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STRUGGLE  作者: 春巻き系男子
37/54

36th Card 終焉の足音

主人公の視点に戻っています。

 おれとエルーは次の町へ向かって人通りのない道路を歩いていた。車道の真ん中を歩いていても車が通ることはない。交通ルールというものが、とうのむかしに忘れ去られたような錯覚を起こす。

 聞こえるのは風と、擦れ合う枝葉の音だけ。

 かれこれ長い間一緒にいると話すこともなくなるし、話さないと落ち着かないということもなくなる。退屈しのぎに灰色の空を眺めてみても面白いものは見つからない。そうなるとおれは一人で考え事をするようになる。

 世界は変わってしまった。人々がモンスターの影に怯え自然に恐怖する世界へと。おれたち守護者が守らなければならなかった世界に大いなる変化を許してしまった。

 過去に原因があるというのなら、現在のこの状況は一体なにが原因なのだろうか。モンスターの封印が解かれたときだろうか。それとも古代の世界で力が生み出されたときだろうか。ひとまず、最初から振り返ってみるほうが手っ取り早い。


 古代の世界で人々は生活を豊かにするために、カードに宿した様々な力を使っていた。コピーの力、飛行の力、感覚が研ぎ澄まされる力、腕力を上げる力、などなど。しかし、それを悪用する人間が現れた。人を傷つけるために使われた力は意思を持つようになり、さらにはモンスターという実体を持つようになってしまった。モンスターとなった力はカードだったときと同様に人を傷つけるために行動した。古代の世界は危機に瀕した。そこで立ち上がったのが守護者と封印者だ。人間を守る役割を持つ守護者がモンスターを倒すことでカードに還元し、そのカードを封印者が封印することで人間の世界は救われることとなる。

 それからいくつもの年月が過ぎ去り、ついに何者かの手によって封印が解かれてしまう。

 おれは偶然にも守護者の役割を与えられ、モンスターと戦う日々を送ることになる。孤独な戦いではなかった。金澤絢十(けんと)、瀬戸紫苑、普久原(ふくはら)雅志、そしてH.O.P.E.という組織、彼らという仲間がいたから。密かにおれたちは戦いの日々を送り、順調にモンスターをカードに還元していった。しかし、敵も反撃を仕掛けてきた。H.O.P.E.本部に直接乗り込んできたのだ。モンスターの長である皇帝という強力な敵が大勢を率いて攻めてきたことにより本部の占拠。挙げ句の果てにはいままで倒したモンスターの復活まで許すこととなる。四ヶ月前の襲撃を契機に、モンスターは H.O.P.E.本部を拠点として大々的に活動するようになり、人々を襲った。

 H.O.P.E.の戦闘員でありおれたちと行動を共にしていたハーク・レイモンドと相川和真は事態の経緯を報告し、モンスターに無闇に攻撃を仕掛けないようにするためにH.O.P.E.の上層組織に赴いた。しかし、人類はモンスターを敵として認識し攻撃を開始。皮肉にもそれは皇帝が語った「モンスターが人類共通の敵となる役割を引き受ける」という言葉を実現させることとなる。H.O.P.E.元本部から半径百キロメートル圏内に避難命令が出された。我が家も含まれている。無人となった町に連合軍は総攻撃を仕掛けることとなった。

 守護者以外の人間がモンスターに絶対的に効果のある攻撃をできるわけがない。ましてや相手が皇帝となると尚更だ。人類は全戦力の七割を失った。以後、モンスターはいままで溜めていたものを吐き出すがごとく手当たり次第人間を殺戮する。人が多い都市部は集中的に狙われたことにより、人々は地方へ疎開を始めた。それに伴い、モンスターも各地へ移動する。

