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STRUGGLE  作者: 春巻き系男子
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41st Card 抗う心、諦めない力

 赤のカードの力で衝撃波を放つも、フェンリーに回避されてしまう。遠距離戦では話にならない。やはり近くで長刀を振るしかない。

 ところが接近して縦に斬りかかるも、フェンリーは防ぐことはせず易々と回避して見せた。

「大振りだな。避けるなど造作もないことよ」

 すぐさま氷の剣で斬りつけてくる。長刀の柄の部分で防ぐも左へ飛ばされた。

 着地したときだ、わたしが異変に気づいたのは。右腕の動きが鈍い。見ると、柄の真ん中から右腕にかけて凍りついていた。吹雪による見間違いではない。さっき冷気をぶつけられたときに受けたせいか、それともいま氷の剣を受けたせいか。どちらにせよ、右腕の感覚が遠のいていくのがわかる。だめだ、動かせない。しかも凍る部位は段々胴体に近づいている。ゆっくりだが確実に、全身を氷漬けにする。

「お前に永遠の時を与えてやろうじゃないか。若く美しい姿のままでね」

「ふざけんな!」

 まだ肩は動く。長刀と腕が一体化したと考えれば攻撃もできる。

 今度は横振りで攻める。範囲が広いぶん、避けるのは難しくなったはずだ。

が、思った以上に力を出せず、片手で受け止められてしまった。離れようとしても、掴まれていて抜け出せない。

「お前は殺し甲斐がある。全力で挑んでくるものほど我らは歓迎し、最大限の力で攻撃するのさ」

 ようやく放されたと思った瞬間、右足を斬られた。太ももから凍てつく侵食が始まる。すぐにでも距離を取りたいのに、足が思うように動いてくれない。

 フェンリーが連続で剣を振ってくる。かろうじて長刀で防ぐもいつまで持つかわからない。スピードでもやつのほうが上。わたしの防御が打ち破られるのは秒読みだった。

 左肩から右の脇腹にかけて斬られる。やはり先ほどまでの攻撃と同様に、傷口から凍っていく。寒さや冷たさのおかげというべきか痛みは感じないけれど、それは全然良いことなんかじゃない。

「さあ、どうした。お前の家族と親友を奪った相手の仲間が目の前にいるんだよ。向かってこないのかい?」

 老婆の口調で、明らかな挑発。わかっている。これはやつが戦いを楽しむためのものだ。自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。

 二人が死んだのは、わたしがなにもできなかったからだ。あの二人のことを話されて許せないのは、そんな自分自身。

 でも、いまのわたしはなにもできない人間じゃない。わたしには、力がある。

 わたしはモンスターを倒すことで、これ以上わたしのような思いをする人を出さないと決めた。だからこそ、フェンリーも絶対に倒す。倒さないといけない。

「まだ、終わりじゃない」

 わたしは残された力で手を動かし、青のカードを使う。攻撃力、防御力、スピードの三つの能力を上げる力。これを使うと凶暴性が増す、まるで獣のように。そのことから木崎は「ビースト」と名づけていた。その通りかもしれない。目の前のフェンリーが獲物しか見えなかった。けれど、わたしは違う名前を推したい。三つの力を上げるのだから「トリニティ」。

 腕も、足も、凍っていた部分が溶けていく。考えることはせず、思うがままに長刀で攻撃する。先ほどとは比べ物にならないスピードとパワーでフェンリーを追い詰めていく。駆け込んで斬りつけは戻って斬りつける。それを何度も繰り返す。フェンリーも防ごうとするが、わたしはその先を行っていた。

 連続攻撃の最後の一撃を加えると、フェンリーは肩を押さえていた。まだ還元できそうにない。それでも、一矢報いたと充分言える。

「なにがおかしい」

 睨まれた。どうやらわたしは笑っていたようだ。

「次もうまくいくと思うなよ」

 フェンリーは自身の足元に氷の剣を突き刺した。すると、剣を刺した場所を中心にして円状に空間が凍りついていく。空気中の物質が氷の礫となり、落下した。わたしはさらに距離を取る。人が歩く速度だが、やつに近づけば確実にわたしも凍ってしまう。

