12th Card 剣一の作戦
マナを吸収するモンスターと風を操るモンスターの前に、おれと雅志は成す術もなく、敗北した。その結果、おれたちはセントラルタワー屋上から地面へ向かって異常な速度で落下をしている。このままでは地面に激突してしまう。無事では済まされない。それだけはなんとしてでも避けなければならなかった。
「雅志、おれに掴まれ!」
落下していると、空気の摩擦で音が聞き取りづらい。声を大にしないと雅志には届きそうになかった。
「わかった!」
成功するかはわからないが、ここは一つ賭けてみるしかなかった。地面まで、あと残りわずか。これはタイミングが重要だった。もしも万が一ここで間違えてしまえば、永遠にやり直しはきかない。
いまだ!
おれは持っていた赤のカードを使った。衝撃波を地面に向けて放ち、その反動で一瞬だけ宙に浮く。落下速度を殺すことによって、おれたちは無事に着地することができた。
「いやあ、ヒヤヒヤしたね」
「全くその通りだ」
「守護者の力があれば、地面に落ちても平気だったかな?」
「そんな危険な実験できるか」
「ははは、それもその通りだ」
などと冗談を交わしていられるのも生きているからこそできることだ。今回は本当に危なかった。衝撃波のカードを使ったせいもあり、おれのマナは大分消費してしまったようだ。少し休憩といこう。
さて、休憩がてらこれからどうするかを考える。もう一度タワー屋上まで行く、というのはなんとも間抜けに思える。足場が悪い上に、実力差のある敵に挑むというのは賢い選択とは言えない。だが、いまやつらを倒すのなら屋上へ向かうしか手はない。まさにこの現状は板挟みだ。
一人だけで考えずに雅志に意見を求めてみる。
「あいつらが場所を移動するまでは攻められないんじゃないかと思うんだが、どうだ?」
「でも、そんな悠長なことをしてたら、町が体調不良の人で溢れちゃうよ」
そう、それが問題だ。しかし倒せなければ意味はない。勝てない戦いに挑んで、また負けてしまっては同じことの繰り返し。それこそ傷つく人を増やしてしまう。
「けんいちさーん」
エルーが走ってくる。おそらく、いまの状況を彼女は知らない。
「もう戻ってこられたんですか?」
「たったいま、モンスターに落とされてきたんだ」
「よく無事でいられましたね。よかった……」
「剣一の機転がきいたのさ」
そのコメントになにも返しはしない。
「モンスターはどういった感じでしたか?」
「エルーの言うとおり、一体はマナを吸い取るモンスターだった。もう一体は、翼が生えていて風を操るモンスターだったな」
「風……」
「知ってるのか」
「そのモンスターは自然界の力を操る、五つの力の一つです。モンスターのなかでも上位の力を持っています」
やはりあのモンスターは上級モンスターだったようだ。あいつが本気を出せば、きっと大勢の人を傷つけることなど容易いだろう。しかも、上級モンスターはあいつだけではない。できるだけ早く、一体でも多く倒さなければいけない。
「他の、そういった上級モンスターはどんな能力を持っているんだい?」
雅志がエルーに尋ねた。自然界の力と言っていたから、多分予想はつくが、確かめるためにもそれを聞いておいたほうがよさそうだ。
「氷、炎、地、それに雷です」
これまた戦う相手としては面倒くさそうな敵だ。他のやつらが一緒にいなくて、今日は実に運がよかったといえる。
「他にも上級モンスターはいるのかい?」
「はい。擬態するモンスターや幻を操るモンスター、人の行動を操るモンスター、そして力を解放するモンスターがいます」
「どのモンスターが一番強いんだい?」
雅志は、これまた聞いておいたほうがよさそうなことを尋ねた。最強のモンスターがどのような能力を持っているのか、というのは実に興味深い。
しかし、エルーの回答はその問いの答えとしては不十分だった。
