26th Card 操り人形
エルーは本当に敵になってしまったのか。
「剣一!」
耳元で大きな声で呼ばれて我に返る。おれは地面に寝そべっていた。ここはどこだ。
すぐに起き上がり雅志がいたことに気づく。
「大丈夫かい。モンスターが幻を見せてたんだよ」
幻……。周囲を見渡せば、ここはどこかで見たことがある風景で離れたところには一体のモンスターがいる。そうだ、おれはあの上級モンスターから攻撃を受けて、意識を失ってしまった。そして幻を見せられていたのか。
上級モンスターが笑いながらこちらを見ている。
「あいつが、前にエルーが言っていた幻を操る上級モンスターだったのか」
「ご名答〜! ファルゲンと呼んでおくれ。しかし残念じゃな。我が輩の幻は実際に痛みを伴うものなんじゃが、死ぬ前に仲間に助けられたか、それとも我が輩がうっかり手を抜いてしまったかな」
大変ご趣味のいい幻だった。もう二度と見たくない。
おれと雅志はそれぞれ得物を構える。
「おお〜? 我が輩の能力を知っててなお、戦いを挑むつもりか。だが残念じゃったな〜。おぬしたちの相手は我が輩じゃない」
背後から殺気を感じた。どうやらはったりではないようだ。おれと雅志は二手に分かれて攻撃を避けた。
新手のモンスターかと思いきや、攻撃を仕掛けてきたのは瀬戸だった。まさか、また幻を見ているのだろうか。幻ならばおれたちが攻撃しても問題はないが、もしそうでないのならば大変な事態となってしまう。声をかけてみる。
「瀬戸、どうしたんだ!」
返事はなかった。
「無駄じゃよ。小娘は我が輩と女帝の力によって操られておる」
「なんだと」
「この小娘、実に面白くての〜。我が輩たちを倒すためにのこのこやってきたんじゃが、結果的に女帝に操られていまじゃ一番の手駒になってしまったわい」
最近、瀬戸と連絡が取れなかったのはそのためだったのか。それよりもあいつ、独自にモンスターの居場所を掴んでいたとは。
「これは幻なんかじゃない。さあやれ、シオン」
瀬戸が動き出す。手にある長刀は守護者の得物ではなかった。おそらくは女帝か他のモンスターから与えられたものだ。それを振り回してくる。
「どうする剣一。いつものときみたいに瀬戸さんを押さえても意味がなさそうだよ」
攻撃をかわした雅志が言った。
その通り。瀬戸を解放してやるには、操っている黒幕をどうにかするしかない。しかし、瀬戸がそれを阻んでくるだろう。最善で最難関な方法だ。
そこへH.O.P.E.の援軍が到着した。自動車から銃を携えた戦闘員が降りてくる。出てきたところで相手になるとは思えないが、敵の注意がそちらに向かったおかげで攻撃の手が緩んだ。
「木崎くん、大丈夫ですか?」
沖田が尋ねてきたが、大丈夫でないことは明らかだ。事情を伝えなければならない。
「瀬戸が敵に操られています。モンスターを倒さないと解放されません」
「わかりました。目標はあのモンスターです。撃て」
戦闘員が一斉に発砲するが弾丸はモンスターに通用しなかった。
「攻撃やめ」
沖田の命令通り、戦闘員は銃撃を止めた。
相川とレイモンドがアーマーのフライングユニットの機能を利用して空中を移動する。着地と同時に二人がファルゲンを取り押さえた。
「沖田くん!」
「はいはい」
相川の呼びかけに応じて、沖田はスピードアーマーの特性で地面を滑りながら素早く移動した。そしてファルゲンへ愛刀の超振動ブレードで攻撃を仕掛ける。しかし、ファルゲンは押さえていた二人を振り払い、沖田にぶつけてやることで攻撃を中断させた。
「人間にしてはやりおるの〜。おぬしたちが守護者の他に、我が輩たちにたてつく輩か」
ファルゲンが戦闘員に対して杖を向ける。おれはあれにやられた。
「その杖を見ちゃだめだ!」
だが叫んだときには遅かった。ほとんどの隊員がやつの能力に引っかかってしまっていた。隊員たちはお互いを見ると敵と認識したのか発砲し始める。
止めなければいけないが、瀬戸から攻撃を受けていて自由に身動きが取れない。
「なにをした!」
相川の声が響いた。
「幻を見せただけじゃ」
「やめろ!」
相川が隊員たちのところへ駆け寄り、彼らに拳をぶつける。レイモンドも相川のほうへ向かうが、沖田だけはファルゲンに戦いを挑もうとしていた。
「あなたを倒せば幻は見えなくなる。そうですね」
「かもしれないね〜」
「ならよかった」
「できるかな〜?」
向こうでは、戦いながらそのような会話が繰り広げられていた。
瀬戸の一撃を防ぐ。重たい一撃に押しつぶされそうになる。と、そのときなぜか瀬戸が動きを止めた。ふと、沖田のほうへ目をやるとファルゲンが追いつめられていた。瀬戸は沖田とファルゲンの戦場へ向かう。雅志が叫ぶ。
「沖田さん、危ない!」
瀬戸が沖田を背後から攻撃しようとしていた。いち早くそれに気づけたおかげで攻撃を食らうことはなかったが、上級モンスターが距離を取ってしまう。
「おぬしたち、もしや仲間を捕らえてはいないか?」
仲間? まさか、エルーのことだろうか。
「そんなもの知りませんね」
沖田が答え、ブレードで攻撃を加えようとする。
「ふ~む。まあ、いずれわかることよ……」
ファルゲンはそう言い残すと、瀬戸と共に姿を消した。