 守護者の感覚によって、人々の悲鳴や助けを求める声が毎日聞こえてきた。それなのに、なにもしないわけにはいかない。だから、おれたち守護者も人間を守るために出た。おれはエルーと西へ、雅志は東へ、瀬戸は北へ、絢十は南へ向かう。交通機関はほとんど機能を失っており、おれたちは自分の足と守護者の感覚を頼りに移動することを余儀なくされた。そうして一ヶ月が過ぎ、耐久力を上げるモンスターとコピーの力を持ったモンスターを倒した頃、人間に脅威を及ぼしているのはモンスターだけではないと知ることとなる。自然が人類に牙を剥いた。世界中で突如発生する異常気象により、モンスターが現れていない地域も被害を受けるようになったのだ。ただでさえ資源や食料の調達に苦しむ人たちに追い打ちをかけた。

 しかし、妙な話だ。常日頃から自然環境に対する警告というものはされてきたが、なぜこのタイミングで起こったのか。タイミングが良すぎる、いや悪すぎる。天気を操ることができるモンスターはいないかとエルーに尋ねたところ、いないと回答が返ってきた。しかし、天気を操るモンスターでなかったとしても、モンスターとこの異常気象になんらかの関係があるとしか思えなかった。

 モンスターに襲撃された町を訪れたことがある。町には数少ない生存者がいた。話を聞いたところ、遅ってきたのは狼の格好をしたモンスターとのことだった。住民は武器を取りモンスターに立ち向かった。四日間にも渡る死闘を繰り広げたのだが、最後の夜にはどういうわけか急に力が抜けていき、挑んだものたちはことごとく殺されてしまったという。気になったのが「モンスターと戦った人たちの力が抜けた」という話だ。似た体験をおれも以前したことがある。ドレンとの戦闘だ。ドレンはマナを吸収し力に変えることができるモンスター。つまり、スピードモンスターが訪れていた町にドレンもいた可能性がある。人前に姿を現さなかったことをふまえると、考えられる可能性は二つ。

 ドレンが人間に勝てないほど力を使い切っているということ。ただ、これは考え難い。マナを吸収してから住民と戦えばいいだけの話になる。

 もう一つは、ドレンが隠密に行動しなければならなかったということ。おそらく皇帝の指示によるところだと思われるが、ドレンはなんらかの目的を持って行動しているのではないだろうか。人目につかぬようマナを吸収してなにをするつもりかはわからないが、人間にとっては都合の悪いことに使われるのは間違いない。

 他の守護者にもドレンがなにか企んでいることを携帯端末で通して伝えた。すると、ドレンの姿を見たと瀬戸が言った。どうやら瀬戸はその町でモンスターと戦っていたらしい。その相手はスピードモンスターではなく、衝撃波のモンスターだった。その戦いのなかで彼女も力が抜ける感覚がしたようだがモンスターを倒した後、ドレンがマナを吸収している現場を目撃し、追いかけたのだが人を襲うことなく逃げられてしまった。それからドレンが現れることはなく瀬戸は渋々別の町へ移動したという。瀬戸が向かったのは北で、おれがいる位置からはかなり遠い。いくらモンスターとはいえ、スピードモンスターでもない限りそんな長距離を素早く移動できるわけがない。そして瀬戸はスピードモンスターを見ていない。つまり、スピードモンスターとドレンが一緒に行動している可能性は低い。

 この考えが正しいならすぐにドレンが現れることはない。次の町へはいち早く着き、ドレンが現れるよりも前にスピードモンスターを倒す。まずはそれが最優先事項だ。


 まとめるとこんなところだろう。やるべきことはわかっている。あとは運次第だ。

「けんいちさん、大丈夫ですか?」

 何度かエルーに名前を呼ばれていたようだ。全然気がつかなかった。

「ん? ああ、大丈夫だ」

「結構長い時間歩いてきました。疲れているんじゃないですか?」

 その言葉には苦笑い。疲れなんて以前から溜まりっぱなしだ。いまさら長距離を歩いたところで疲れたりしない。

「心配するな」

 しかし、それはおれに言えることであってエルーに当てはまるとは限らない。太陽も傾いてきている。そろそろ休む場所を探すべきだろうか。いや、日が出ているうちにできる限り進んでおきたい。次の町は、辿り着くのに最低でも一日はかかる。スピードモンスターがそれまでに着いてしまわないか心配だ。あまり時間がない。

