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STRUGGLE  作者: 春巻き系男子
12/54

11th Card 強敵出現

11th Cardの続きです。

 家の扉を開けてなかへ入ると、エルーが出迎えてくれるという光景はもう日常と化している。あいつにはどうやら扉の開け方でおれだとわかってしまうようだ。古代人の感覚の鋭さに驚くことにも、大分慣れてしまった。

「お帰りなさい、けんいちさん。今日は早いですね。……早過ぎませんか?」

「実は、体調不良で学校を休む生徒がたくさんいたものでな」

 ふと思ったのだが、エルーに学級閉鎖や学校閉鎖といった言葉がわかるだろうか。普段、あまり家の外のことを話すことはない。そういったことを話すときはいつも気を付けている。今回も、極力わかりづらい言葉は使わないで会話するしかない。

「生徒のことを心配した学校側が帰してくれたんだ」

「『せいと』ってけんいちさんのことですか?」

「学校へ学びに行っているやつはみんな生徒だ」

 学校という言葉の意味はわかるようだが、生徒という言葉はわからないらしい。古代の世界にも学校はあったが、生徒という言葉はなかったということだろうか。まあ、いまは関係のないことだ。

「みなさん、病気にでもかかってしまったんでしょうか」

「おれは違うと思う。確証はないけど、なんとなくモンスターの仕業じゃないかと疑ってるんだ」

「でも、モンスターのなかに人を体調不良にさせる能力を持ったものはいなかったと思います。……あっ、待ってください。もしかしたら間接的に体調不良を引き起こしているのかもしれません」

「間接的に? どういうことだ」

「以前、マナを吸い取るモンスターがいるという話をしたのを覚えていますか?」

 以前話してくれたことをおれは忘れていたが、それを察したのか察していないのか、エルーはそのまま続けた。

「そのモンスターは人が口から酸素を取り入れるように、マナを吸い取ることができるんです。人々がマナを吸い取られているから、体調不良者が出ているのかもしれません」

「ちょっと待て。マナが吸い取られるとどうして体調不良になるんだ」

「生命に宿るマナは、その肉体に力を与えます。健康を保つためには生命のマナが必要なんです。生命のマナがたくさんある人は病気にも強い身体を持っています。また、たくさんのマナがあるためか大気中のマナも集まりやすく、人々からの人気も高い場合が多いです」

「なるほど」

 つまりクラスの某がいつも通り元気だったというのは、やつには生命のマナがたくさんあったからというわけだ。そして、モンスターが直接人を襲っているわけではないから、守護者の感覚も鈍かったということだろう。

「そいつはなんのためにそんなことを……って人間を殺すためか」

「マナを吸い取ることで自分のパワーへ変えることができるんです。吸い取れば吸い取るほど強くなります」

「それは厄介だな」

「どうしますか?」

「もちろん、そのモンスターを倒すしかないが」

 問題はその居場所だった。

「行きますか?」

「どこに行けばいいのか見当がつかない」

「おそらくそのモンスターは生命のマナがたくさんある場所にいると思います。それでいて、その場所にあるすべてのマナを吸い取ることができるようなところですね」

 マナがたくさんある場所、そしてその場の全てのマナを吸い取ることができる場所。生命のマナということと、多くの人が体調不良を引き起こしていることから、人が多くいるところ、つまり街ということで間違いないだろう。残る問題は、街のどこにいるかということだ。

「そいつは、人が障壁の向こうにいたとしてもマナを吸い取ることができるか」

「全身を覆っていなければ、障壁があっても吸収は可能です。しかし、例えば私が屋内にいるとして、けんいちさんが屋外から私のマナを吸収しようとしても吸い取ることはできません」

 モンスターは人が多い街中の屋内にはいないだろう。さすがにいたらすでに人々が情報を流している。おそらくは外だ。それも人から見つからずに外で街全体からマナを吸収できそうな場所だ。この町でそんなところは一つしかない。

