18th Card アーマード・ソルジャー
トラックから降りる。壁で覆われているそこはどこかの駐車場のようだった。おそらく地下にある駐車場だ。そこに新たな自動車が三台入ってくる。乗っているのは武装した沖田の部下数名。
「こちらへどうぞ」
沖田の案内におれはついていく。
無機質な空間を少し歩いてからエレベーターに乗る。ボタンは「B4」から「10」まである。かなり大きい建物だ。そのなかで押されたのは「8」だった。責任者だけあって、高いところにいるということだろうか。
エレベーターの扉が開かれると沖田が進んでいく。合わせておれも移動する。動くと身体が痛いから早く目的地に着いてほしいと思いながら、彼の後ろについていく。やがて通された部屋は、扉があるだけで廊下と同じく無機質で白くてなにもない部屋だった。なにもない、は言い過ぎだったか。三名ばかり先客がいた。もちろん、絢十、雅志、瀬戸の三人だ。
「あっ、剣一も来たんだね!」
雅志も来てたんだね、とは返さない。
「ではここで待っていてください。全員が集合したので理事長を呼んできます」
沖田が部屋から離れていく。
「いつの間にここへ来たんだ」
おれの家を出てから二時間以内に、ここへ連れてこられたことは間違いないだろうけど。
「うん、里花を送ってる途中で遭遇しちゃってさ。最初は驚いたけど、ついてきてみるのも面白いかなって思ったんだ」
いままでよく誘拐されずに済んできたものだな。
「伊部はどうしたんだよ」
「ああ、一人で帰すわけにもいかないって言ったら、連れて帰ってくれたよ」
やはりおれたちはゲストであるわけだから、それなりの扱いを受けていると捉えるべきなのだろうか。
「絢十と瀬戸は?」
「オレたちはモンスターの捜索で合流したときに連れてこられたんだ。ただ、知ってる人が声をかけてきたから、特に気にすることなくついてきたけどな」
「知り合いって誰だよ」
「ほら、街で助けた警察官がいただろ? あの人だよ」
一瞬、誰のことだかわからなかったが、思い出した。街にモンスターが襲撃してきたときにいた人だ。あの警察官がモンスターを撃ってくれたおかげで、おれはモンスターから抜け出すことができた。絢十が病院に運んで一命を取り留めたという話は聞いていたが、それ以降のことはまったく知らなかった。
あの人もこの組織の一員だったのか。警察のほうはどうしたのだろう。しかし、知っている人が所属しているとわかれば、よりいっそう安心することができる。
「わたしはあまり覚えてなかったけどね」
瀬戸はそのときはモンスターしか眼中になかったのだから、わからなくても仕方がないだろう。それでも、よく絢十と一緒にここまで来たものだが。
部屋のドアが開かれた。入ってきたのは、黒いスーツを着た、知的な印象を与える男性だった。それどころか、顔に見覚えがある気さえした。
「初めまして。私はこのH.O.P.E.の理事長を務めている、北条颯人です。以後よろしくお願いします」
ホウジョウハヤト。……どこかで聞いたことがある名前だった。どうやら顔に見覚えがあるのは気のせいではないようだ。おれは、いつ、どこで、どうやってこの男を知ったのだろう。その答えを導く鍵となる発言をしたのは雅志だった。
「北条颯人って、もしかして古代の書物を発見した、あの北条さんですか?」
雅志の声は高ぶっていた。そういえば、おれは半年くらい前に歴史的発見をしたという新聞記事を見た。一面を占めていて、一応、そのときはかなり印象深い話だった覚えがある。そのときの記事に写真も載っていたのだろう。
「そうです。ご存知の方もいましたか」
「そんな北条さんがぼくたちを集めてなにを?」
北条は間を置いてから話し出した。
「最近現れるようになったモンスターの情報は我々のもとにも届いていました。そして、モンスターの現れるところに必ず来る君たちの存在もすでにこちらにも知れ渡っていました。我々は人類の進化を守り、それを促進する組織。モンスターは人類の進化を邪魔する存在です。当然、排除しなければなりません。しかしモンスターと戦うにはあまりにも力が足りない。そこで我々はモンスターと戦闘を繰り返している君たちに目をつけました。
そんな我々のなかで、君たちの可能性は二つに分かれました。
敵か味方か。たしかに君たちがモンスターと戦っていたという事実は存在するが、それがなんのためなのか、どうして戦うのか、皆目わかりません。もし、モンスターの力を使って世界を脅威に陥れる存在ならば、我々は安易に近づくことはできない。だから特殊装備をした戦闘部隊に連れてきてもらいました」
「それで、ぼくたちへの疑いというのは晴れましたか?」