 風が強くなってきた。おれたちが歩いている西の方面は台風が接近している地域でもある。その影響だろうか。

 携帯端末が振動する。これもまた便利な道具で充電するのにコンセントを必要としない。

 誰かがなんらかの情報を得たのだろうと思い、見ると雅志からだとわかる。応答。

「雅志か」

『剣一、今日はなんの日かわかるかい?』

 唐突に言われても困る。カレンダーを見る機会がないので曜日感覚などとうになくしてしまった気がする。いまさら今日がどんな日だろうとなんだというのか。

「わからん」

『剣一の誕生日じゃないか!』

「おれの誕生日?」

 素っ頓狂な声が出てしまった。これは予想していない答えだ。

 そうか、今日はおれの誕生日だったか。ということはつまり、十一月十日ということだ。

『世界はこんな状態だけど、一応祝わせてよ。剣一、誕生日おめでとう』

 雅志の言う通り、こんなときにする話ではない。でも、返すべき言葉は返しておこう。

「どうも」

『それじゃあ、また今度!』

「ああ」

 会話が終了した。本当にこれだけのために連絡を寄越してきたようだ。

「けんいちさん、今日が誕生日なんですか?」

 エルーが食いついてきた。隣にいれば会話もほとんど聞こえる。隠さずに「そうだ」と答えた。

「おめでとうございます」

 再び祝われた。

「ありがとう」

 再びお礼の言葉を返す。

「おめでたい日ですね」

 ああ、そうかもしれない。すでに夕方だが。

 そんな会話をしているとおれたちの後ろから一台の車が近づいてくる。隣に停車し、パワーウィンドウを開けて声をかけてきた。

「きみたち、こんなところでなにやってんの? 町まで結構かかるから、よかったら乗ってかないか?」

 誕生日だと良いことがあるものなのか。


 そして、一日が経過した。

 最初の敵と再び戦うのは非常に楽なものだ。それは向こうにも言えることかもしれないが、やつの動きは速くても頭の回転はそうではない。スピードモンスターの行動パターンは読めていたので先手を打って動きを封じ、そこを攻める。秒殺という言葉が当てはまるだろうか。とにかく、いまのおれの敵ではない。スピードモンスターを倒したことにより、この町にドレンがやってくることはないだろう。それに、この先の町にもモンスターはいる。そちらへ急がなければならない。

「次の町はどこになるんでしょう?」

 おれは地図を取り出し、エルーに見せる。目的の町に行くまでにいくつかの町を通ることにはなるが、中継地点となる町を一つに絞ることにする。こうしている間にも町でモンスターが人を襲っている。悠長な時間はない。

「一旦ここに寄ってからこの町へ向かう」

 地図の上を指でなぞりながら教えた。

「小さな町を通るんですね。モンスターはやって来なさそうです」

 目的地の町やスピードモンスターを倒した町の大きさに比べてしまえばエルーの言う通り小さい。たしかにモンスターがいる心配はなさそうだ。だが、目的の町のほうで待ち構えているモンスターは上級モンスターだろう。離れた距離だというのに薄っすらと力の流れを感じる。急いで向かわなければならない。

「走ろう」

「はい」

 倒したばかりのスピードモンスターの力を使おう。これで常人を上回る速さで移動することができるようになる。まだ陽は高い。このまま行けば夜までには中継地点に辿り着ける。中継地点に着けば目的地までもうすぐだ。

 予定通り、六時間連続で百キロメートルもの道のりを歩いたり走ったりして中継地点に入る。十一月の半ばに差し迫った今日のことだ、午後五時を過ぎてしまえばすっかり夜の帳が下りてしまう。西の地域は台風の影響を受けているせいか風が強い。一旦、この辺りで休んだほうが良さそうだ。マナはもちろんのことだが、体力も結構消耗した。

 休息がてら、ここに住んでいる人の話でも聞いてみようか。この先の町で起きていることがなにかわかるかもしれない。

 ぽつぽつと一軒家が点在する。民家よりも水田や畑、ビニールハウスのほうが多い。近くに山や森があり、風に吹かれてさざめいている。辺りに出歩いている人の姿は見えない。街灯が照らすのは誰もいない場所。コンビニはどれだけ離れたところにあるのだろう、いや、そもそもあるのだろうか。都会の喧騒から逃れたい人にとっては絶好の土地だ。

