

「それでも、あなたは間違ったことをした。人間の進化のために人間を犠牲にするというのは間違っている」

「その通りですね」

 おれの言葉に反論してくるかと思ったが、意外なことに肯定された。北条は一旦顔を伏せ、少ししてから上げる。

「質問です。人間の守護者に、我々を自滅の道から救うことができますか?」

 彼は守護者全員の顔を見た。

 人類にとっての脅威から人間を守ることが守護者の役割だ。その脅威が、自滅の未来だというのなら、おれたちはそれから人間を守らなければならないということになる。しかし、自滅から人類をどうやって守ったらいい? おれはいままで、脅威となる存在をただ倒せばいいとしか考えていなかった。そうすることで解決すると思っていた。

 自滅とは、自ら滅びることだ。ならば、人間にとっての脅威である存在は一つしかない。

 同じ人間。

 おれは、守護者は、自滅の道から人間を守ることはできない。いままでのように役割を果たそうとすれば、役割と矛盾してしまう。

 北条はおれをずっと見ていた。答えを待つその瞳にから、逃れるように視線を逸らす。

「人類は新たな進化を迎えることで救われる。その鍵となるのが、古代人の少女です。彼女の身体は、人間とモンスターが合わさった特別なものでしたからね」

 エルーのことを鍵だと言っていたのは、モンスターを最後に封印できること、人間をモンスターと同様の存在に進化させるのに役立つこと、その二つの意味を込めてだったのだ。そうなると、エルーを本部に軟禁した理由もいまとなっては疑わしい。本当にモンスターであると彼は疑っていたのだろうか。

「エルーをモンスターだと疑ったのも、彼女を調べる理由のための作り話ですか」

「その通りです。私は最初から彼女に危険がないことはわかっていました。というのも、白いカードに彼女の失われた記憶が入っていたからです」

 失われていた記憶がカードに宿っていた。それを見たのだったら、エルーがモンスターであるかどうかは確実にわかる。それをいままで黙っていた。北条は、おれたちばかりではなく、エルーさえも利用していたのだ。

「あいつの記憶が入っているカードを返してください」

 北条にはすでに必要のないものだろう。持ち主であるエルーに返してやるべきだ。

「いいでしょう」

 北条は白いカードを出した。おれは受け取るために歩み寄る。すると次の瞬間、彼が急に胸を押さえて苦しんだ。おれは介抱しようと近づくが、北条は近づくなと言わんばかりに手を前に出した。どういうわけか、一瞬、モンスターの気配を感じたのだが、またすぐに消えてしまった。

「時間があまりありませんね。本題に移りましょう。これまでの話から、私が人類を進化させるために行動してきたことはわかってもらえたと思います。ついに、私は完成させました。人を進化させる力を」

 北条は左胸ポケットから、不気味に青白く光るカードを一枚取り出した。

「最初に実験台になるのは私がふさわしいと思い、使用しました。ですが実験は失敗でした。この力は、人には制御できない代物だったのです」

 最後の方で北条の声が低くなった。彼の近くにいた瀬戸がすぐに距離を取る。

「私は、人間が制御できる力を持った存在へ進化させたかったのですが、これは真逆の結果となりました。今日、ここへ皆さんを集めたのはお願いがあったからです」

 言い終えるや否や、北条の身体から青い光が放たれる。衝撃波が教会を揺らした。ここに来るときに感じたモンスターの気配が伝わってくる。おれは身構えた。

「私を倒してください」


 青い光が消えると、北条がいた場所に立っていたのは青白く身体を発光させている人間だった。いや、姿形は人間だが、目は黄色く、身体には時折稲妻が走っているのが見える。

「最早、私にこの力を抑えることはできない!」

 北条は叫び声を上げると、おれたちに向かってきた。刀で突撃を押さえる。しかし、勢いが弱まる気配はまったくない。力が人間のそれではない。まさにモンスターだ。

 おれと押し合いをしている北条に、光弾が三発撃ち込まれる。しかし、北条は倒れない。パワーだけでなく、耐久力も高い。絢十の攻撃に構うことなく、北条は刀身を掴んでおれを空中へ放り投げた。天井に激突し、そのまま落下する。

