30th Card 刃向かうもの
守護者の肉体のおかげで火傷は常人よりも遥かに早く治った。雅志なんてその日のうちにぴんぴんしていたくらいだ。ただ、おれたちとは違って、未だに絢十はベッドのうえで寝ていなければならない状態にいる。
「金澤くんはマナを著しく消費させてしまったため、お二方よりも回復が遅れているようですね」
場所は本部のミーティングルーム。
北条が絢十の現状について、おれと雅志に詳しく教えてくれていた。
「守護者に宿るマナは常人と比べて特別で、量が多い。そのおかげで痛みに強くなったり、怪我が早く治ったりします。金澤くんは、おそらく前回の戦闘において回復するために必要な分のマナも使ってしまったのでしょう」
つまり、絢十はマナ不足の状態にあるわけだ。
「解放の力を使ったことが原因、ですか」
「そのようです。計測した隊員からの報告によりますと、あの力は大量のマナを消費することによって発動します。上級モンスターの力だから大量のマナを消費するとも考えられるため、あのカードだけに言えることではない可能性がありますが」
上級モンスターと対等に戦ううえでは不可欠な力だと思っていたのだが、力の使用にはそれ相応のリスクを伴うときたものだ。強大な力というのは諸刃の剣か。
北条が青のカードと黄色のカードを一枚ずつ差し出してきた。
「調査が終わったのでお返しします。先例があったため、上級モンスターの解析は早く終わりました」
二枚ともおれが受け取る。青のカードはおれが食い止めて倒した攻撃と防御、素早さを上げる力。黄色のカードは、絢十が満身創痍になってまで倒した炎の力だった。
「それと古代人の少女、エルーさんのことですが、一通りの研究を終えることができたので本日お帰しします」
「本当ですか?」
反射的に声が出た。
「はい」
「やったね、剣一!」
たしかに、エルーが帰ってくるのは喜ばしいことだ。一時はモンスターの可能性があるとか倒さなければならないとか、かなり悩まされたものだった。
「彼女は検査室にいます。では、私はこれで失礼します」
北条が部屋を出る。おれと雅志だけがミーティングルームに残っていた。
「いろいろと悩んでたけど、一つは問題解決って感じかな」
「そうだな。これはお前に渡しておく」
雅志に青のカードを渡す。雅志は枚数が少なかったはずだ。
「ありがとう。……それでどうするんだい。エルーさんにでも会いに行くかい?」
迎えに行ってやらないといけないわけだが、その前にやることがあると思う。
おれは北条から渡された黄色のカードを見つめる。通常ならカードはそれを使える守護者が持っているのが得策だ。なら、おれか雅志が持っているのがいいだろう。でも、なんとなくこのカードはおれたちが持つべきではないと感じた。と同時に絢十に渡すべきだという思いもある。
「いや、まずは絢十の部屋に行く」
「そっか」
おれたちはミーティングルームから、絢十が寝ているはずの病室へ向かった。
ゆっくりとその部屋の扉を開けると絢十がベッドのうえで目を閉じていた。おれひとりだけが部屋に入り、枕元にそっと黄色のカードを置いておく。静かにそのまま去ろうとしたとき、呼び止められた。
「木崎」
絢十が目を覚ましていた。
「よう」
「このカードを渡しておく」
絢十はおれに赤のカードを差し出した。貸していたドレンのカード、マナ吸収の力。
「すまん、まだそこまで話せない」
「わかった。ゆっくり休んでくれ」
「……ありがとな」
おれは片手を挙げて、挨拶代わりにした。
部屋を出ると、雅志が壁にもたれかかっていた。
「それじゃ、エルーを迎えに行くか」
おれはエルーに会いに行こうとした。
雅志が壁から離れる。
「あ、ぼくはこの辺で失礼させてもらうよ」
妙ににやけた表情の雅志。余計な一言が出るかと思ったが、雅志はそのまま駐車場へ向かっていく。
いつも通りのことだが、ひとりでエルーに会いに行くことになってしまった。
検査室の前で門番をしている男性に声をかけ、なかにいるはずのエルーを呼んでもらう。男性が検査室へ入って少ししてからエルーが出てきた。
「こんにちは、けんいちさん」
相変わらず礼儀正しく頭を下げて挨拶するエルーに、おれは、よう、と返すだけだった。
「先日、上級モンスターを倒したと耳にしました。大変だったそうですね」
「熱い戦いだった」
複数の意味を含む。
「けんいちさんが倒したんですか?」
「いや、おれも戦ってはいたけど倒したのは絢十だよ。反動で動けなくなってるけどな」
「それは心配ですね。お見舞いには行かれないんですか?」
「さっき行ってきた」
目的は見舞いではなかったし土産のフルーツを持っていったわけでもないが、会って話したのだから結果としては同じこと、か。
「どうでしたか?」
「話せるくらいにはなってたけど、しばらく動くことはできないそうだ」