適当に明かりがついている家に向かう。

「……なんだ」

呼び鈴を鳴らすと出てきたのは五十代くらいの男だった。おれたちを見るや、すぐに余所者だとわかったのか警戒した様子を見せる。玄関のライトをつけてくれなかったせいで日に焼けた肌が一層黒く見えた。黒い顔で目立つのが額に真っ白なガーゼを当てていることだ。白黒さんとでも心のなかで呼んでおこうか。

「こんばんは。ぼくたち、この町に行こうと思うんですが、近道ってありますか」

 白黒さんに地図を見せる。本当に近道を知りたいわけではない。いきなり、この町にモンスターは出ていますか、と訊かずに状況を知るための質問だ。

 白黒さんは地図を見ずに、おれの顔をじろじろと見てくる。おれの顔になにかついているのだろうか。

「あっ、おめえ!」

 白黒さんが素っ頓狂な声を上げる。

「さっきはよくもやってくれたな!」

 叫ぶや否やいきなり殴りかかってくる。咄嗟のことでなにがなんだか状況が掴めない。ひとまず、拳を避けた。

「なにするんですか」

「うるせえ、忘れたとは言わせねえぞ! さっきおいらを殴っただろ!」

 白黒さんはなおも当たらないパンチを繰り出してくる。エルーは慌てふためいた様子で事態を見ている。

 当然のことだがおれには殴った覚えはない。大体、守護者をやっていて人に暴力を振るうって守護者失格じゃないか。

「おれは殴ってないです」

「嘘つけ!」

 白黒さんの拳が空中を切る。スピードモンスターと戦ったばかりのおれとしては物足りない速度だ。

「あの、やめてください!」

 ようやくエルーが止めに入ってくれた。白黒さんはあれほど鼻息荒げてきていたのに、鶴の一声が効いたのか動きを止める。

 沈黙により、風の音が大きく聞こえた。

「けんいちさんはずっと私といて、さっきこの町に着いたばかりなんです」

「なんだって、本当か?」

 エルーとおれを交互に見る白黒さん。

「あー、よく見るとあんたとは違ったかもしれねえな」

 白黒さんはおれを上から下まで見て腕を組む。まともに殴られていないからいいものの、そうでなければ人違いでは済まされない話だ。

「いったいなにがあったんですか?」

 エルーが白黒さんに近づく。するとどういうわけか、この男、目を細めて事情を話し出した。典型的な女に弱い人間と見える。

「いや、実はな、今日の夕方頃にあんたに背格好がよく似た男がいてよお。そいつにいきなり殴られたんだよ」

 なるほど、それでおれを見て仕返しをしようとしたわけか。とんだとばっちりだ。

「先ほども言ったように、その時間帯ならまだ私たちはここには着いていません」

 アリバイは証明されたということになる。身内の証言は証拠にはならないかもしれないが。

「まあ、あんたが言うなら間違いねえな」

 鼻の下を伸ばして言う白黒さん。

「ご理解いただけて嬉しいです」

 エルーは笑顔で返した。白黒さんはますます舞い上がった様子だ。

 ただ、おれの背格好に似た男がいたという話は気になる。そんな男、一人しか思いつかない。

「その男、どこに行きましたか」

「知らねえよ。逃げたんじゃねえの」

 いや、それはおかしい。逃げる必要がない。それともなにか裏があるのか。

「ところでねえちゃんよ、うちに泊まってかねえか? 遠くから来たんだろ? 今日はゆっくり休んでけ。風も強いしよ」

 絶句。この男、下心丸出しじゃないか。

「あの、ええと」

 さすがのエルーも今回ばかりは異様な雰囲気を感じ取ったようだ。真面目に答えるなよ。

「なあに、今日休んだって次の町にすぐ着くべ!」

 たしかに距離を考えれば目的の町は近くなのだが、そういう問題ではない。

 ……あれ、いまなにかおかしくなかったか?

