21st Card 依頼
今回から新編突入です。
H.O.P.E.から譲り受けたバイクで本部に訪れるのは何度目になるだろうか。多分、おれが思っているほど回数はないはずだ。これから向かおうとする今日を含めても片手で数えられる程度だろう。
先日までは北条にこれまでの事実の報告をするために足を運んでいた。モンスターの実態を知るためだったり、おれたちの力の詳細を知るためだったり、またおれたちが渡したカードを返してもらうためでもあるが、彼が書くレポートがメインの目的だったのではないかとおれは思っている。まだレポートを見せてもらってはいないがいずれ見せてくれるのだろうか。
何日かに分けて報告をしていたが、そのなかでアーマーが完成したと言われた日もある。興味があったので見せてもらうと、アーマーにフライングユニットという外付けの装置が取り付けられていた。おかげで空中移動と戦闘が可能になっていた。相川が、試しに相手になってくれと言ってきたので模擬戦闘をおこなったが空からの攻撃は防ぎづらいし、こちらの攻撃は当たりづらいし、厄介な相手だと感じた。これならモンスターとの戦闘でも多少なりとも優位になるかもしれない。
今日はいままでのどの用件とも違う。
北条から、エルーを連れてこいとの連絡が、支給されたおれの携帯端末に届いた。聞いた話だとエルーがモンスターを倒す鍵になるとかなんとか。鍵もなにも、エルーがいなければカードに戻したモンスターを封印することができない。もしかしたら北条は、エルーが古代人ということからなにか重要な情報を持っていると考えたのかもしれない。
拒否する理由はなにもなかった。だからこうしておれはエルーをバイクに乗せようとしている。
「この前のときとはまた違った乗り物ですね」
おれが目的地の設定をしていたところ、エルーが言った。この前というのは、トラックの荷台に乗って街へ向かって初めて上級モンスターと戦ったときのことだ。四輪と二輪ではたしかに異なる乗り物ではある。あれ、トラックは六輪だったかな。
「ちゃんと座席がある分、乗り心地はいいはずだ」
エルーがおれの後ろに座る。
「ふふ、そうですね」
「……しっかりつかまれよ」
とまあ、格好つけて言ってみたものの、このバイクは自動操縦だ。おれが加速させることはない。ほとんど危険な運転はしないはずだ。
「はい」
エルーがしがみついたのがわかると、バイクに前進の許可を出す。走行が開始され、風景が前から後ろへ移動していく。
「風が気持ちいいです」
それがバイクの醍醐味ってやつですよ、多分ね。
もう季節は夏。歩いていれば太陽がまぶしく、自然と日陰を求めてしまう。バイクで走って気持ちがいいのは当然かもしれない。
そうだ。古代文明を馬鹿にするわけではないが、エルーはアイスクリームというものを知っているのだろうか。今日の帰り道にでもコンビニで買って食べさせてやろうか。
自動操縦で走っていたバイクが停車する。目的地の駐車場に到着した。おれたちがバイクから降りたところに、ちょうど絢十もやってきた。
「よう。絢十も北条さんに呼ばれたのか」
「ああ」
バイクを止めて降りる絢十。どのような理由で呼ばれたのか気にはなったが、あいつが言うことはなかった。むかしからそういったところがあるが、いまも変わらないようだ。こちらから訊かなければ自ら教えてくれることはないし、訊いたところで答えてくれるとも限らない。経験から考えると、答えてくれないことのほうが多かったので、自然とおれから尋ねることも少なくなっていった気がする。
何度か来ているうちに、脳内に焼き付かれた道のりをたどって北条がいる部屋へ向かう。絢十も北条に呼ばれたのだから行き先は同じだった。並んで歩くことになる。その間、なにを話せばいいのかわからず、勝手にひとりで気まずい雰囲気になっていた。反対に、向こうは普段と変わらず平静でいる。
気がつけば北条の部屋の前まで来ていた。どちらがドアを開けるのか。一瞬、絢十を見るが開ける様子はない。おれが開けた。部屋のなかには北条が机の向こうで椅子に座って待っていた。おれたちが入ったためか、椅子から立ち上がる。