「さあ、お前も永遠となれ!」

 凍てつく世界が近づいてくる。ただでさえ冷たい雪が、パキッ、という音を立てながら固まっていく。どうすればいい。接近戦は無理だ。

 あの攻撃になにか穴はないか。

 わたしは雪玉を上空に向かって投げてみた。落下とともに雪玉は固まっていく。つまり、フェンリーの頭上の空間も凍りついていることにはなる。でも、高いところまでは及んでいない。

 狙うならいましかない。

 重力操作の力を使ってわたしにかかる重力を一気に小さくする。一跳びでフェンリーの遥か上空まで向かった。ここからは速さ勝負。わたしが凍るか、相手が倒れるか。黒のカードを出す。これで準備は整った。

「空から攻めたところで同じことよ」

 フェンリーの周囲にいくつもの氷の矢尻が生成される。

 やめるわけにはいかない。軽くした重力を一気に大きくする。途端に落下が始まった。同時に氷の矢尻が迎撃してくる。回避行動は取らない。チャンスを無駄にするわけにはいかない。重力をさらに大きくしスピードを上げて突っ込んでいく。空気の摩擦により、全身が焼けるように熱い。氷の矢はわたしの熱に敵わず、当たる前に溶けて消える。

「馬鹿な!」

 わたしは二度目の黒のカードを使った。

 単なる自由落下に黒のカードを使って長刀を振り下ろすだけの単純な技だ。でも、威力はさっきのものとは段違い。重力が大きいぶん、落下速度と攻撃に重みを加えている。果たしてこの攻撃を耐えられるか?

 隕石のごとく落下した衝撃により、周囲には雪が舞い上がる。吹雪による雪か、わたしが舞い上げた雪か判別がつかない。世界は少しの間、真っ白に染まった。われながら破壊力に驚かされる。

「ま…さか」

 フェンリーのかすれた声がした。まだ視界が晴れない。

 足元がおぼつかない。さっきの一撃、自分にも思った以上のダメージがあった。地上何百メートルも離れた高さから高速落下したのだから無理もないか。これでまだ立てることに感謝したほうが良さそうだ。

「まさか、私がやられるとは……」

 白い闇のなかに青い光が、ほんのりと見えた。吹雪の勢いが和らいでいく。雲の切れ間から日の光が差し込んだ。

 倒れているフェンリーがこちらに手を伸ばしている。

「いまなら、お前を……殺せる!」

 フェンリーの掌から氷の矢が吐き出された。わたしには避ける体力さえ残っていない。目をつぶって耐えることしかできなかった。

 ……。

 身体中が痛むので、攻撃を食らったのかわからない。でも、わたしの意識はまだある。ゆっくりと目を開けてみる。薄く開いただけではよく見えない。フェンリーがまだ手を伸ばしている?

 はっきりと開いてみた。

 フェンリーが放った氷の矢は、やつの掌の前で止まっていた。

「くそ、ここまでか」

 フェンリーは腕をぐったりと下ろす。それを合図にするかのように、氷の矢は粒子となって消えた。

「セト・シオン、お前は強い。お前を、殺したかった……」

 フェンリーの身体はカードへと変わる。わたしが、勝ったのか?

 青のカードのところまで足を引きずりながら向かい、拾い上げる。間違いない。実感できる。わたしはフェンリーを倒した。


 オレを包み込もうと迫る炎の波を飛行してくぐり抜け、ファジニの頭上へと向かう。胴体の守りは堅いが頭、とりわけ頭上はがら空きだ。そこに光弾を発射。全弾命中。頭を押さえながら、ファジニが叫び声を上げる。やつが苦しんでいるうちに弾を装填しておこう。

「ぐっ、オレの炎の波を逃れただけでなく、反撃までしてくるとはぁ!」

「オレの負けは決まってたんじゃなかったか?」

 ファジニが睨みつける。その瞳が上空からでも、とてもよく見える。

「だまれぇ!」

 挑発に乗ってくるタイプか。最初からオレの相手じゃないな。

 ファジニは杖を空に掲げる。攻撃するのかと思いきや違うようだ。周囲で燃え盛る炎がやつのもとへ引き寄せられていく。炎は足元で長い渦巻きを形成する。なにか見覚えのある形だと思ったが、蛇だ。ファジニは炎の蛇を造り出した。渦巻く炎の蛇はやつを頭部にあたる部分に乗せ、空中にいるオレのところまで上がってくる。