「おめえも泊めてやってもいいぞ」

 エルーのときとは打って変わって上から目線な態度。どうせ物置にでも入れるつもりだろう。

 いや、そんなことはいい。ただこの違和感はなんだ。なにか引っかかる。鼻のかゆみのように気になると抜け出せなくなる。

「ねえちゃん、さあ、うち入れ」

 白黒さんがエルーの腕を掴もうとする。その前に、おれが白黒さんの腕を止めた。

「なんだおめえ」

 低い声で怒鳴り声を上げ、手を振り払う白黒さん。おれはエルーの前に立つ。

「あんた、いったいなにものだ」

「はあ? なに言ってやがんだ?」

「え、どういうことですか?」

 エルーにも伝わるように説明したほうがいいだろうか。

「この男は普通じゃない。なぜなら、こいつはおれたちの行こうとしている町を知っていたからだ」

「バカヤロー、地図ならてめえが見せてきたじゃねえか!」

「そう、おれは地図を見せた。見せただけだ。どこに行きたいということは伝えていなかった。それにお前は地図に目を向けていない」

「いや、でもそんなもん勘でわかんだろうが」

 白黒さんの語気が弱回る。

「そうかもな。だが、ここから行ける場所は他にもある。それにも関わらずお前はおれたちが行こうとしている町がすぐに着く場所であることを知っていた。このことをどう説明する」

 白黒さんが舌打ちする。睨まれたところで怯むおれではない。

「へっ、バレてんなら仕方ねえな。だんなぁ!」

 すると暗闇からおれと同じ顔が浮かんだままこちらにゆっくりと近づいてくる。顔だけがあるわけではない。街灯に照らされて全貌がはっきりする。格好が黒いため景色と同化していたのだ。やつは立ち止まり、おれたちと対面するなり、

「よう、木崎剣一。お前が来るのを待っていた、そこの人間を使ってな」

 と、似合わない笑顔で言った。

 やつの名はシャドウ。完全擬態能力という対象の姿形のみならず、記憶や能力までも完全にコピーするという力を持つ上級モンスターだ。他のモンスターの力も使えるため、戦況に合ったモンスターに変身することもできる。また、やつが人間に変身しているあいだは人間として認識されるため、守護者の得物が効果を発揮できなくなるというとんでもない使い方まである。もともとは違う人間の姿で行動していたあいつだが、どういうわけかおれの姿によく変身している。以前にも自分に変身したやつに名前を呼ばれたことがあるが、自分と同じ顔に何度も名前を呼ばれるのは慣れない。

「では、おいらはここいらで」

「待て」

 そそくさとシャドウの後ろから立ち去ろうとする白黒さんをシャドウが止める。彼は身体を強張らせて動きを止めた。

「よくやってくれたお前に褒美をやろう」

 刹那、シャドウは黒い剣を抜き、白黒さんに斬りつける。

「……自分を騙した人間を助けるとはどういうつもりだ」

 間一髪、刀で防ぎに入った。おれがあいだに入らなければ今頃白黒さんは真っ二つになっていただろう。

「お前こそどういうつもりだ」

 シャドウの剣を押しのけた。白黒さんは脇目も振らず叫び声を上げながら走っていく。

「使い終わった道具は片付ける。親に教えてもらっただろ?」

 こいつはおれの記憶を持っている。まさに親に言われたことだが、幼少期の出来事もわかっているのはさすがに気持ちが悪い。

「それに、おれはお前と戦うつもりで待っていたわけじゃない。話があるんだ」

 シャドウは構えを解いた。

「話?」

「ああ。皇帝にH.O.P.E.本部が乗っ取られて三ヶ月が経ったわけだが、どうだいまの世界は。各地に現れるモンスターに異常気象。おかしいと思わないか? それに上級モンスターのなかでも幹部級のやつらは一歩もあそこから出ちゃいない。まるでなにかを守っているみたいにだ」

 まさかこいつは真相を教えるようとしているのか、敵であるはずのおれに。一体なんのために? 罠か?

