プロローグ
大陸の中央にある大国ローマニズ。その最果ての北の大地ノースコダ。
冬が長く、夏が短い大地だが、秋には大麦が黄金色を輝かせる。ほどほど豊かな土地。
また、此処には白銀の毛皮を持つ美しい獣が多数生息しており、ノースコダの毛皮はその上質さで有名だ。農地が雪に閉ざされる冬の間の内職として行われる、毛皮製品の製作は、土地に住む人々によって重要な収入源となっている。
そんなノースコダの地では、今までにない大規模な飢饉に見舞われていた。
前年に発生した冷夏。夏を飛び越えて春から冬になったかのような異常な天候によって、主要な収入源である大麦を始めとする作物の殆どが病で駄目になった。農民達は蓄えを遣り繰りして、何とか冬を乗り越えた。
今年こそはと、春の到来を喜んだ彼等。
そして…、冷夏は今年もやって来た。
月は八月。夏が短いノースコダでも汗ばむ気候である時期だが、吹き抜ける風は乾いて冷たく、まるで秋のようだった。普段なら既に実をつけ始めている筈の大麦は、痩せて覚束なく風に揺れていた。
ノースコダは大規模な工業はない、農業を主要産業としている。秋に収穫した大麦や産業作物にて翌年の税金を賄っていた。
冷夏の訪れは二度目の飢饉を予想させた。貯蓄を使い果たした農民達は、高い税金を払う所か、今年の冬をどうやり過ごすかで頭を悩ませている。
今年は餓死者すら出るかもしれない。
各地の村長等の地方有力者達が頭を抱える中、彼等農民を守る筈の領主は、税金の増加という彼等の息の根を止めるような所業を行ったのだった。