 瀬戸が北条に突っ込む。しかし、瀬戸の重い攻撃は北条の素早い動きを捉えることはできない。それを察したのか、瀬戸は青のカードを使って自身のスピードを上げた。長刀が次第に北条に当たるようになっていく。だが、北条が失速する様子はない。おれと雅志が加勢に行こうとしたとき、北条は掌から電撃を放ち、瀬戸に攻撃した。椅子にぶつかりながら瀬戸が飛んでいく。

 おれは青のカードを使って、おれと雅志の斬撃の威力を高めた。その刀や槍で何度も北条に攻撃を当てるもやつは怯まない。絢十が同じ箇所に二発撃っても痛がる素振りさえ見せない。いつまでも攻撃を受けてばかりいる相手ではない。反撃として、電撃を放った。雅志は鎧のカードを持ってはいたのだがそれを使う暇もなく、二人ともまともに食らってしまった。電撃はおれたちを礼拝堂の壁まで押した。痺れてしまったせいで、身体が思うように動かない。北条が近づいてくる。

 そのとき、絢十が北条の頭上からやってきて、やつの動きを止めた。絢十の背中には翼が生えている。

 さっきまで人間だった相手にエナジーカードまで使うとは、絢十は本気で北条を倒すつもりのようだ。

「二人とも早く立て」

 振り返らずに言った。痺れはまだ残っているがいつまでもこうしているわけにはいかない。

「ああ」

「ありがとう」

 おれと雅志は立ち上がる。

 北条は絢十を払いのけ、電撃を放つ。絢十が避けるよりも先に電撃がぶつかり、パイプオルガンのところまで飛ばされた。

「北条さん、もうやめてください!」

 北条は答えない。もう、言葉さえも通じない様子だ。

 どうしたらいいのか悩んでいると、隣で雅志がマルチプルを出して発動した。黄色い光の波動が起こり、雅志の身体を変化させる。いまの雅志はマルプチプルの効果で、持っているカードのすべての力を同時に引き出せるようになっている。鎧の力を使い、それを身体に纏った。

 北条が撃つ電撃を、雅志が回避行動を取らずに受けた。そして、そのまま進行する。さすがにモンスターと化した北条も驚く様子を見せ、攻撃の手を緩める。そこを雅志が文字通り突き、おれも斬りつけた。北条が下がる。ようやく、攻撃の効果が見られた。その直後に、北条の両の掌が光り出した。

 と、思った瞬間にはおれと雅志は電撃を食らっていた。しかも、いままで見せたもののどれよりも威力の高いものだ。おれはともかく、鎧を装着した雅志も飛んだ。椅子にぶつかり、床を滑る。そんなおれたちと入れ替わるように瀬戸が攻め込む。大上段に持ってきた長刀を、一気に振り下ろした。重い一撃を、北条は食らう。

 おれは膝をつけてなんとか立ち上がろうとするも、やはり痺れのせいでまともに立つことができない。

「剣一、大丈夫かい?」

 隣で雅志は槍を構えている。痺れの影響は見られない。

「そのままじゃ勝てないよ。剣一もあのカードを使ったほうがいい」

「いや……でも」

「もしかして、モンスターになるかもしれないから使いたくない?」

「そうじゃない。ただ、北条を元に戻すことはできないかと思って」

 前方で戦っていた瀬戸が電撃によって飛ばされた。

「くっそ!」

 瀬戸の悔しそうな声が響いた。雅志は駆け出す。

「ぼくに良い考えはない。だから、このまま戦うことを選ぶよ」

 そう言いながら、槍で突きに行く。

 本当に、北条を倒さなければならないのか。彼は人間だった。おれたちが守るべき対象だったというのに、それでも倒さなければならないのか。なんとかして、元に戻さなければいけないのではないのか。

