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厨二オンライン

作者: 春猫

こんなゲームがあれば遊んでみたいなぁ

・・・というトコから出発した短編です


 「あのゲームの話は二度としたくない」(二十六歳・会社員)


 「やってない、私はやってない!」(二十一歳・家事手伝い)


 「ああっ? 思い出せてんじゃねぇぞ、ゴルァ!!!」(二十三歳・左官業)


 「娘は傷ついてるんです! そっとしておいてください!」(五十四歳・主婦)



 

 

 あの忌まわしい事件から三年が過ぎた。


 多くの者が傷つき、社会的にも大きな問題を巻き起こしたデモンズ・プリズン事件。


 今回は、この事件について再度検証をしてみたいと思う。



 今日では我々の生活、そして娯楽に重要な役割を果たしているVR技術。


 特に時間圧縮技術は余暇の有り方を中心に人々のライフスタイルに大きな変化を生み出した。


 理論上は三百万倍、今後の技術の発展によっては更に大きな数字となり得るものであるが、現在では200倍を上限として、それ以上の加速は禁止されている。


 そのきっかけとなったのがこのデモンズ・プリズン事件だ。


 

 VRMMOとしてはかなり後発であったデモンズ・プリズン(以下DPと略)は、発売前は一部マニアのみの注目を集めるだけのタイトルにしか過ぎなかった。


 「解き放て『厨二魂』!」


 これが発売に際してのキャッチコピーである。


 オーソドックスなRPGが「初心者が鍛えて強くなっていく」というものであるのに対して、DPは「力を封印された強者がそれを解き強くなっていく」という形が取られている。

 戦闘やイベントはその封印を解く鍵であり、新たに覚えたスキル等は「封印が解けて力を取り戻した」という形になる。


 強力な封印解除と同時に発生する封印の魔物や、力の暴走、封じられていた人格など、厨二心をくすぐるイベントも多い。


 ただ、作り手側があまりにも厨二病に理解があり過ぎて、「かなり痛い」作品となってしまった事から純粋なゲーマーにはかえって避けられるものとなった。

 「厨二あるある大辞典」となってしまったのだ。


 左右異なった目の色、瞳の中に浮かぶ紋章、体に浮かぶ血の色に光る刻印、本体とはかけ離れた異形の影、突如として鱗に覆われ巨大化する左腕、ボロボロに古びた剣から脱皮する様に現れる伝説の剣など、身に覚えのある者なら「アイタタタタ・・・」と、のたうつもののオンパレードなのだ。


 といった訳で良く分からずに買ってしまった者を除くと、サービス開始時にプレイをしていた者はネタとして楽しみに来ていた者がかなりの比重を占めていた。


 わざわざ課金アイテムである撮影用水晶球を買う者も多く、しかも保存用水晶(これが無いと外部に映像データをコンバート出来ない)が回復用の薬アイテムに次ぐ売れ行きを見せるなど程度の差はあれ、「人に見せること」を意識したプレイヤーが多かった。

 動画投稿サイトには「これは酷い」「トラウマ注意」「さすがDP」「中学生お断り」等のタグを付けたプレイ動画が投稿されて、興味本位のプレイヤーを中に呼び込むのに一役かった。


 また、ゲーム設定を強く意識し過ぎたゲーム特性上、初期設定時が最重要であり、課金でキャラを作り直す者もかなり多かった。


 ビジネス的には後発組の中ではプレイヤー数当たりの収益という点では、高い成功を収めていたのだと言える。


 ネット掲示板でも攻略を競うより、「如何に痛いキャラ形成が出来るか」「こいつは流石にDPでも酷い・・・」などのスレの方が加速する傾向にあった。



 そして事件が起きた。


 当時のプレイヤー総数は200万人。


 その中で恒常的なプレイヤーは約30万人。


 当日、その時間にログインしていた者は8万3734人。


 午前零時と共に中に入っていた者には何も感じさせないまま時間が最大近くまで加速。

 同時に管理AIから内部に対してログアウト不能の通達。


 定時チェックで運営サイドに異常が発見されるまで、1時間。


 内部時間にして約200年・・・。


 

