母の遺言
妾は昔から本が好きでした。愚かな弟達とは比べ物にならない知性を天より承った。
しかし、妾は女。
家督を継げない女。
父上は妾を見て、男だったらと嘆かれていた。しかし、妾が女である事は変わらぬ。父上が亡き後は愚弟が家を継ぐであろう。そして弟達は家を食いつぶす。
火を見るよりも明らかな未来。
父上は妾を王家の側妃にする事で家の存続を画策した。
輿入れが決まった晩。妾に幼い頃から仕えているメイドであるルール、ミーシャ、サーシャと泣き合った。
しかし、妾にはやらなければいけないことがある。国王陛下の子を孕む事だ。
名家の権力だけで嫁ぐ妾には他の側妃のような美貌はない。恐らく陛下が手を出されるのは輿入れの晩の一度だけであろう。
もし、そのチャンスの際に孕まなければ妾は二度と孕むチャンスはない。そうすれば妾は孕めず、三年経っても孕めない側妃は石女として離縁される。
それでは王家からの援助が受けれない。
メイド達と排卵薬を作り服用し、そして孕んだ。
過剰な薬の摂取により妾の腹はもう使い物にならぬが、妾はこの小さな命が愛おしい。
ヘストロドス。愛おしい妾の子…。
泣かないで愛おしい子。
貴方は悪くない。
妾は時折考えるのですよ、もし貴方がいなければ、妾はあの冷たい後宮で狂っていた。人の道から外れた恐ろしい女になっていたのではないかと……。
貴方が産まれた時に、私の人生は変わったのでしょう。
貴方が何を背負っているかは分からないわ、けど言わせて。
生まれてくれてありがとう…。
子供を救って死ねるなんて、妾はなんと幸福なのでしょう。だから、泣かないで愛おしい息子。
ああ……、でもごめんなさい。妾のせいで貴方を一人にするわ……ごめんなさい……ごめんなさい……ね。