「早く良くなるといいですね。相手はどんな上級モンスターだったのでしょう?」
「炎を操るやつだ。前に教えてくれた上級モンスターの一体。そいつを倒すために絢十はマナをたくさん使ったんだ」
「では、けんとさんはマナ不足のせいで動けないんですね」
「ああ」
「それなら、マナを分け与えてあげることができれば回復が早まると思うんですが……」
その手があったか。というか、
「そんなことができるのか?」
おれの問いにエルーは少し考えてから答えた。
「みんなができるというわけではありませんが、守護者であればできるはずです」
知らなかった。それができるなら話は早い。
「けんいちさんも気をつけてくださいね。今回、けんとさんはマナがなくならずに済んだようですけども、もしなくなっていたなら、死に至っていました」
絢十は知らず知らずのうちに危険な架け橋を渡っていたということになる。上級モンスターを相手にするというのは、そういうことを意味するのかもしれない。
エルーが不安気な表情でこちらを見ていた。なにか言葉を返してやらなければならない気がした。
「死なない程度に頑張るよ」
せいぜい肩をすくめてみせることしかできない。
万が一、どうにかして敵を倒さなければならない局面に立ったとき、その方法が自分の身を犠牲にする以外になければ、それを実行しようという考えに至るかもしれない。
エルーには言えない。でもこのままだと、おれは本当のことを話してしまうかもしれない。そうならないためにも、話題は変えるべきだ。
「じゃあ早速、絢十にマナを分けてくるかな」
「はい」
これだけは、一応、伝えておこう。
「今日で家に帰れるんだな。……よかったな」
背を向けたままでそう言った。
「はい! ありがとうございます」
嬉しそうな声を上げてからの行動は見えなくてもわかる。エルーは頭を下げているはずだ。
「絢十にマナを分けに寄り道するぞ」
「はい」
再び絢十の病室へ足を運ぼうとしたとき、おれはモンスターの存在を察知した。ところがすぐにそれは消えてしまった。携帯端末を確認してみるが連絡は入っていない。反応が消えるのが早過ぎて人工衛星に認識できなかったのかもしれない。
「けんいちさん、どうかしましたか?」
エルーが怪訝な表情を浮かべている。
一応、モンスターがいないか確認してみたほうがよさそうだ。絢十には悪いが、後回しにさせてもらおう。
「一旦、確認だな。モンスターが現れたのかもしれない」
駐車場まで向かい、バイクに乗る。目的地は、たしかこの辺りだった、と思われる場所を入力しておく。近くまで行けば自ずとわかるので多少の誤差は問題ない。
発進。
バイクを走らせていると、モンスターの反応は感じられないのだが、なにかが戦っている感覚は伝わってきた。この気配は、雅志のものだ。一体、どんな相手と戦っているのか。
やがてそれも消えて雰囲気が静まった。
「モンスターの気配を一瞬だけ感じたんだがすぐに消えたんだ。だが、雅志がなにかと戦っていたようなんだ。これはなんだと思う?」
「守護者はモンスターが戦意高揚しているとその存在と位置を感じ取ることができます。距離が遠ければ感じられないこともありますが、まさしさんが戦っていたのを感じたのがわかったのにモンスターについてわからないというのは妙ですね。そのようなモンスターの話は聞いたことがないのですが……」
と、話しているうちに目的地に到着。
このすぐ近くで戦いがあったとみて間違いはない。
バイクから降りて周囲を探す。
ほどなくして、雅志のバイクを見つけた。そして、得物を構えてはいるものの、ボロボロの状態な雅志も現れた。雅志の得物の先には黒衣を纏い、口元を隠した男が立っている。彼の手には身を包んでいるものと同じ黒い剣があった。
おれは雅志の隣に並んだ。
「雅志、なにがあった」
男からはモンスター特有の気配を感じられない。ただの悪漢かとも思えたが、そんなやつに守護者の力を持った雅志がここまで手酷くやられるとも考えられない。守護者の身体は、一般人に容易く傷つけられるほど弱くはなかった。
「なにも感じないかもしれないけど、あの人は……モンスターだよ」
雅志は男を指差す。やはりモンスターだったのか。となると、やつは人間に変身できる能力を持っていることになる。
「け、けんいちさん……?」
エルーが突然名前を呼んできた。なにごとかと思ったが、どうやらおれの名前を呼んだわけではないようだ。エルーは男の顔を見つめたまま動かない。
おれはもう一度その男の顔をよく見た。
……誰かに似ている。しかし、それが誰なのかわからない。せめて、口元をはっきりと見ることができれば思い出せるのかもしれないが、モンスター相手にそれを頼むのも面倒な話だ。
「けんいちさん、その男は完全擬態能力を持つモンスターです! いまはけんいちさんの姿に化けています!」
耳を疑った。
あいつがおれに化けているだって?
