二
二人がたどり着いたのは、柳のような大木が生えている開けた場所だった。
鮮やかな赤い花が咲く大木には、ブランコが下げられている。五色の組み紐で美しい銀製の籠が下げられているブランコは、それ自体が芸術品だった。
そして、そこには一人の人物が座っていた。
華奢な体にシミ一つない白い服を纏っている。彼等が見たことがない服は、布を巻き付けているような外見で美しい金の装飾品が光る。
「女の子だ…。」
顔は見えないが、纏っているスカートのような裾の美しい衣服や、衣服から覗く白い肌を見て二人が冷や汗を流す。
この年代の少年に良くあることだが、彼等は女の子が苦手だった。
何せ彼女達は一人に対して複数で襲い掛かり、尚且つ口が達者だ。口喧嘩で負けるつもりはないが、言い負かせば「男なのに女に本気をだした」と非難され、だからと言って適当にあしらえばヒステリーを起こされる。
目の前の人物は、服装から貴族の少女だろう。貴族で女の子、厄介さに拍車がかかる。
彼女に気付かれないようにソ〜と歩いていると…。
「ネエネエ、この間みたいにお菓子ちょうだいよ!オイラ飯抜きではら減ってんだよぉ!」
『『キムカァ〜!!!』』
聞き覚えのある脳天気な声が聞こえた。慌てて見直すアルベルとランドの目の前に、少女の前の地面に座って締まりのない顔で笑っているキムカの姿があった。
心の中で絶叫する二人。
ヘラヘラと笑いながら、自分を見上げるキムカを見る少女は、フンと馬鹿にしたように笑った。
「農奴の分際で菓子を私に請うか…。相変わらず豚のように賎しい奴だな。」
クケケケと笑う甲高い声が二人の方に聞こえてくる。
まるで男のような口調で、変わった少女だ。少女の馬鹿にした口調に、アルベル達の眉がひそめられるが、気にした様子のないキムカはニカッと笑った。
「うん!だって、アンタの菓子は目茶苦茶美味しいんだもん。あんな美味しい物食べたら忘れられないよ!」
「クケケケ。しかしなぁ…、これは兄上から頂いた世にも珍しい東の国の菓子。ただで渡すのは、兄上に申し訳なくてなぁ…。」笑いながら少女は何かの包みを出して、からかうようにヒラヒラとキムカの顔の上で振っていた。
キムカはそれを見て、子犬のように顔を左右にフラフラさせて、口から唾液を垂らしている。
「ホーラホラ食べたいか?」
「うん!」
「だったら三回回ってブウと言え。」
「分かった!」
あんまりな言葉に、戸惑い一切なく頷くキムカは、三回回ってブウと鳴いた。指先で鼻を豚のように押さえてフガフガさせる全力の豚真似だ。
プライドも何もないキムカの姿に、アルベル達は物陰で痛む頭を押さえた。
ブランコの上から、それを見ていた少女も堪らずプッと笑った。
「ク…クケケケ!フハハハハ!何だその顔は、お前には誇りがないのか?」
高らかに笑った少女は、包みをキムカに渡した。歓声を上げて包みを解いていたキムカは、フト顔を上げて手を振った。
「アルベル、ランド!二人とも来たんだ?一瞬に食べよう!」
その大声に少女も振り向く。
あまり可愛くない。
貴族だからもっとフワフワした感じの外見だと思っていたが、少女の肩まで伸ばした少し癖がかかった髪は鈍い藁みたいな金色で、瞳はふてぶてしい生意気そうなタドン目。
色はくすんだ青色。
同じ青い瞳のアルベルとは月とスッポン。月の光を湛えたサファイアのようなアルベルの瞳とは比べ物にならない。しかし、その肌は一度も日焼け等を経験した事がないと思わせる程、白くて滑らかであった。
少女は、彼等を見ると憎々しげに青い瞳を歪めた。
「臭いのがまた増えた…。」
鼻を押さえての言葉に、カチーンとするアルベル達である。
「何だとこの!」
シュー
「ブワ!?」
文句を言おうと少女に迫るが、少女が取り出した小瓶から噴出された霧状の液体を浴びて悲鳴を上げた。
「嗚呼、勿体ない。いきなり近付いてくるから、思わず貴重な香水を使ってしまったではないか。謝れ。」
「誰が謝るか!」
「くっせー!」
ぷんぷんと濃厚な甘い匂いを漂わせたアルベルとランドは怒鳴るが、我関せずの少女は香水の中身がどれだけ減ったかが重要のようで、彼等を無視して中身を夕日に照らしていた。
「アルベル、オイラを仲間ハズレにすんなよ〜!キラキラさんを最初に見付けたのはオイラだぞ!」
菓子を夢中で食べていたキムカは、騒ぐ三人を見ると頬を膨らませて抗議した。
「キラキラさんだ?」
「うん!」
キムカが満面の笑みで指差す先には、苦い顔をした少女。彼女はサンダルを脱ぐと、ブランコに乗ったまま、裸足の足でキムカの頭をグリグリと踏みはじめた。
「その名前で呼ぶなと何度言えば分かる?低脳頭め。」「アハハハハ止めろよ〜!」
構ってもらえて嬉しそうなキムカ。流石に少女を取り押さえるアルベルとランドは、怒りの形相で少女に怒鳴った。
「おい!キムカに何をするんだ!」
「この糞貴族!」
やはり、女の子と言っても貴族は貴族。虐められている自分達の弟分を助けようと、少年達が少女の肩を掴んだ瞬間。
ペチ!ペチ!
情けない音と同時に頬に衝撃が走った。
驚いて見てみると少女は目尻を吊り上げて睨みつけている。拳を握っているから殴られたのだろうが、何とも力が入っていない一撃である。
何やら怒っている少女は、キムカを指差して声を荒げる。先程までの飄々とした雰囲気は何処へやら、白い頬を赤くして、今まで溜めていた物をぶちまけた。
「何処の誰が私に文句を言うつもりだ愚か者。何が何をするだ、それはコッチのセリフだ。突然やって来て私の菓子を食べたと思ったら、纏わり付いて来よって。散々来るなと言っても来るし、菓子をやらなければ泣きわめくし、庭中を掘り返そうとするし、一緒にいると何か痒くなるし、馬鹿にしても喜ぶばかりで張り合いがない。何だ?この年齢で性的倒錯者かコイツは?私には、やらなければいけない事があって忙しいんだ!なのに僅かな休息を台なしにしよって。お前達が保護者なら、さっさと連れていけ!」
少女の怒涛の苦情に押された二人は、思わず頭を下げて謝った。
【オマケ】
「うお!?何だコレ美味い!!」
ガフガフ
「だろー?【あんこ】って言うんだぜ!」
モグモグ
「あんこ美味い!」
フガフガ
「また…豚ガキが増えた…。」
地面に座りながら、凄まじい勢いで和菓子を貪り食う少年達を見て少女は溜息をついた。
何か苛々したから、ブランコの脇に設置された白いテーブルの上に置かれていたティーポットを持ち、お茶をダバダバ少年達の上に掛けたら目茶苦茶叱られた。
凄く不満




