15th Card 守護者の得物
今回は短いです。
ここはどこだろう。以前に来たことがある気はするのだが、どうも意識がはっきりとしていなくて思い出せない。いまは考えることを後回しにしたほうがいいようだ。
しかし、辺りを見回しても真っ白でなにもない世界だ。おれ一人しかここにはいない。まさに孤独というわけか。
『久しぶりだな』
いきなり声が響いてきた。誰のものかはわからない。
「覚えてない」
『お前が初めて得物を持ったときに声をかけた』
記憶がはっきりとしていないが、言われてみると、そういえばそんなこともあったかもしれない、と思えてくる。ああ、こういうときに、人は騙されるのだろうな。
「それでどなたですか」
『守護者の得物だ』
へえ、守護者の、得物、ねえ。ならばおれはいま、刀と会話をしているということなのか。もしかしたら、夢をみているのかもしれない。意識がはっきりしないのは、そのせいなのだろう。
起きよう。
そうしようとしても、おれは一向に目覚めない。それは、これが現実だからなのだろうか。
『ここはお前の意識と私の意識が交じり合った場所、というべきところだ』
「はあ、よくわからんな」
『私にもわからない』
「なら、どうしてこうなったのかもわからないのか?」
『おそらく、敵の攻撃で大量のマナを浴びたせいだな』
大量の、マナを、浴びた。なんのことだったかな。と考えていたら思い出した。封印の塔を破壊するときに使われたあの攻撃を受けたときだ。あれのせいで、いまこうなっているということなのか。そういえば、あのときから身体の調子が変だった。
段々意識がはっきりしていく。おれは当然の疑問を口にした。
「どうやったら帰ることができる?」
『まあ、待て。せっかくの話せる機会だ。会話でもしようではないか』
会話、といっても向こうの姿は一切見えないわけだが。
「そんな悠長なことを言ってる場合なのか? 早く戻ってモンスターを倒さないと多くの人間が傷つくことになる」
『守護者の役割は彼らを倒すことではない。人間を守ることだ』
「どちらにせよ、あいつらを倒せば人間を守ることができる」
『彼らとの実力差は明らかだ。それでもお前は彼らを倒すことに固執するのか?』
言われてふと考える。あの上級モンスターから感じられた強さ、あれは半端なものではなかった。いままでのやつらとは全く比べ物にならない。
『守護者は人間の十を守らなければならないわけではない。たとえ二を犠牲にしたとしても、残りの八を守ることができればよしとする。それでもまだ、強敵たちとの戦いに挑もうとするのか?』
それでもおれはあきらめたくはなかった。おれの役割は人間を守ることなのだから。あいつらを倒さなければ、あいつらによって傷つく人間は間違いなく出てくる。それを知っておきながらなにもしないというのは、どうも気分がよろしくない。
なによりおれは、自分だけの役割が欲しいとずっと願い、行動してきた。
かりに他の守護者が上級モンスターと戦うことなしに人々を守る選択を取ったとしても、せめておれだけは、おれ自身の信念のもとで人間を守っていきたい。
「おれはただ自分の役割に、相応しいと思える人間になりたいだけだ。そのためならどんなに小さな犠牲だって許さない」
それがおれの役割。おれ自身の役割だ。
『お前はいち早く人間を守るために戦うことを心に決めた守護者だ。そんなお前だからこそ、黒の札を使っても意識が消えることはなくなった。お前自身の意思で敵を倒せるようになったというわけだ。しかし、お前は守護者の実力としてはまだまだ未熟。このまま彼らと戦っても無駄に命を落とすだけだ』
「……」
それを言われてしまうとなんと返せばいいのかわからない。たしかに、いまのおれでは上級モンスターを倒す力があるとは言えない。だからといって、いまここでそれを認めてしまうわけにはいかなかった。
認めてしまえばきっとなにかが崩れる、そんな気がしたから。
たっぷり沈黙が続いた後、得物が言った。
『……お前の意志は固い。もはや私からはなにも言うまい。だが、お前のその心構えは気に入った。我が持ち主にせめてもの手助けはしよう』
なにをするつもりなのかと考えていたら、おれの目の前にモンスターが現れた。しかもこいつは最初に遭遇した素早いモンスター、あるいは瀬戸の仇。得物はなにを考えている。
『これからお前は、いままで戦った化身と再び戦うのだ』
「おい」
そんな時間ないだろ、と言いかけてやめる。
いまのおれに上級モンスターを倒すほどの実力はない。つまりこれは得物がおれに、力を磨け、と言っているのではないだろうか。そうすることで上級モンスターを倒す力を身につけろということなのではないだろうか。
ならばそれに従ってみよう。
「……よし、やってやる」
おれの右手に刀が握られた。それを構える。
モンスターが襲いかかってくる。以前戦ったときよりも、相手の動きは上がっていた。