男は口を覆っていた布を外す。そこには間違いなくおれの顔があった。ドッペルゲンガーという言葉が浮かんできた。
「どうしておれの姿に……。なにが目的だ」
おそらくは、人間を殺すこと、で片付けられるのだろうが決めつけるのはよろしくない。
「もちろん、お前たちを倒すことだ」
当たらずとも遠からず。
他にも擬態できる姿はあっただろうに、おれの姿に化けるとは実に趣味とセンスのいいやつだ。こいつはなんとしても倒しておきたい。
「本当は皇帝を倒してくれるまでは相手にしなくてもいいかと思っていた。だが、北条がなにかを企んでいるせいで事情が変わったんだ」
この上級モンスターがまるで皇帝を倒してくれと言っているように聞こえたが、おれの勘違いだろうか。それに、北条のことをどういうわけか知っている。ひょっとしたら切り札のことももう知られているのか。
「お前、一体なんなんだ」
おれが尋ねると、おれのニセモノが人差し指を伸ばす。
「おれはシャドウ。この世界で一番強い存在。そして皇帝すらも超える存在。それを目指す者だ」
こいつはモンスターの裏切り者でありながらも、おれたちの味方ではない。
皇帝が仲間を統率できないその程度のやつなのか、それともこいつが異端なのか、どちらなのだろうか。皇帝を持ち上げるつもりは全くないが、多分後者。
「北条のことは、どうして知ってるんだ」
「教えてやってもいいが……それならこちらも教えてもらおうか」
交換条件を出してきたか。面倒な相手だな。
「なにを」
「北条の企みだよ。あいつはおれたちモンスターを倒そうと図っている。どうやら切り札を持っているそうだが、それはなんだ?」
なるほど。
北条がモンスターに対抗する手段を現在進行形で開発している事実は知っているが、それが一体どういうものなのかをこいつは知らないわけだ。それはありがたい。
「人間が怖いのか? 皇帝と戦わずに済まそうとしていたくせに、自分のことを最強とはよく言えたもんだな」
「口は達者なやつだな」
「どうも」
シャドウが鼻で笑う。
「守護者には決定的な弱点がある。お前たちは知っているだろう」
守護者の弱点? いったいなんのことだ。
「剣一、ぼくたちじゃいまの彼には攻撃できないんだよ」
彼、というのには抵抗があるが、問題なのはそこではない。
「どうしてだよ」
敵に目を向けたまま尋ねた。
「ただの擬態能力じゃないんだ。姿と能力を自分のものにできる完全擬態能力を持ってるんだよ。だから、いまの彼は人間と同じなんだ」
守護者は人間に危害を加えることはできない。先日、雅志がそのようなことを言っていた。
「槍で攻撃しても、全部通用しなかった」
そのルールが、いま目の前にいる敵にも適用されているだと。
「そんな馬鹿な」
「まさしさんの言う通りです……」
エルーも同じ答えを出してきた。なら本当のことだろう。
「試してみるがいいさ、木崎剣一」
自分とまったく同じ顔に、同じ声で自身の名前を呼ばれるというのは酷く気味が悪い。鏡に映る自分が勝手に動き出すホラー映画を見ているような気分だ。そんな映画を見たことはないけれども。
シャドウが剣先を向けてくる。おれも守護者の刀を出すがどう攻めようか考えものだった。
この上級モンスターが守護者であるおれに擬態しているにも関わらず、守護者の得物ではなく、黒い剣を使っていることから考えてもそれは明らかだろう。こいつに対しては、間違いなくおれたちの攻撃は通用しない。
いままで様々なモンスターと戦ってきたがこんな相手は初めてだ。
どう戦えばいい。攻撃できない相手をどうやって倒せばいい。
こちらが様子を見ていると、無言で向こうから攻めてきた。振り下ろされた剣を刀で受け流す。反撃を加える隙はあった。
腹部に、刀ではなく、拳を叩き込む。
おれたちが現在わかっていることは、守護者の得物での攻撃が人間には効かない可能性が高い、ということだけだった。もしかしたら、得物を使わない攻撃ならダメージを与えることができるのかもしれない。