「隊員たちからの報告によれば、どの部隊とも戦闘は繰り広げていないとあります。……それ以前に、わたしが発見した古代の書物に、君たちと同じく『人間の脅威』と戦う者たちのことについて書かれていました。今回のことでそれが事実だったと証明されたわけです。もちろん信じますよ」
胸を撫で下ろすところなのかもしれないが、正直なところなんとも言えない。大きな組織ともなると、人間の敵と戦っているおれたちでさえも、単純に味方だと断定することもできないとは、考えものだな。ましてや、理事長はおれたちが味方であるかもしれない証拠まで持っていたのに。古代の書物が証拠です、と言われても素直に認めることはできないだろうが。
世間はそう簡単に、おれたちを受け入れてくれないのかもしれない。モンスターと戦うことで、おれたちまでも人々に拒まれてしまっては実に皮肉な話だ。
「そこでお願いがあります。我々を、君たちに協力させてください」
北条は頭を下げた。
まさか、このようなことを頼まれるとは思ってもみなかった。おれがせいぜい思っていたのは、モンスター退治を手伝ってくれとか、おれたちの力の秘密を調べさせてくれ、といったものだった。それが、協力させてくれ、とは。
「できません」
答えたのはおれだ。おれたちの役割の手前、人間が協力するというのはどういう話だろう。
「なぜでしょう」
「おれたちの役割は『人間を守ること』。それなのに、人間に協力させる、というのはいかがなものかと」
他の三人がどう思っているのかは知らないが、とりあえずおれの意見は述べておこう。
「なるほど。書物に記されていた通り、それが役割ですか。しかし、古代の世界と現在の状況は異なるものです。守るべき対象は世界中にいます。君たちだけでは、その役割を完全に果たすことができるとは、正直思えません」
北条の言葉は間違いでない。むしろ、正鵠を射ている。現に、おれは人々を守り切れずに犠牲を出してしまった。さらに、上級モンスターという強敵まで出現している。いまのおれたちだけでは、太刀打ちできないかもしれないと思われるのは無理もない。
そうなると、人間の手を借りるしかないのか。
「協力ってどういうことをするんですか」
その内容によっては、もしかしたらおれの気が変わるかもしれない。まあ、おれだけの判断で勝手に決定するわけにもいかないが。
「モンスターについて研究し、戦う方法を見つけ、やがてはやつらの居場所を突き止める。そして、君たちの戦いに間接的にも直接的にも関わっていくことを考えています」
「それはつまり、我々と一緒に、物理的にモンスターと戦う、ということですか」
「はい、そうです」
北条はきっぱりと答えた。
「戦うって……そんな力、人間にはありません」
「君たちは特別ですからね。それ比べればたしかに劣ります。しかし、我々の組織も特別。モンスターに抗うための対策はしてあるつもりです」
そこへ、沖田の部下がしていた武装とは違う装いをした三人が入ってきた。どちらにせよ武装していることに変わりはないが、三人三色、どれも同じものではない。一人は紺色、一人は灰色、もう一人は白色、とそれぞれ異なる格好をしている。
「まだ試作段階ではありますが、実戦投入が可能な強化アーマーです」
北条の説明によると、紺色は試作一号機のパワータイプのアーマー、灰色は試作二号機のガードタイプのアーマー、そして白色は試作三号機のスピードタイプのアーマー、とのことだった。それぞれが異なる役割を持っているからデザインやカラーリングが異なるということなのか。てっきり、装着者の趣味かと思ってしまった。
「すごい! これ、どうやったら完成するんですか?」
雅志が食いついた。
「君たちが手に入れたカードの力を解明することで、アーマーは私が考える完全なものとなります」
言いたいことはわかった。
「カードを貸せ、ということですか」
「ええ。そちらの三人からは先ほど貸していただきました」
雅志はともかく、絢十や瀬戸までカードを渡したのか。絢十の場合、知っている人間がいたからそうしたのかもしれないが。
「我々は君たちをサポートするだけ。モンスターを倒すのは君たちです。協力させてもらえるのなら、ここの設備の使用許可も出しましょう。きっとモンスターと戦うのにおおいに役立つはずです。それでもまだ、我々の協力を拒まれますか?」
すぐに答えを出すことができない。本当にそれでいいのかおれにはわからなかった。他の三人は、きっと彼らがおれたちに協力することに賛成の立場なのだろう。
「木崎、たしかにお前が人々の協力を渋る気持ちもわかるけど、オレたちだけじゃどうにもできないのも事実だぜ」
「でも絢十、戦闘に参加する人を守りながら、おれたちが戦えるとは限らないんじゃないか」
絢十は言葉を返さなかった。