 果敢に攻めていた雅志も、北条の素早さに翻弄され、電撃を帯びた状態での体当たりを返されてしまう。それでも、雅志は攻撃する姿勢を維持した。

 絢十は青のカードを使って二人に分身し、一人が北条へ立ち向かい、もう一人がおれのところへ来る。

「木崎、大丈夫か?」

 痺れはまだ残っている。まだ戦えそうにはない。

 絢十は青のカードを出し、おれに使った。耐久力を上げる力だ。

「しばらく戦いを見てたら、あいつの能力がわかった。攻撃を受けた分だけ電撃に変えて攻撃できる能力だ。だから、オレたちが攻撃しなければ、あいつは電撃を撃てない」

 言われてみれば、納得できる。北条はおれたちが攻撃してから電撃を放っていた。

「だから、反撃される前にこっちが総攻撃を仕掛けて一気に決着をつけよう」

 やっぱり、倒さなければならないのか。

「木崎、北条さんはおれたちに頼んだだろ。『私を倒してくれ』って」

「そうだけど……」

「木崎は皇帝を倒すんだろ。なら、いまここで戦っている場合じゃない」

 雅志と絢十の分身に挟まれた北条。前方からは槍が、後方からは光弾が飛んでくる。二人からの攻撃を同時に受け、横に回転して地面に倒れた。

 おれたちは充分すぎるほどの攻撃をした。ここまで攻撃を受けて、それでも戦うために立とうとする人間はいない。ところが、北条は立ち上がる。そして絢十の分身を弾き飛ばした。分身は超過のダメージを受けたのか、その姿を消してしまう。北条には戦いを続けようとする意志がたしかにある。

「木崎、迷ってる時間はないぞ」

 絢十は銃を構えて前に出る。

「さっさと覚悟、決めなよ」

 ボロボロの状態の瀬戸が、長刀を引きずりながら進んでいく。その手には黒のカードが握られていた。

 三人が北条を囲むようにして立つ。上から見れば、三角形の包囲網に見えるかもしれない。それぞれの手には黒のカードがあった。北条は誰を標的にしようかと、首を素早く動かしている。すると、北条の身体が青白く発光を始めた。

「いまだ!」

 絢十の声を合図に、三人が黒のカードを発動する。絢十は【ワールドオーバー】を、雅志は【天地騒々】をやった。瀬戸は【タイタンハンマー】ではない、別の技を使っていた。重い一発を食らわせるのではなく、何度も素早い斬撃を浴びせる技だ。おれには大群による攻撃に見えた。名付けるなら【レギオンスラッシュ】といったところか。

 ふらふらとよろめく北条。しかし、再び身体を発光させ、周囲に放電攻撃をした。あまりのまぶしさに目を開けていられない。そのとき、雅志、絢十、瀬戸の悲鳴が聞こえてくる。すぐに光は収まり、目を開けると三人が地面に膝をつけていた。北条はと言うと、三人がかりで黒のカードを発動したというのに、それでも立ち続けている。魔獣と化した北条が咆哮する。教会のなかが震えるようだった。

 そんな、いまの三人でも勝てないなんて。

 最初に瀬戸が立ち上がる。瀬戸への攻撃は絢十が身を呈して防いでいた。続いて鎧でダメージを抑えていた雅志が槍を構え、最後に絢十が立った。

 北条は荒い息遣いのまま、三人に目をやる。さっきの攻撃は、北条自身にも大きなダメージを与えたようだ。

 再び彼らが狙われる。そう思い、おれは三人の前に飛び出した。

「よう、覚悟はできたか?」

 絢十が余裕のある様子で言ってみせた。

「ああ。おれも戦う」

 刀を中段に構える。

 北条は先ほどの一撃にエネルギーを使ったのか、電撃を放ってくることはない。

「もう一回、黒のカードで一斉攻撃をしたいところだが……」

「さすがにマナがないね」

 絢十も雅志も、瀬戸も先からずっと前線で戦っていた。当然だろう。そうなると、要となるのはおれの一撃。

 北条が高速で迫ってくる。まずは雅志が狙われた。雅志は槍で防ぐも弾かれてしまう。次に絢十を標的として右腕で殴りかかり、瀬戸に体当たりを加える。円を描くような移動で、最後におれのところへやってきた。最初と同様に刀で防ぐも、単純な腕力勝負では話にならない。長い時間耐えることもできず、下がるしかなかった。