ところが、剣を持っていないほうの手で突きを防がれてしまった。
「おれはお前の姿や能力だけを模倣しているわけではない。お前の記憶も持っている。どういうことかわかるか。つまり、お前の行動パターンを容易に予想できるというわけだ」
おれの記憶までもコピーしているとは、まさに「完全」擬態能力の持ち主というわけか。
すぐに間合いを取る。
が、その動きも読まれていたようで、動きに合わせて剣を振ってくる。刃がおれの腹をかすめた。
反射的にこちらも刀を振る。
それに対する回避行動は取られなかったため、刀身は相手の身体に完全に当たったのだが効果は見られない。
やはり、守護者の攻撃が通じない。
通常なら相手が怯むと思われた攻撃を意に介されなかったことでおれに隙が生じてしまい、左肩から右の脇腹にかけて斬られてしまった。世間でいう袈裟切りだ。これは効いた。立っていられない。
地面に膝をつけたおれの首元に、シャドウの剣が当てられる。
「白状するか、北条の切り札とやらを」
間近にいながら、おれの手にある刀で斬りつけることもできない。でも、守護者の力ではない攻撃ならばどうだ。
「……しない!」
衝撃波のカードを発動。超近距離でこの攻撃を回避できるわけがなかった。
近くでモンスターの反応がした、と思った瞬間には敵は姿を変えていた。
おれと雅志と絢十の三人掛かりでようやく倒せたモンスターの姿。パワーとスピード、そして防御の三点が極めて高いモンスターの姿へと変身していたのだ。防御力、あるいは耐久力はいままで戦ってきたモンスターのなかでは断トツ。その姿に擬態したシャドウには衝撃波の影響がほとんどない。
まさか、完全擬態能力をこのような形で使ってくるとは。
しかし、敵がモンスターの姿になっているいまがチャンスだ。こいつにだけは一矢報いてやらなければならない。おれは残された力で刀を振り下ろす。
モンスターの反応が消える。
「お前の動きなど、すでに見切っているぞ」
いつの間にか、おれの姿へ戻っていたシャドウが片手で刀を押さえていた。さらに、やつの刀でおれの刀を弾かれてしまう。
……ん? 守護者の得物? さっきの黒い剣じゃないのか。
そんな疑問を余所に、シャドウは手にある守護者の得物を、先ほどまで使っていた黒い刀へ変える。そのとき、再びモンスターの反応を察知した。
「トドメはこの剣で刺してやるよ」
シャドウが剣の刀身をなでる。来るか。
一瞬にしてシャドウの姿が視界から消えた。なにが起こったかわかったと同時に痛みが腹部から押し寄せてきた。まさか、この技は……【瞬速斬】か。
「けんいちさん!」
「剣一―!」
エルーと雅志の叫びが、揺らめく意識のなかでかろうじて耳に届いた。二人の声が、おれに正気を保たせてくれた。
いまここで、やられるわけにはいかない。
背後に顔を向けると、やはりそこにはシャドウが立っていた。同じ顔に見下されているとは実に奇妙な話だ。
「……元気だな。少しばかり外したか。だがどうだ、自分の技にやられる気分は」
たしかに防御の反応はできたが、攻撃はほとんど当たっていた。
こいつ、性格がかなり悪いな。本当におれのニセモノのつもりか。やるならもう少しうまくやったらどうだ。
「残念ながら、そいつはおれの技じゃないぞ、ニセモノ」
「まだ減らず口を叩けるだけの力があったか」
シャドウが剣を上げる。
守護者は「人間を」攻撃することはできない。ということは「人間以外のもの」になら攻撃できるという可能性を示している。そして、そのことはシャドウ自身が証明してくれた。体力回復にマナを費やすとして、もう一度衝撃波を使うことはできない。衝撃波以外で相手を攻撃する手段はこの作戦しかなかった。
弾かれた刀をおれの手に呼び戻し、振り下ろされた剣に目掛けてそれを振るう。刀と剣がぶつかる衝撃が腹にまで届いた。激しい痛みが走るがここで力を緩めることはできない。