「こんにちは。本日もわざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」
深々と頭を下げられた。
ここ以外でおれたちが会える場所なんてあるのだろうか。おれの家に来てもらったところでもてなすのも面倒だ。そう考えればむしろ出向いたほうが楽だった。
「エルーを連れてきました」
おれが言うと、エルーが会釈した。
「こんにちは。私にできることがあればなんでも言ってください」
「では早速頼みたいことがあります。あなたの封印の力をぜひとも調べさせていただきたい」
「はい、構いませんよ」
あっさりと引き受けるエルー。
「ありがとうございます」
「でもどうして急にそんなことを?」
おれは訊いてみた。
「沖田くんから報告を受けていました。彼女が『人間にしてはマナの反応が強いものだった』と。封印の力を持っていることは理解していますが、それがどのようなものか気になりましてね」
そんなことを沖田が部下と話していたのを聞いた覚えがある。なるほど、これが言っていたモンスターを倒す鍵、ということか。
「私、記憶の一部が欠けていますがそれでも大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません。では検査室へご案内します」
北条に、おれとエルー、そして絢十がついていく。
目的の部屋の前には武装した戦闘員が立っていた。彼は挨拶をし、北条がそれに応じるとエルーになかに入るよう促した。
「けんいちさん、ではまた」
エルーは軽く頭を下げてから、検査室へ入っていく。一瞬、部屋のなかに数名いるのが見られた。白衣を着ていた人間が見えたのはともかく、武装した者までいたのはどうしてだろう。
その疑問を尋ねようかと思ったところで、北条が言ってきた。
「金澤くんは、連絡したようにお願いします。木崎くんはこちらへ来てください」
絢十はうなずくとこの場に残った。
今度は液晶画面がたくさん並ぶ部屋、以前通してもらったモニタールームへやってきた。北条がキーボードを打つと画面に映像が映し出される。どこかの森林地帯、そこにいる沖田とレイモンドの姿が見えた。彼らの部下の戦闘員数名もいた。なにかを囲んでいるのだろうか。円状に彼らは立っている。
画面の手前にいる戦闘員はなにか記録をつけているようだった。その彼が動いたとき、どこかで見たことのある塔が姿を現した。
「これを見てもらえるとわかるように、我々はモンスターの封印場所を発見しました。いまはそこで調査をおこなっていますが、いずれ敵のほうから動きがあるでしょう」
画面が切り替わる。どこかのビルの屋上にモンスターらしき影が二体いるのがわかる映像だった。
「この映像は相川くんが撮影しているものです。この町で体調不良を訴える人が続出しているという報告もあります。おそらく、彼らが原因でしょう」
離れたところからの映像だが一体はドレンで間違いない。もう一体は、ウェアドか別のモンスターだ。
「木崎くんには森林のほうへ行っていただき、そこで封印の塔の回収をおこなっていただきたいのです」
町へ行ってモンスターを倒したとしても、封印の塔があればモンスターはまたそれを狙ってくる。ならば塔を回収してしまえば封印を解かれるかもしれないという不安は減る。また、カードが増えればおれたちもいくらか戦いやすくはなるだろう。
「わかりました。……え、おれ一人で行くんですか」
モンスターが二体いることは明らかなのにおれ一人で行くのは少々不安である。
「金澤くんには頼んでいることがあるので、申し訳ないのですが木崎くん一人で向かってください」
向こうには沖田とレイモンドもいることだし大丈夫だろう。それにおれだって守護者だ。いつまでも他人の手を借りているようではいけない。
北条から詳しい場所の位置を教えてもらい、それを携帯端末に入力する。バイクに携帯端末をセットし、指定した場所へ自動操縦で向かった。
ふと、妙な話だと思った。向こうがこちらに協力してくれる立場のはずなのだが、こちらが向こうに協力しているように感じられる。




