悪夢
ああ……、またあの夢か……。
私は泉の前にいた。私の目の前でアイツが血を流していた。駆け寄ろうとした瞬間、喉に矢が刺さり私は死んだ。
私は燃え上がる婢達を見ていた。駆け寄った瞬間、私の首が切れて血が噴き出した。
私は燃え上がる村を見ていた。目の前で三人のガキが苦しんでいた。近付いた瞬間、領主の私兵に心臓を貫かれた。
私は王宮で見つめていた。見る影もなく傷付いた兄上を。私は兄上の前に立ち、一緒に矢で打ち抜かれた。
私は逃げていた。後ろで奴隷が私を庇って死ぬ。奴隷が持っていた花束が床に落ち、私の頭も床に落ちた。
私は通路を走っていた。母上が目の前で反乱軍の兵士に八つ裂きにされた。叫んだ瞬間、私は死んだ。
私は助けたかった。
でも無理だ。
命が
想いが
サラサラと
手の平を擦り抜ける
何が正しい?
どうすれば変えることが
どうすれば救うことが
どうすればできる?
誰かが私に笑う
運命は変わらない
1はどこまでも1
2はどこまでも2
3はどこまでも3
4はどこまでも4
5はどこまでも5
一人死ぬときは一人死ぬ
村が滅びる時は滅びる
事件は必ず起こる
悲劇は必ず起こる
革命は変わらない
流れる血は変わらない
罪なき幼子と女子から流れる血の犠牲は変わらない
お前の知る歴史は変わらん
歴史に従え
私は走る走る
違う
歴史は変わる
私が間違えただけだ
私が正しければ
正しい選択をすれば
また死ぬ
また赤い
また炎
また痛み
また悲鳴
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
どこかで誰かがケシケシ笑う。私は耳を塞いで走る。それは目が覚めるまで、何度も何度も……。
ああ、なんて酷い悪夢なんだ。
大丈夫。
まだ、生きている。
婢は死んだが、母上もアイツも、奴隷も兄上も豚ガキ達も生きている。
生きているんだ。