「強さに関してはわかりません。ただ……モンスターを、束ねる存在がいたような……気がします……」
エルーの言葉は途切れ途切れなものだった。あいつの記憶力は折り紙つきだ。そんなあいつが自信なく言うということは、失われた記憶の一部なのではないだろうか。
「思い出せないなら無理に話さなくてもいい」
「はい。ありがとうございます」
モンスターに親玉がいるという情報を得られただけでもよしとしよう。まあ、そいつがどんな能力を持っているとか、なにが弱点だとか、そういった情報を得られなかったことは残念ではあるが。もしかしたら、先ほど挙げた上級モンスターのなかにそいつがいたりして。
そんな会話を続けていたら、絢十がバイクに乗って現れた。ヘルメット越しでも、そのバイクを見れば絢十が乗っているということは一目瞭然だ。
「あれ、モンスターは?」
ヘルメットを脱いでおれたちに尋ねた。おれと雅志は黙って上を指す。
「ん? オレを待ってたってこと?」
「いや、おれたちが負けたってこと」
やはり、絢十や瀬戸を待って作戦を練るべきだったとは思う。しかし、二人を待たずに攻めたことが悪いことだったとは思わない。いまのおれは相手の攻め方がわかっている。それだけも先ほどとは大きな違いだ。
「全員集まってからもう一度攻めるつもりなのか?」
「そうだ。ただあの屋上に四人で攻めるのは難しいな」
入り口はそこまで大きくないし、戦闘空間も四人が自由に動くには狭すぎる。
「ならどうするんだ」
もちろん、やつらが移動するまで攻撃するのを待つつもりは毛頭ない。
「あの、ひょっとしてあの方も守護者の方では」
エルーが指した方向を見ると、瀬戸が近づいてくるのがわかった。街中ということもあり、長刀は持っていない。よく、エルーは彼女も守護者とわかったものだ。瀬戸は少しばかり常人とは違う雰囲気を持っているとは思うが、そのせいだろうか。
「モンスターはどこ?」
おれたちは上を指す。
「わたしを待ってたの?」
「負けて落とされたんだ」
ついさっきも同じやりとりをしたばかりだ。二人が同時に来ないから仕方がないが、漫才をやっているわけではない。再び同じ質問をされないように、おれから先手を打っておこう。
「四人全員がタワーの屋上で戦っても勝ち目はない。だからここは遠距離から攻めることにしようと思う」
「遠距離だって? どうやってやるんだい?」
「作戦を考えた。この作戦だと、絢十の攻撃が成功の鍵を握っている。そして雅志と瀬戸の得物も絶対に必要だ」
絢十は察しがいいのか、おれが言わんとすることにいち早く気づいた。
「オレ以外の二つの得物を投げるんだな」
「ああ」
「ぼくたちに当てることができるかな?」
それは問題ではあるが、そんなことはやってみなければわからないし、それよりも当ててやろうとするくらいの気構えでなければ困る。まあ、守護者の力やカードの力を使えば、どうにかなるのではないだろうかと考えてはいるが。
「そうだな……。とりあえず作戦を伝えるよ」
まずはそこからだ。二つの得物の使い道と、なぜ絢十の攻撃が重要なのか。それらをしっかりと説明しなければならない。
説明を終えると、みんなはおれが指示した指定の場所へ向かった。おれは一人、階段を上がる。早すぎず遅すぎず、適度なスピードで駆け上がっていく。
作戦の内容を説明したとき、瀬戸はおれが考えた作戦について快く思ってなどいなかった。それでも、絢十と雅志、そしてエルーがおれを信じてくれたおかげで、瀬戸も渋々といった感じではあったが作戦に協力すると言ってくれた。瀬戸はおれを、家族や友人の仇のように捉えている節があるが、モンスターを倒すことを一番に考えているし、なにより人間を守ることが本来の役割。作戦を拒む理由はあったとしても、その必要などなかった。彼女に作戦があったとしたなら話は別だったが、そんなこともなかった。
