やっぱり嵌った
ウォー・・・ン
遠くからフレアウルフと思われる泣き声が聞こえてくる。
僕とキョウの顔に緊張が走る。
「やばい、腹が減った・・・」
魔力消費が大きいからか、キョウの食欲は異常だ。今日の朝もそのせいで食べ過ぎてしまったのだろう。
「もう昼時だしね」
緊張を少し和らげて会話する。もちろん手は握ったままだ。
「離すなよ、絶対離すなよ」
術者以外見えない、つまり僕にも見えないということだ。安全な場所へとキョウが誘導してくれてはいるものの、離せば落ちる確率は半々といったところだろう。
「グルルルルル!ウォウ!」
「うお!」
目の前に突然現れたフレアウルフにキョウが驚いて手を離す。
「ちょ!」
そのまま僕の体へと体当たりを敢行してくるフレアウルフから逃げるように走る僕。
「あぁぁぁぁぁ!!!・・・あっ」
地面を駆けても進まない。どころか地面に埋まっていく錯覚をもたらした。
ふと後ろを見るとフレアウルフも同じ状況になっているようだ。
「ぁぁぁぁっぁあああああ!!!」
ふっと浮遊感。
男の大事なところがスッと冷える。さながら遊園地のパイレーツに乗ったような感覚が・・・。
どうやら空中であがき続けた分、僕のほうが滞空時間が長かったらしい。ボフン、と温かい何かに包まれて地面へと到着した。
「おーい!生きてるかー!」
うるさい!それどころじゃないんだ!
僕の意図していない攻撃を食らったフレアウルフ様が怒っていらっしゃる。それはもう炎を纏いながら。
グルルルルルと威嚇の嘶きをあげながらも襲ってこない理由。それはひとえにスパイダーネットのおかげだ。
スパイダーネットはクモ型魔物の糸を原材料にしているが、より粘着性を持たせたものとして主に害虫駆除用や家具の固定用の市販品として売られている。
大きさは1メートル四方程度で、水を浴びると粘着力が落ちてしまう。だが、地面とモノを貼り付けて完璧に固定することの出来る粘着性はCランク魔獣程度なら簡単には引き剥がせないのだ。
補足しておくと、この落とし穴の中には大量にスパイダーネットがあちこちにばら撒かれている。
僕は未だに引っかかってはいないものの、壁一面にスパイダーネットが張り付いている光景を見ると嘆息した。
「はぁ、脱出無理だよね?」