「皇帝は大きな計画を企てている。人間がいない世界でもモンスターが存在していられるように、おれたちの理を変えることを目的とした計画だ。そのために、あらゆる望みを具象する万能なる力、すなわち神の力を生み出そうとしている」

 いくらモンスターが、破壊の力が実体を持った存在だとはいえ、ルールを壊すことはできない。望みを叶える究極の力、それを使って皇帝はモンスターの宿命を壊そうというのか。

「カードを作り出す方法は知っての通り、生命に宿るマナと大気中に漂うマナが必要。大気中に宿るマナというのはこの星に宿るマナだ。そして、カードを作るのに必要となるマナの量は力によりけり。その力が強大であればあるほど多くのマナを必要とする」

 神の力、それだけ強力なものなら莫大な量のマナを必要とする。

「皇帝はドレンに人間のマナと大気中のマナを集めさせている。そのドレンの移動にはヴェルティナが関与しているはずだ。あいつは自身が訪れたことのある場所か、自身が触れたものがある場所に瞬間移動することができるからな」

 点と線が繋がった。神の力に必要なマナを集まるためにドレンは各地に、しかもヴェルティナの力を借りて他のモンスターがいる場所に現れ、隠密にマナを吸収していたのだ。スピードモンスターを早いうちに倒して正解だった。これでドレンとヴェルティナの移動経路を一部遮断できたことになる。

「もうここまで言えば、異常気象の理由もわかるだろ?」

「ああ。この星のマナを奪っているからだな」

「その通り。果たして人間が滅びるのはモンスターによるものか、世界によるものか。どちらにせよ、あまり時間は残されていないようだぜ」

 絶対に滅させはしない。皇帝の野望を打ち砕き、人間を、世界を、救ってみせる。おれが心のなかで誓ったとき、シャドウの口の端が上がった。

「なぜおれに話した」

「決まってるだろ。皇帝を倒したいからさ。おれは、人間のいない世界なんてこれっぽっちも望んじゃいない。人間がいない世界で、一体だれがおれを最強だと認めてくれるんだ? だからこそ、皇帝の野望をぶっ壊したいんだよ。そのためには皇帝のそばにいる他のモンスターが邪魔だ。お前たちにはあいつらをさっさと倒してもらいたい」

 H.O.P.E.本部襲撃の際に皇帝に戦いを挑んだが家臣たちに阻まれたのか。こいつの言いなりなるのは御免だが、人間を守る以上その家臣モンスターたちを倒すことは必至。ここは大人しく受け入れるしかない。それに、先を急がなければならないことに変わりはない。こいつを倒すのは皇帝を倒した後だ。

「……わかった。おれはこの先の町を目指す。お前は?」

「おれはお前たちが頑張ってくれるのを期待して一足先に待っているさ」

「もう、この町の人は襲うなよ」

 それだけが心配だ。おれがここから去ってからやつの本領を発揮されても困る。

「安心しろ。お前が逆戻りする時間は作らない」

 どうだかな。不安はあるが、いまシャドウと戦って勝てるほどマナは残っていない。ここは信じるしかないか。

「ところで、北条はどうしてる」

「北条さん? 全然会ってない」

 北条はH.O.P.E.本部が襲撃されたときから行方不明だ。というのも、他の職員も散り散りになって逃げたので、誰の行方も知らないのだが。まさか、シャドウは心配しているのだろうか。

「そうか。あいつは面白いやつだったよ」

「どういう意味だ?」

「ま、せいぜい頑張ってくれよ、守護者さま。次の町のモンスターを早く倒さないと、またドレンにマナを吸い取られることになる」

「わかってる」

 話題を出してきたのは向こうなのに、勝手なものだ。

「それじゃ、また会おう」

 シャドウは姿を飛行モンスターに変え、虫のように羽を高速で動かしながら空へ舞い上がると風とともに去っていった。

「とんでもないことになりましたね」

 エルーがぽつりとつぶやいた。皇帝の計画、世界のタイムリミット。たしかにどれを取っても大変なことばかりだ。しかし、おれの感覚は麻痺していたのか、危機を感じなかった。

「それは最初からだよ」

 モンスターが解放された時点で、とんでもないことになっていたのだから。

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