 さすがに予想外。炎をこんなふうに使ってくるなんて考えもしなかった。

 接近してきた炎の蛇は火球を吐く。空中で回避するのは容易だったが、やつはしつこく追いかけてきた。空を制したと思うにはまだ早過ぎたか。炎の蛇はうねうねと動き、後方から火球を吐き出し続ける。

「おいどうした! さっきまでの威勢はどこに消えたぁ!」

 今度は向こうが挑発してくる番のようだ。腹は立つけど、オレには効かない。

 いつまでも飛んで火球をかわし続けているだけでは意味がない。なにか策を考えないと。幸いなことに、ここにはまだ燃えていない高い建物がある。それをうまく使えばあるいは……。ならば持っているカード……。そういえば、戦う前にあいつが言っていたことは……。

 よし、最善の策ができた。オレは建物と建物の間があるところを目指す。ここでファジニが追ってこないわけがなかった。よし、いいぞ。翼を折って建物の間に入ろうとする。そのとき青のカードを使っておいた、ファジニには気づかれないように。

 しかし、想定外だったことにここを通り抜けることはできなかった。別の建物が道を塞いでいたのだ。奥まで進んだところで滞空する。逃げるなら上に行くしかないか。

「行き止まりだな」

 炎の蛇に乗ったファジニが追いつく。オレを追い詰めたと思っているのか笑みがこぼれている。オレは無視して上空を目指す。が、炎の蓋が行く手を阻んだ。振り返ると、斜め下にいるファジニはやはり笑っている。

「逃がすわけねえだろうが」

 杖の先端を向けられた。そこが赤く光り、炎の大きな球が形成されていく。

 オレは黒のカードを出す。周囲が炎で埋められていく。あまり時間は残されていない。

「いいだろう、お前の技とオレの技、どっちが勝つか。勝負だ!」

 黒のカードを使う。金色の銃から無数の光弾が、カーブを描きながら発射される。ファジニも同時に炎の球を放つ。オレの狙いは正確だ。百発百中。しかし、火球はオレの光弾を飲み込みながらこちらに向かってきていた。いくら狙いが正確であろうとも、そもそも狙いに当てる前に弾自体を当てられてしまっては意味がない。上は炎の蓋、下へ向かおうとすれば蛇の尻尾が邪魔してくる。どこにも逃げ場がない以上、火球を食らうしかない。

「はははははは! オレ様の炎がお前の光弾の上を行ったぞぉ!」

 ……って思うじゃん?

 やつが高笑いを上げた数秒後、それは叫び声に変わる。やつは背後から攻撃を受け、蛇の頭から落ちていく。ファジニの意識が火球に向かなくなったおかげか、火球はオレの目の前で消えた。炎の蛇も消えていく。

ちょっと危なかったな。やつが攻撃を食らうのがもう少し遅かったら、オレも痛い目を見ていた。

 オレは降下し、銃口を向けたままファジニに近づく。

「てめえ……どうやってオレに攻撃した! お前の攻撃はオレには届かなかったはず!」

「たしかにな。オレの攻撃は届かなかった。だが……」

「オレの攻撃は真後ろからだと直に当たる」

 ファジニの背後からもう一人のオレが現れる。姿はフュージョンを使ったオレと同じ。

 実はこの路地に入る前に使った青のカードは、自分の分身を作る力だった。ファジニは目の前の金澤絢十にしか気が向いておらず、後ろの分身には気づけなかったというわけだ。

「分身だと! くそっ、そんな卑怯な手を」

「卑怯なのはお互い様だろ」

 そもそも、この発想はファジニがオレに与えたものだ。戦う直前に話した、わざと負けたという話。つまり、囮を使った作戦。オレはそれを真似して返しただけだ。別にずるくたって構わない。