「よし、場所の見当はついた。行こう」

「どこへ?」

「この町のシンボル、セントラルタワーだ」

 セントラルタワー、正式名称は中央電波塔という。その名前の通り、この町の中央区にあるテレビジョン放送の電波を送信する塔だ。高さにして一五〇メートル以上ある、この町で一番大きな建物だった。

 しかし、セントラルタワーまで足で向かうには遠い。交通機関を使ったほうが早く着くだろう。

「他の方に連絡はしないんですか?」

 雅志はともかく、絢十はまだ学校から帰ってきているかわからない。

 とりあえず、彼の携帯電話に連絡を入れてみるが、絢十は出なかった。というよりも、ドライブモードにしているせいか、そもそも繋がらなかった。瀬戸に限っては連絡手段すらない。仕方がない、とりあえずは、おれたちだけで行くしかない。

「いま、雅志と合流する。他の連中は後からだ」

「はい」

 家を出るとき、一応小銭の確認をした。交通機関は意外とお金がかかる。二人分と予備のお金はしっかりと用意しなければならない。


 雅志の家の方向へ歩いていると、ちょうどやつに会えた。

「やあ剣一、それにエルーさん。二人がいるってことは本当にモンスターの仕業みたいだね」

「ああ、その可能性が高い。向かうはセントラルタワーだ」

「了解! ……他の人たちは?」

「一応連絡は入れたが連絡の取れないやつが一名、そもそも連絡手段を知らないやつが一名。おれたちだけで行こう、とりあえずは」

「わかった。それでどうやって行くつもりなんだい?」

「交通機関を使うに決まってるだろ」

「ははは、剣一は真面目だね。でももっと楽な方法があるよ」

 馬鹿にされている感じがした。

 どんな方法だよ、と尋ねようとしたら、あいつはおれの前で高く飛び上がった。そして、ちょうど近くを走っていたトラックの荷台部分に着地した。雅志は走っている自動車の「上」に乗って移動をするつもりらしい。唖然としているおれに、あいつは声を響かせてきた。

「剣一も早くー!」

 雅志の姿が遠ざかっていく。エルーもいるというのに、果たしてそのようなことができるのだろうか。

「けんいちさん、私たちも行きましょう!」

 彼女はやる気満々だった。仕方がない、もう少しでやって来るトラックの上にでも飛び乗ろう。だが、その前にやらなければならないことがある。おれはエルーを抱きかかえて持ち上げた。世間で言われる「お姫様だっこ」という状態だ。町中でおれは一体なにをやっているのだろう。あまり考えてはいけない。

「飛ぶぞ」

「はい!」

 エルーへ一声かけてからおれは動いた。すると、自分でも驚くくらい高く飛び上がることができたのだ。まるでカエルやバッタにでも自分がなったかのような錯覚さえ覚える。ここまで自分の跳躍力が上昇しているとは思ってもみなかったことだ。そのおかげでおれはトラックの荷台へ、とても楽に乗ることができた。

「わあ、なんだかもう一度やってみたい……かもしれません」

 エルーは小声でつぶやいていたのだが、トラックのエンジン音で多少遮られたりはしたものの、おれの耳にははっきりと届いていた。その言葉にはおれも同意する。これは案外、気持ちがいい。

 しかし、これからモンスターと戦う身とは思えないほどの余裕ぶりだ。少しは緊張感を持ったほうがいいだろう。

 そう思ってはみたものの、最初の十分くらいは緊張感が続いていたのだが、残りの数十分はそれが途切れてしまっていた。中央区までの道のりは、緊張感を持続させるには少しばかり長かったのかもしれない。

 街の中心近くまで来たので、おれとエルーは降りる準備をする。また「お姫様だっこ」をしなければならなかった。こればかりは、そう何度もしたいとは思えない。しかも今回は、街の中心でそれを披露するのだ。かなり人目に付いてしまう。