 北条との間に距離ができたところで、アウェイクニングを使う。手札のカードの能力をすべて同時に使えるようになり、姿も融合したものとなる。おかげで、背中に翼が生えた。

 北条はおれが姿を変えたことに驚いた様子を見せたが、すぐに接近してくる。おれは刀に風の力を集めた。北条が拳を突きつけてくるよりも早く、風を放つ。その攻撃に対して北条は踏ん張りつつ、一歩ずつ前に進んでくる。おれは風の威力を高めた。椅子が玄関まで吹き飛ぶなか、それでも北条は飛ばずに堪えている。

 風ならば影響がないかと思っていた。しかし、電気は風でも発電できる。北条は電撃を放った。おれは攻撃を食らい、後ろの壁に叩きつけられる。耐久力が上がっているぶん、痺れは酷くない。まだ立てる。すぐに構えて、北条を牽制する。やはり、一撃で仕留めなければだめか。

 彼を一撃で打ち倒すほどの威力を誇る技はない。だが、攻撃の隙を与えずに強力な技を叩き込めばいいだけの話だ。速さなら自信がある。それに、ダメージは相当溜まっているはず。

 黒のカードを使い、【連族瞬速斬】を打ち込んだ。終わった後、さらにもう一度黒のカードを使う。マナは限界まで減っていたが構わない。

 竜巻を放ち、北条を拘束する。そこで【斬破裂葬】を披露。瞬速斬と風の刃を同時に放ち、四往復する技だ。だが、今回は四往復では済まさない。倍の八往復分食らわせた。


 おれの背後では北条が倒れている。振り返り、近づく。相当な量のマナを消費したことにより、ふらふらした足取りだった。刀を支えにして、北条のそばに立つ。

 モンスターだった北条が、包んでいた殻が剥がれ落ちるかのように人間の姿へ戻っていく。

「……ありがとう、みなさん」

 力のない声だ。すっかり衰弱した北条の姿を見て、改めて他に方法はなかったものかと思う。守護者としてどうにかしたかったわけじゃない。人間として、彼を救いたかった。

「これを渡しておきます」

 そう言って出してきたのは、先ほど受け取れなかった白のカード。エルーの記憶が入っているカードだ。おれはそれを今度こそ受け取った。

「そして、ロスト・ガーディアンの得物は本部の私の部屋に保管してあります。まだ、そのままのはずです」

 北条はそれだけ言うと、言い残したことはないといった様子で目を閉じる。だが、おれはまだ北条の口から肝心なことを聞いていない。そんな秘密よりも大事なことだ。

「あなたは、モンスターを解放したことを悪いことだと思っていないんですか?」

 北条は目を開け、おれに顔を向ける。ちょうど、彼の顔に、ステンドグラスから差し込む月の光が当たっていた。

「思ってい……」

 それが北条の最期の言葉となった。

 光に照らされた彼の表情は、どこか穏やかなものに見えた。間もなくして、彼の身体は粒子となり、消滅した。彼が創り上げた進化の力も残っていない。

「終わったんだね」

 雅志が目を伏せる。

「ああ」

 そこに北条がいるわけでもないのに、絢十も月光に照らされた場所に目を向けていた。

「木崎、大丈夫?」

 瀬戸が声をかけてくる。たしかに足元はおぼつかない。

「……だいじょうぶ」

 おかしい。おれの声にも力が入っていない。やはり、黒のカードを連続で使ったのが大きかったか。

 おれは白のカードを見つめる。これはエルーに返そう。早く家に帰らなければ。

 そう思った矢先に、足の力が抜けてバランスが取れなくなった。

「木崎!」

 誰が呼んだのかわからない。そのまま意識は深く沈んでいった。

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