あともう少しだ。もう少しであいつは剣を手放す。痛みを堪えて剣を押し返す。
「ん……?」
なにかに気を取られて、シャドウの力が抜けた。そこで一気に向こうの剣を押し上げる。
シャドウの手から、剣が放れた。
おれは黒のカードを発動した。お返しだ。
【瞬速斬】発動。
これが本物だ。よく見ておけ。
手応えは充分にあった。攻撃は見事命中したのだ。
シャドウの、剣に。
「なにが目的だ。時間稼ぎにしかならないぞ。剣なんていくらでも出せる」
シャドウは堂々と右手を前に出し、剣を出そうとする。このときを待っていた。
おれは瞬発的に、刀でやつの手を斬りつけた。
「なに!」
まったく予想外の出来事に直面したと言わんばかりの声を上げていた。
それもそうか。
斬られた手を押さえながらシャドウは後退りする。
自分は攻撃を絶対に受けないだろうと高を括っていたな。
どんなに見た目がおれと同じでも、どんなに能力と記憶が同じでも、やはりニセモノはニセモノだ。
「どういうことだ。お前たちはおれを攻撃できないはず……」
腹部が痛む。これ以上素早く動いて攻撃することはなかなか難しい。もう一度攻撃の機会を狙うのは無理だな。
「散々おれに能力を見せつけてくれたな。大体わかったぞ、お前の弱点が」
あまり大きな声でしゃべると傷に響く。
シャドウは自身の能力を発動するときには、人間の姿に擬態していても一瞬だけだが、モンスターの気配を見せる。武器を出すのもモンスターとしての能力だからなのか、その反応を認識できたのだろう。やつ自身はそのことに気づいていなかったようだった。つまり、シャドウの弱点というのは、「能力を発動するときにモンスターとして認識されること」だ。そのタイミングが攻撃の狙い目だった。
まあ、わざわざ教えてやる必要はない。
「……ふん。やるじゃないか。今日はこの辺りで退散させてもらおう」
どうやら窮地に立たされたから逃走を図る、というわけではなさそうだ。どちらかといえばおれたちのほうが窮地なのだから、向こうが逃げる理由はない。
シャドウは雅志が倒した羽モンスターへ変身し、ばさっと羽ばたき空へ逃げた。
「けんいちさん、大丈夫ですか?」
エルーが駆け寄ってきた。
「まあな。でも、どうしてあいつは逃げたんだ」
「もしかして援軍を呼んだのがばれちゃってたのかな」
雅志がつぶやいた。
「援軍?」
「剣一が戦っている間に、相川さんたちに連絡を入れてたんだ。ぼくたちじゃあのモンスターには攻撃できないけど、アーマード・ソルジャーなら攻撃できると思って」
そいつは助かった。おれたちがこのまま戦闘を続けていたら、もっと酷い目に遭っていたことだろう。
雅志の言った通り、H.O.P.E.の特殊車両が駆けつけてきた。
「いい作戦だ」
雅志の肩に手を当てた。
「へへっ、どうも」
相川が車両から降りてくる。
「雅志、剣一、大丈夫だったか?」
「今回も手強い相手でしたよ。もう逃げられちゃいましたけど」
雅志が答えた。おれはそれに付け足しておく。
「上級モンスターです。完全擬態能力を持っていて、どんな姿にも化けられます」
「本当か。そいつは厄介な敵だな」
「人間に化けられてしまうとおれたちの攻撃はまったく無意味になるんです。やつとの戦いではアーマード・ソルジャーの力が必要ですね」
「おっ、嬉しいことを言ってくれるねー! わかった、俺たちも頑張るよ」
相川が声の調子を上げた。
ふと思う。シャドウは本当に戦闘員が来るから逃げたのだろうか。一撃を食らってはいたものの、守護者を倒すのはそこまで難しいことではなかったはずだ。上級モンスターでありながら、複数の人間を相手にするのは苦手、ということもないだろう。なぜかはわからないが、彼らに来られると、やつにとってはよくないことだったのかもしれない。
ひょっとしたら、北条ならなにか知っているのではないだろうか。