「まさしさんが降りました」

「はいはい」

 エルーを両腕で抱え上げ、身体の正面で横向きにした状態で、トラックから文字通り飛び降りた。着地するとすぐにエルーを地面に立たせる。

「楽に来れただろ?」

 先に待っていた雅志がおれに得意気な顔をしてきた。

「ああ、そうだな」

 それは認めよう。だからその顔はやめてくれ。

 ひとまずセントラルタワーを目指す。走ってすぐのところにそれはあった。屋上を見上げれば、人影が二つほどあることがわかる。……二つ。もしかするとモンスターが二体いるかもしれないという事態を表していた。

「おい、モンスターが二体いるように見えるぞ」

「そうですね」

「なら、エルーさんはここで待機していたほうがいいかもね」

 おれもエルーは戦いの場に来ないほうがいいとは思う。しかし、おれたちがタワー屋上で戦う、というのも無理がある話ではないだろうか。場所が不安定なため戦いづらいのではないかと思う。……それに言いたくはないが、おれは高いところが苦手でもある。そのせいかこんなことを口走ってしまった。

「あのモンスターが移動することはないものかな」

「マナを吸収している以上、移動することはありません」

 ううむ。ならば仕方がない。しかしまあ、よくモンスターもあのような高い場所へ行ったものだ、と素直に感心するばかりだ。

「さあ、行こう」

「ああ」

「二人とも気をつけてくださいね。徐々にマナを吸い取られていることに注意してください」

「うん、ありがとう」

「どうも」

 雅志とおれは、エルーに一言ずつ返すとすぐにタワー内部へ入っていく。

 マナを吸い取る敵とはどう戦うべきだろうか。吸い取られないことは不可能かもしれない。しかし、それを意識せずに戦えば負けてしまうのは明らかだろう。ならば、自分のマナを大量に吸い上げられてしまう前に、敵を倒すしかない。なににせよ、先手必勝だ。セントラルタワー内部の階段を駆け上がりながら、そのようなことを考えていた。

 一方で、この階段は随分と長い。町で一番高い建物の階段だから、当然といえば当然の話なのだが、これでは戦う前に疲れきってしまわないか心配になる。普通ならそうなるよな。

 屋上への扉が見えた。それでいて体力の消耗は感じられない。ただの杞憂だったようだ。それはそれでいいことだが、新たな心配事が出てきた。

 モンスターはおれたちの存在に気づいているのだろうか。慎重に扉へ近づき、ゆっくりとそれを押す。鉄製の扉なのに少し力を出すだけで開いてしまいそうだ。腕力においても、向上は見られた。

 扉から覗くと、前方にはやはり二体のモンスターが、後ろ姿をこちらに向けて立っていた。こちらに気づいていないようにも見えるし、すでに気づいていると捉えることもできる。気づいていた場合、入った瞬間に攻撃されるといったことも予想される。

 どうする。このまま進んでいいのかどうか、判断がつかない。

「剣一、早く乗り込もうよ」

 そうだ、おれたちはモンスターと戦うためにここへ来た。いまさら引き下がることはできない。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。

 扉を開けて前へ進んだ。外は屋上。風が強く吹いている。その風がおれに闘争心を湧き上がらせた。おれの手に金色の刀が握られる。同じように、雅志の手には金色の槍が握られた。

 その直後だった。

「やあ、守護者の諸君」

 誰かの声が聞こえた。雅志にも聞こえたようで、周囲を見回している。おれも探すがその言葉を放った人物は見当たらなかった。

「まさか……」

 おれたちの目の前で背中を向けているこのモンスターのどちらかが、言葉を発したとしか思えなかった。そして、やつらがゆっくりとこちらを振り向いてきた。

 一体はなんとも武骨で、全身が緑色のモンスターだった。もう一体は対照的に、洗練されている感じがした。そして全身が漆黒で、背中には身体と同色の翼を持つモンスターだった。この翼の生えたモンスターは、いままでおれたちが戦ってきたどのモンスターと比べてみても、別格な雰囲気を漂わせている。おれにはわかる。間違いない、こいつは上級モンスターだ。