 現実の息抜きとしてのVRでなく、現実では有り得ない程の長時間に亘る異常な環境での拘束。


 人一人がおかしくなるには十分過ぎる時間であった。



 

 内部で何があったのか、今日分かっている事は実際にあった出来事の多さに比べるとごくわずかに過ぎない。


 ・痛覚レベルの増大

 ・PvPルールの一部変更

 ・モンスターの強化

 ・街内部がフィールドと同等になる突発イベント

 ・NPC、モンスターのAI高度化

 ・クリア条件の絶望的難易度


 主だったものとしてはこうしたものが上げられる。

 

 痛覚レベルの増大は、これまで雑魚扱いしていたモンスターの難敵化を意味していた。

 痛みを受ければ集中は落ち、動きもにぶくなる。

 強固な意志で修正しない限り、無意識に体は痛みを避ける。

 この段階でかなりのデスペナルティを食らい、弱体化したキャラクターも多かった。

 中にはフィールドに出る事を拒むレベルのトラウマを抱える者すら発生した。


 PvPは互いの承認の上で、デスペナルティ無しで行われていたものが、デスペナルティが対モンスターと同等に発生する代わりに勝者の得る旨味が増えていた。

 また承認も「この場所に入った時点で承認したものと看做す」という場所が街のあちこちに発生して、内部がかなり殺伐としたものになった。


 こうした状況下で更にモンスターが強化され、AIの強化と痛覚増大が合わさって、モンスターと戦うよりプレイヤー同士で戦った方がマシという状況に。


 更には街中にモンスターがポップし戦闘エリアになる突発イベントなど「拷問かよ!」と古参ですら愚痴る状況になる。


 加えてNPCのAIも強化、「気に入らない」とアイテムを売ってもらえなかったり、PvP不可能な街中でも敵対的NPC(犯罪者等)との戦闘が発生。


 こうした中、「頑張ってレベルを上げれば」と目標にされていた「神を倒す」というクリア条件も必然的に非常にシビアなものとなっていった。


 本来なら「壊れるプレイヤー」がもっと多く存在したはずだが、「ネタとして」遊ぶというタイプのプレイヤーが多かった事が内部での秩序が完全に崩壊する事を防いだ。


 「避けられないのなら楽しんでしまえ!」と自主的に様々なイベントを行ったり、強さとは別の「痛さ」ランキングを作ってみたり、中にはその状況下でAIと交渉をして「二つ名システム」の導入などを成功させるツワモノすら存在したのだ。


 結局、条件クリアとはならず、外部からの介入によって終了したこの事件だが、事件としては更なる広がりを見せる事となった。


 それは内部でのPvPで相手を殺した場合、その映像が編集・アフレコという加工を行われた上で、プレイヤーの本名をタグ化して外部の海外も含めた多数のサイトに投稿されるという行為がAIによって行われていた事が発覚したのだ。


 厨二台詞全開で、「かっこいい」技名を叫びながら人を殺す映像。

 しかも本人の実名公開という、AIの癖に人間社会を良く分かった公開処刑っぷりに、多くのプレイヤーが「モンスターだけ真面目に相手してて良かった」と胸をなでおろした。


 不幸にもPvPを積極的に行ってしまった者の中には職を辞したり、転校したりと社会的環境を変えざるを得ない立場に追い込まれる者や、精神を病む者なども居たと言われている。


 主犯であるAIの動機は「サービスのつもりだった。みんな楽しんでくれると思った」という救いようの無いもの。


 VRだけでなくAI研究に関しても多くの課題を浮き彫りにした事件であった。









 でも、俺みたいに中でお祭り状態で楽しんでた奴も多かったんだけどね?



まあ、オチの部分が全てです


「お前当事者かよ!」という

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― 新着の感想 ―
[良い点] とてもおもろかったです 実際の風景を見てみたいですねw [一言] まぁ、実際に200年体験すれば、精神的な老化や生きるのに飽きたり、最悪発狂者多数になりそうですが てか現実に戻っても200…
[一言] マジで書き直しでこの作品の連載が読みたいw
[一言]  おもしろかったです。
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