39th Card 孤軍奮闘 銃の章
vs エレメンタルシリーズ!
絢十編です。
周囲の温度が異常に高い。それはここが南だからとか異常気象とかのせいではない。オレが着いたときにはすでに町の一部は炎に包まれていた。消火活動を行う人はいない。人々は炎を見て逃げ出したわけではなかった。
目の前に広がる紅蓮の炎。その中心から笑い声が聞こえてくる。地獄があるのだとしたら、悪魔がいるのだとしたら、この光景がまさしくそれらに近いのではないだろうか。
笑い声が止まり、代わりに声が掛けられる。
「カナザワ・ケントか。どうだ、この景色は。最高だろぉ!」
炎のなかに、ワニの顔のシルエットが黒く浮かんだ。
あのモンスターは……なんて名前だっけ。ファイアでもないしゴジラでもないし……。炎のモンスターだということは覚えている。前に木崎たちと一緒に倒した上級モンスターだ。
名前は思い出せないが、位置はわかったのでとりあえず撃つ。顔が大きいので狙いやすい。だが、やつが持つ杖状の武器によって弾かれた。
「ったく、相変わらずのご挨拶だな」
炎のなかからやつが出てきた。シルエット通り、姿がワニに似ているモンスター。
話が長そうだと全部聞くのが面倒だからすぐに顔面を撃つ、というのがオレの癖だ。以前戦ったことがあるやつならそれをわかっていてもおかしくない。さすがに何度も食らってはくれないか。
向こうにある燃え盛るビルの一つが崩れる。
「オレを一度倒したことで、自信でもあるのか?」
ない、と言えば嘘になる。しかし、あのときは三人がかりで挑んでようやく倒せた相手だ。対して、いまはオレ一人のうえに町がこんな状態。なにかを言うつもりは最初からないが、なんとも言えない。
「勘違いさせないように教えてやるぜ。あのとき、オレが負けたのはわざとだ」
は?
手加減をしていたから負けた。そう言いたいのか?
「言い訳かよ。口は達者だな」
つい口が出てしまったが返さずにはいられなかった。やつは鼻で笑う。
「ふん。じゃあ訊くが、お前らのアジトをオレの仲間が突き止めることができたのはどうしてだろうなあ?」
嘲笑うように出されたその問題に興味はないが、少し考えてみる。
こいつが手加減をしていたのが、事実だとしたら。
……ああ、そういうことか。
「お前らがオレを倒し、その後にどこへ行くかを仲間が見ていたからだ。つまり、オレは囮だったのさ」
大きすぎる餌は、餌には見えない。釣り針さえも隠してしまう。さすがに釣りであることを見破れずに引っかかるわけだ。
ようやく思い出した。こいつの名前は、ファジニ。
ファジニは黒い杖を一振りする。
「さあて、おしゃべりは終いだ。オレはお前をぶっ殺す!」
ファジニが全身に炎を纏いながら迫ってくる。撃ってみるが効果は見られない。あの炎は鎧のような役割を持っているようだ。
面倒だな。
青のカードを使い感覚を鋭くさせる。
杖を当てられる寸前に避け、距離を取る。至近距離での戦いは得物的に不利だ。前回と同様、接射できれば話は別だが、今回のファジニは炎の鎧まで身につけている。防御力を上げるカードとして鎧の力はあるが、まだダメージをそこまで与えていないのに特攻するのは良い策とは言えない。
それに、あんな攻撃は二度とやらない。痛いし、解放の力もないからな……。
建物を焼く炎の勢いは止まらない。暑いのか熱いのかわからないが、体力が削られていくのはわかる。ここで長期戦は無理だ。一旦、場所を変えよう。オレは背中を向ける。
「おい、逃げるのか? 楽しませてくれよ」
ファジニが杖から炎の球を放ちつつ接近してくる。オレは火球をかわしながら走った。視覚が鋭くなっているぶん、避けるのは容易だ。
「くそ、埒が明かねえぜ」
諦めずにそのまま追ってきてくれ。できるだけ燃えるものが少ない場所で戦いたい。
そんなオレの願望が届くわけもなく、辺りが火の海へと変わる。そういえば、ファジニは炎を使って逃げ場を封じることができる。そのことをすっかり忘れていた。
多少の火を我慢して走り抜けることはできそうだが、どうするか。逃げ回ればそれだけ火の手が回るのも嫌な話だ。
……。
「逃げるのをやめたか」
立ち止まるオレを見て、ファジニが笑う。戦いを楽しんでいる様子だ。こういう戦闘狂を思い切り倒せたらスカッとするだろうな。いや、倒すのがオレでなくても、だ。全然楽しんでいない相手に楽しんでいる相手が負ける、そんな状況が良い。
火球が飛んでくる。相殺を狙って光弾を撃つと、小さな爆発が起こった。そのなかからファジニが向かってくるのは見えていた。やはりどうしても近接戦に持ち込みたいようだ。当然だな。
相手がいまのファジニでなければ徒手空拳で応じたものだが、そうはいかない。
杖を横に振ってくる。それを最小限の動きで回避。そのときに引き金を引く。炎の鎧の隙間を狙ったつもりだ。命中するとファジニは一歩下がった。オレも距離を取るために後ろへ下がる。
「いいぜ、いいぜぇ、カナザワ・ケント!」
やつの声が大きくなると同時に周囲の炎の勢いが増した。一層大きな火柱が並ぶ。感情の高ぶりが炎に影響しているのか。
「オレはよ、強いやつと戦うのが大好きなんだ。強いやつほどあがく、もがく。そしてそのぶん、オレが本気になれる!」
ファジニの杖から撃たれる火球も、先ほどのものより大きくなった。それを避ける動作に入ろうとしたところで、やつは杖を振る。すると火柱が波のように押し寄せてきた。火球と火柱。避けるには距離が足りない。
使いたくはなかったが、青のカードを使うことにした。鎧を装着し、攻撃を受け止める。
だめだ、熱い。鎧では物理攻撃に強くなっただけで、炎相手じゃカバーしきれない。
「ははは、燃えろ燃えろぉ!」
撃とうと考えたが遠くからでは炎の鎧に防がれる。こんな状態なら接射してもいいかもしれない。
いや、どうせ勝つなら相討ちなんて形ではなく、オレが優位でありたい。
フュージョン。もうこれしか手は残されていない。持っているカードのどれか一枚と融合する力。選択肢は、鎧の力、分身する力、感覚を鋭くする力の三つ。
オレが選ぶのは、これだ。
発動。
光の波紋が広がり、周囲の炎を激しく揺らす。
初めて使ったが、マナの流れが見えるようになるとは思わなかった。力も先ほどからかなり上がったように感じられる。
フュージョンという名の通り、オレはモンスターと物理的に融合したようだ。背中にコウモリの翼が生えている。選んだのは、五感を鋭くさせる力。おそらく空を飛べるようになるだろうという理由でこれにしたが、うまくいった。
「姿を変えたところで、お前の負けは決まりだ!」
ファジニが周囲の炎を集め、四階建ての住宅を丸呑みするほどの波を形成する。杖が振り下ろされると、それが一気に押し寄せてきた。