「こっちは何万、何億っていう命背負って戦ってる。卑怯と言われようが関係ない」

「……へっ、言うじゃねえか」

 ファジニが立ち上がろうとする。

 マナには充分余裕がある。オレはもう一度黒のカードを使うことができる。やつが再び攻撃してくる前にそれを発動。ファジニに光線を撃ち込んだ。


 アーザングの手甲は、それで地面を殴ると地割れが起こすことができ、さらに地面を円錐の形に伸ばすこともできるというトンデモナイ道具だった。しかも、ハンマーと違って連続で使ってくるから攻撃が途切れない。そのせいで、周りはデコボコな地面となっていた。足場が悪すぎる。

 地面タイプの攻撃は飛行の力があれば関係ないと思っていたけど、地面を盛り上げてくるせいでよっぽど高い位置にいないと攻撃を回避できない。それに、常に使っているとマナの消費が気になるところ。どちらにせよ、現状、飛行の力を使っていない。アーザングが地面を殴ると、ぼくは横に逃げる。これの繰り返しだった。でも、逃げてばかりいるのもそろそろ限界かもしれない。

「どうした、フクハラ・マサシ。空を駆けて攻撃しないのか?」

 威力の小さい攻撃を何度もするより、大きな一撃で終わらせてしまいたい。そのほうが長引かせてジリ貧になるよりマシだろう。そのためにもマナを無駄遣いしたくない。

「悪いね、ぼくにはぼくのやり方があるのさ」

 とは言ってみたものの、良い考えが浮かばない。対抗策を練るには情報が足りないのかも。とにかく攻撃するしかないかな。

 ぼくは走ってアーザングに近づく。やっぱり足場がかなり悪い。まっすぐ走るのがこんなに大変だなんて考えたこともなかった。

 当然、アーザングはぼくに向かって地割れ攻撃をする。食らうわけにはいかないので仕方なく空中に逃げたが、空気も振動しているのを感じた。直後に地面が盛り上がり、ぼくを狙って伸びてくる。

 待てよ。地面はぼくに向かってくるわけだけど、それがアーザングの近くならどうだろう。自分の近くに敵がいれば、いくらなんでも地面を盛り上げている暇はない。そうなれば攻撃の手は弱まるかもしれない。

 ぼくは上昇せずに、槍を突き出したまま文字通り突撃する。アーザングは地面を突いた拳を素早く戻し、防御の姿勢を取る。やはり攻撃の手を緩めた。でも、ぼくの突き彼の手甲によっては弾き返されてしまう。さらに相手はくるりと回転して裏拳をぶつけてきた。お腹に当たり、後方へ吹っ飛ぶ。制動をかけたが勢いが衰えることなく、壁に衝突して面に落ちた。

 気持ち悪い。吐きそうだ。こんなパワー、反則だよ。

 起き上がると、アーザングの拳がぼくの顔面を狙ってきていたのに気づき、地面を転がって避ける。さっきまでぼくがいた壁は粉々に破壊された。危うく顔がミンチになるところだ。

 パワーもスピードもガードも、どれを取っても高い。そして地上戦では歯が立たないとなるとやはり空中から攻撃するしかない。でも、空中から攻撃したところで迎撃される未来が見える。けれど槍では攻撃範囲に入らないとなにもできない。ぼくの得物が遠距離攻撃のできるものならまだ手はあったかもしれないのに。

 待てよ。そうだ、【天地騒々】があるじゃないか! あれは広範囲に影響を及ぼし、一つの標的を攻撃する技。よし、早速使って……。

 だめだ。足場が悪すぎる。一度踏み出すのに平坦な場所でなければ強く踏み出すことができない。マナを大きく無駄にしてしまうなら、使うべきではない。

 ……。

 考えるのをやめた。ぼくらしくもない。どうにもさっきまで舞い上がっていた気持ちを打ち砕かれて、どうもネガティブになっているな。

そうだ、単純な話、アーザングのステータスを上回る攻撃をすればいい。土はなにに弱いか。それを思い出せば土の壁だろうがなんだろうが怖くない。

 ぼくがまだ使っていない力は、武器強化の力。やってみるか。

 上空まで一気に上がる。充分な高さまで来たところで黒のカードを出す。一発で大きな攻撃をやるなら、やっぱりこれしかない。そして、武器強化の力を使う。少しは攻撃力に付加されるはず。