「よくここがわかったね」

 上級モンスターが言った。どうやら先ほどの声の主もこいつのようだ。

「も、モンスターがしゃべってるよ!」

「わかるよそれくらい」

 そんなことをのんきに話している場合ではない。いままでの戦い方では、もしかしたら勝てないかもしれない相手だ。

「諸君の相手をしてきたものとは違う、ということだ」

 モンスターに余裕が見受けられる。それがなんとも腹立たしい。

「黙れ、モンスター。人々からマナを吸収しているのはお前たちだな」

「それを知って、どうするつもりだ」

 その問いには雅志が答えた。

「もちろん、君たちを倒すのさ!」

 モンスターに対して『君たち』と使うことに、どうにも違和感が拭えないのはおれだけだろうか。

「倒すだって? ならまずは」

 上級モンスターがおれたちに掌を向けてきた。どこかで見たことがある情景だ。そのおかげか、避けなければならないと感じだ。しかし遅かった。

「この差を埋めてからにするんだな」

 やつの掌から、衝撃波とは違うなにかが放たれた。それを避けられずにおれと雅志は直撃してしまう。攻撃を食らってみて、これは風の力かもしれないと感じた。

 その力を受けたおれと雅志は、後ろにある壁へ叩き付けられた。もしもこの壁がなかったらおれたちは下へ真っ逆さまに落ちていただろう。それを考えると恐ろしい。

「なんだ、いまの……」

 雅志は疑問を口にしながら、すぐに槍を構え直していた。

 ここでは明らかに相手方に有利だ。いまは戦っても勝てる気がしない。しかし、逃げ出せば他の人たちに更なる被害が及ぶ可能性がある。

「まだ諸君は子供。自ら命を落とすことはない。だから去れ」

「残念でしたー! ぼくたちはそれでも君たちを倒して人々を守らなくちゃいけないんだよ!」

 雅志が敵に突っ込む。おれも黙っていられない。雅志の後に続いた。

「愚かな」

 上級モンスターが攻めてくる。と、思ったのだが、攻めてきたのは武骨なモンスターのほうだった。二体同時に攻めてこなかったことはありがたいが、なにかを企んでいるようにしか思えない。

 ここにいるモンスターのどちらかがマナを吸収する能力を持っている。ならばこの武骨なやつが持っている能力なのだろう。

 武骨なモンスターは武器を出すことなく、おれたち二人と渡り合っていた。吸収したマナのおかげ、というわけか。だが、攻撃を防ぐだけで、攻めてくることはあまりない。

 絢十や瀬戸がいてくれたら、物量作戦で勝てたかもしれないのに。

 雅志が青のカードを発動した。すると雅志の身体が鎧に覆われた。どうやらあの青のカードは防具を出すことができるらしい。

 雅志の一撃を、モンスターは素手で弾いて反撃を加えてくる。おれはそのときにモンスターへ攻撃しようと赤のカードを使おうとするが、敵は胸倉を掴んできた。もがいても抜け出せない。

 モンスターが口を開けると、少しずつおれの力が抜けていく感じがした。こいつはいま、おれのマナを吸い取っている……。雅志が槍で援護に入ろうとするが、その槍を引っ張られてしまい、同じく鎧を掴まれてしまう。

 なんとか抜け出そうと抵抗を試みるが、それも虚しくタワー屋上の端まで運ばれてしまう。近くにあるビルの屋上が視界の端に入ってきた。しかし、自由の利かない空中でそこへ飛び移ることは難しい。いま手を放されたら地面に落ちるのは絶対に避けられない。地上一五〇メートルから落下して無事でいられる可能性はゼロに等しい。嫌でももがくのをやめざるを得ない。

「諸君に最後の機会をやろう。もう我々と戦わない、と誓うのであれば、こちらも手出しはしない」

「そんな条件、飲めるか」

 おれは役割を果たす。守らなくてはいけないものがある。

「槍の君はどうかな」

「ぼくは人間を守る、いや、大切な人を守るって決めてるんだ」

「ふん。自分の命を大切にすることから学んだほうがいいな」

 モンスターはおれたちを放した。世界が急速に縦に伸びていくような錯覚を見ている気分になった。物理法則に従って重力に逆らうこともできないままに、おれたちは落下していく。なんてやつらだろう、おれたちが負けるなんて。

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