個人的な感情だけで作戦を否定するのは無意味であることくらい、彼女も理解しているはずである。しかしながら、ときとして感情というのは厄介なものだ。冷静な思考の邪魔をする。
瀬戸がおれに向けている感情、それをどうにか抑えたい。このままおれたちの関係がギクシャクしているのも今後の戦いにおいてよくない。それを改善するにはこの作戦を成功させることが第一歩となるだろう。
屋上へ通じる扉が見えてきた。絢十たちは準備ができただろうか。扉に近づき、それの外の音に神経を集中させる。金属と金属がぶつかるような音が聞こえてきた。
瀬戸から借りた青のカードを発動した。このカードの力により、おれの素早さは格段に上昇する。
扉を開けて屋上に出ると、上級モンスターが絢十の必殺技、光線を敵にぶつける攻撃である【ラストシューティング】を受け止めていた。それはチャンスだった。すぐさま黒のカードも発動し、おれは二体のモンスターに攻撃を仕掛けた。まずは風のモンスターを背後から斬る。続けてマナを吸収するモンスターを斬った。
素早さが上昇した状態での【瞬速斬】は何度も相手を斬りつけることができた。相手はおれの姿を見つけることができないようで、攻撃を受け続けるしかなかった。
おれの攻撃の繰り返し。その最後の一撃で、マナを吸収するモンスターが屋上から落ちた。それと同時に黒のカードの効果時間が終わりを迎えた。
作戦を説明したときのことを思い返した。
セントラルタワー近辺にあるビルの屋上に絢十、雅志、瀬戸の三人が向かい、そこから彼ら三人が同時に攻撃をすることでモンスターの気をそらせ、おれがその隙を突く。大まかな作戦内容はそういったものだった。
マナを吸収されないようにするため、タワー屋内で話す。もちろん聞いてもらわなければならないのは、絢十、雅志、瀬戸の三人だが、そこにはエルーもいる。彼女は作戦には参加しないが、聞くだけだ。
「まず、三人がタワーの屋上が見える、ビルの屋上へ向かう。そこで絢十は黒のカードで攻撃を、雅志と瀬戸が自分の武器をモンスターに向かって投げる。このとき、二人は瀬戸の青のカードを使うといいかもしれない。力の強いモンスターのカードだ」
「木崎はなにをするの?」
そう尋ねてきたのは瀬戸だった。
「おれはお前たちとはなにもしない。でもその代わりに、瀬戸の青のカード、素早いモンスターのカードを貸してほしい」
「それは、木崎が単独で戦うってことなの?」
「ああ、そうだ」
「どうして?」
当然の疑問かもしれない。それ以前に、瀬戸はおれを信用していなかったのだろう。
「おれの黒のカードは一瞬のうちに相手を斬ることができる。瀬戸の青のカードと合わせて使えば、さらに高速で相手に攻撃できるとおれは予想している」
加えて、おれは黒のカードを使っても、もう意識を失うことはない。意識を失わないということは、おれの思うように攻撃ができるということだ。
「そんな賭け事みたいな真似をする気なの? 失敗したらどうするの」
「大丈夫だ、必ず成功させる。おれを信じてくれ」
そう言っておくしかない。根拠はないが、自信はある、
「オレは信じてるぞ、木崎のことを」
「ぼくもさ」
「私も信じています」
三人人の言葉を聞いた瀬戸は、一瞬黙った。そして、青のカードをおれに差し出してきた。
「君のこと、まだ信じたわけじゃない。でも、わたしには他にいい考えが浮かばないからとりあえず、その作戦に乗るよ」
「ありがとう」
瀬戸のカードを受け取った。
「今回の作戦の目標は相手をセントラルタワーから追い出すことだ。まあ、もちろん還元できたらそれに越したことはないが。とりあえず、相手にとって有利な場所であるタワーから引き離すんだ」
「了解!」と答える雅志、うなずく絢十、なにも反応を示さない瀬戸。これでおれたちのやるべきことは決まった。そしておれたちは、それぞれの活動場所に向かった。