 黒のカード、発動。ぼくの腕と槍が光り輝いた。

 槍の先端を下に向けて両手で持ち、槍を中心にぼくは回転を始める。飛行の力があって本当によかった。高速で回転をしているぼくが、ドリルの要領でアーザングめがけて突っ込もうという算段だ。

「そんな攻撃、跳ね返してくれる」

 おそらくアーザングは迎撃態勢に入っているはずだ。景色が目まぐるしく回っているのでわからないけれど。彼の位置だけ把握できればそれでいい。

 アーザングの手甲にぶつかった。やっぱり防がれた。でも、ぼくだってここで負けるわけにはいかない。里花のいる日常を取り戻すためにも、ここで彼を倒さないと先に進めない。パワーアップ、武器強化、飛行の力、全部使ってやる!

 ぼくは槍を一気に押し込んだ。

「なにぃ!」

槍はぼくの手を勝手に離れる。回転を続けたまま突っ込んだ槍が手甲を打ち砕き、アーザングの胴体を貫く。地面にぶつかってもすぐに回転が止まることはなく、しばらく土煙が舞い上がっていた。

 この技は【天空突破】でも【天地騒々】でもない。新しい技だ。名づけるなら、【螺旋天翔破(らせんてんしょうは)】。

「ば、かな」

 アーザングは穴が開いたお腹に手を当て、後ろで回転したまま突き刺さっている槍を見つめる。

「俺の負け、だと」

 アーザングは倒れる。身体が青く発光した。還元の合図だ。つまり、ぼくがついに上級モンスターと呼ばれる存在に打ち勝つことができたという証明だ。

 槍の回転はようやく止まり、ぼくは地面から引き抜く。

「まさか、空中から、あんな攻撃をしてくるとは……ここまで変わったのか」

「アーザング、ありがとう」

 ぼくは、自分の強さを認めてくれた相手に頭を下げる。

「理解できん……」

 彼はそう言い残すと、青のカードに還元された。海からの風が静かに吹いた。


 刀と大剣のぶつかり合い。雨音を打ち消す勢いで、金属音がこだまする。斬る速度は互角。しかし大剣を手早く操るぶん、威力は向こうのほうが大きい。こちらに反撃できる余裕はない。ウェアドの速度は異常だ。アウェイクニングによって手札のカードを同時に使えるため、スピードアップもおれは使って戦っている。それにも関わらず、ウェアドはおれのスピードと互角に渡り合っている。こんな力を隠していたとは。

 ウェアドの一閃を刀で防ぐも、押し負けた反動で後方に飛んだ。

 戦いが始まってどれほどの時間が経っただろう。一時間くらいは戦っているのではないかと感じるが、マナの消費やアウェイクニングが解けていないことから考えると、まだ十分と経っていない。逆転のチャンスは作れる。

 ウェアドは大剣を構えたまま動きを止めている。こちらを警戒していた。ざっ、ざと降る雨が全身に注がれる。口を開けば勝手に水を飲めるかもしれない。できれば砂漠の地域に分けてやりたいものだ。

 おれとウェアドの間を風が通り過ぎていく。

「君と戦うと、かつての守護者のことを思い出す」

 不意に話を始められた。

「彼らは姿を変えずとも、俺と互角だった」

 わかっている。おれたちはまだまだ弱い。

「いま一度問おう。君はなぜ戦う? もうこの世界の終わりは近いというのに」

 遠くで街路樹が揺れているのが見える。

「まだ終わっていないからだ。諦めるのは、世界が終わってからでも遅くはない。それまでおれたちは守護者としての役割を続ける」

「苦しみが増えるだけだぞ」

「世界は変えさせない。おれたちがいる限りな」

 向こうから攻めてこないのなら、おれから攻める。あいつはおれに時間を与えてくれた。おかげで、戦略を立てる余裕があったというものだ。走りながらウェアドの風の力をコピーする。風を刀身に集め、充分なところで振る。風の刃を放つことができた。