おれたちに協力するなら、戦闘以外のことで充分だとおれは思う。そうなると、彼らがおれたちにできることは、モンスターの研究や居場所を突き止めるくらいになるだろうが。人が傷つくことに比べれば、そちらのほうが遥かにいい。
「ではご覧になってもらいましょうか。これらのアーマーの性能を」
北条とアーマーの三人が部屋を出ようとする。おれたち四人もそれ続いた。
廊下を歩き、エレベーターに乗り、そして部屋に通される。入ったのは北条とおれたち四人だけ。アーマーの三人は入らなかった。
入る前に扉に「モニタールーム」という表示があるのを目にした。その名の通り、大きな液晶画面が左右に二つ、備え付けてある。部屋は照明が灯されているが、真正面にある広い壁だけは真っ黒のままだった。そういう色の壁というわけではなさそうだ。そこだけは向こう側へくぼんでいる。
「始めてください」
北条はマイクに近づいてそう言った。すると黒かった壁の向こうが明るさを出す。アーマーを着用した三人と檻に入れられたモンスターが対峙している様子が見られた。
「これから向こうの部屋で、アーマー装着者とモンスターが戦います」
どうやらあの壁は液晶画面ではなく、ガラスだったらしい。しかも、かなり分厚いものだ。
モンスターは檻のなかで暴れている。檻がそれに耐えているのも時間の問題だろう。
「危険です。やめてください。おれたちじゃないとモンスターは倒せません」
「しかし、一時的に行動不能にすることはできます。見ていてください」
檻からモンスターが解放される。真っ黒な身体に頭部の角が特徴的なモンスターだった。そいつがすぐにアーマー装着者に襲いかかる。パワータイプのアーマーとガードタイプのアーマーの二人が取り押さえた。力に関しては、二人でやっとそのモンスターを上回るといった様子だ。残ったスピードタイプのアーマーが、武器でモンスターに攻撃する。見たところ、ただの黒い刀だった。いや、全然違う。刀身がわずかに動いている。
「あれは超振動ブレードといって、刀身が超高速で振動し、触れるものはすべて分子単位までばらばらにすることができます」
なにやらとんでもないメカが登場した。その上、超振動ブレードという代物はモンスターに効果があるように見て取れる。
モンスターが雄叫びを上げ、押さえている二人を振り払おうとする。しかし、二人はその場から全く動かない。その間も、超振動ブレードによってモンスターは斬り続けられていた。それを繰り返していくうちに、モンスターは抵抗するのをやめて動かなくなった。
さすがのモンスターも近距離からあのような攻撃を連続で受けてしまっては、耐えることができなかったというわけだろうか。それにしても、人間の力でここまで戦闘が行えるとは、正直なところ、予想外の一言に尽きる。
「終わりですね」
アーマー装着者は北条の言葉を聞いて、モンスターから離れてその部屋から出た。そして、おれたちがいるモニタールームへ入ってくる。これでこの部屋にいる人間は八人。かなり窮屈になってしまった。
「お疲れさまです」
北条が礼をした。アーマー装着者の連中はヘルメットを脱ぐ。見知った顔が潜んでいた。
「どうです? 見てくれましたか、ボクの活躍」
白いアーマーを着ていたのは沖田だった。このような子供っぽいことを言うのに、戦闘になると先ほどの容赦のない攻撃をするとは。案外、怖い人なのかもしれない。
「やあ、木崎剣一くん。この前は助けてくれてありがとう」
そしてもう一人の知っている人は、例のおれを助けてくれた警察官だ。彼は紺色のアーマーの装着者だった。まだ二十代後半といったところだろうか。こうして見ると、とても気さくな人に思える。勘違いしているようだが、助けられたのはむしろおれのほうだ。
最後のアーマー装着者はおれたちの知らない人物だった。なんと外国人だ。外国人というと気さくな印象を持っていたが、彼はあまり話さない。
彼ら二人との会話を遮るかのように、北条がおれたちに言った。
「あとは君たちです。あのモンスターにとどめを刺してください」
のんきに会話を楽しんでいる場合ではなかった。早くモンスターを還元しなければ、また復活して暴れ回ってしまう。おれたちが移動しようとしたところで、絢十が止めに入る。
「四人で行くこともないだろ。オレが行くよ」
絢十がモンスターの倒れている部屋へ向かった。たしかに、あれだけのダメージを負ったモンスター相手に四人掛かりで攻撃する必要はなかった。
これにてアーマーの力は証明された、ということになる。
いや、そもそも、あのモンスターはおれたちがここへ来る以前に捕獲されていた。つまり、アーマーによる実績はすでにあったということになる。ということは、おれは彼らの実力とアーマーの実用性を認めなければならない。
絢十が向こうの部屋で黒のカードを発動した。