「甘い」

 ウェアドも大剣を振って風の刃を放ち、相殺を狙う。だが、おれはウェアドが大剣を振ると同時に加速していた。やつが攻撃する瞬間を待っていた。風の刃を放った直後はやつの防御をすり抜けることができる。やつは避けることができない。攻撃がやつに命中する。

 手応えがなかった。手から肘にかけて刃のあるトンファーで防がれていたのだ。

「二段攻撃とはやるな。だが、遅い」

 トンファーの一撃がおれを襲う。後ろに跳躍して避けるが、着地の瞬間に風の刃を撃たれた。さらに空中を回転して接近し、大剣で斬られる。膝に風の刃を受けたせいで防御が遅れてしまい、斬撃をすべて食らった。

 地面に膝がつく。水しぶきが飛んだ。

「けんいちさん」

 エルーの声がする。そちらに目だけ向けると、建物の陰からエルーが姿を見せていた。不安げな表情を浮かべ、こちらを見ている。逃げろと言ったのに、戻ってきたのか。

「あの女、封印者か」

 エルーに注意が向かった。チャンスだ。すぐさまやつを斬りつける。が、トンファーを小手代わりに防がれ、反撃として柄で腹を突かれた。

 ウェアドは強い。最初に出会ったときにどれだけ手を抜いていたのかがわかる。これがやつの本来の力なら、シャドウと同じか、それ以上の実力の持ち主だ。こんなのと戦おうとしていたのか、あのときのおれは。

 ウェアドが大剣をおれの首に当てる。それでもおれはやつを見据えていた。

「……まだ諦めていないのか」

 驚き半分、呆れが半分といった様子だ。

 相手がいくら強くても、おれは諦めない。人間を守る存在が諦めたら、だれが人間を守ってくれるというのか。

「お前との戦いは楽しかった。初めて全力というものを出した。殺すのは惜しいが、皇帝に刃向かうものを生かしておくわけにはいかない」

 大剣が持ち上げられる。

 立て、まだ終われない。おれには守るものがある。ふと、エルーの顔が頭に浮かんだ。その表情は先ほど見せたものとは違い、温かな笑顔。おれが守るべきもの、それは……。

 エルーがおれの名前を呼ぶ。

「終わりだ」

 大剣が振り下ろされた。

 雨音を掻き消す衝撃音が鳴り響く。攻撃を上段で受け止めた。

「まだ終わりじゃない。おれも、この世界も!」

 大剣を押し返す。後ろへ仰け反ったウェアドがトンファーでおれの追撃を妨げようとする。兜がそれを防いでくれたおかげでダメージはない。進んで斬り、風をやつに撃つ。小さな竜巻はウェアドを中心に捕らえ、空中で拘束する。

「ええい、こんなもの!」

 もがいたところで、ウェアドがそこから抜け出すことはできなかった。

 黒のカードを使う。

 ウェアドに向けて風の刃を撃つと同時に瞬速斬で斬り伏せ、振り返って同様の動作をする。これを計四往復した。風の刃が当たった直後に瞬速斬を受け、さらに背後からも食らい、それを四回もやられる。この技の名前を【斬破烈葬(ざんばれっそう)】としよう。

 最後の一撃を決めておれが着地してからわずかに遅れて、ウェアドが落下した。

 アウェイクニングの効果が切れる。おれの姿が元に戻った。叩きつけるような雨音が小さくなる。遠くにあった街路樹の枝の揺れが収まっていた。

「これが、人間の力か……」

 ウェアドが力の抜けた声で言い、おれのほうへ手を伸ばしてくる。だが、身体はすでには青く発光している。ついに、ウェアドを倒すことができたのだ。おれは安堵する。そして、エルーのほうへ顔を向ける。

「危ない!」

 エルーが叫んだ。振り返ってみると、ウェアドがトンファーで殴りかかろうとしていた。構えるが、すでにトンファーは円を描くようにしておれの頬に迫っていた。だが、当たる直前にウェアドは粒子となって消える。残ったのは青のカード一枚。おれはそれを拾い上げる。

 最後にあいつは教えてくれたのかもしれない、まだ安堵するには早いことを。

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