残念イケメンと女将さん
「よぉ」
僕が目覚めた瞬間にキョウのどアップの顔が映し出される。
「とう」
目潰しを繰り出すと「ぐぁぁ、目があぁぁぁ」と呻いたキョウが床に転がる光景が見えた。どうでもいいけど汚いよそこ。
「リュー!何すんだよ!」
僕に猛抗議をしてくる。そんなことはどうでもいいんだよ。
「僕の寝顔の近くで何してた」
「うっ!ぇえーと、その~」
低い声を心がけて告げると途端に怪しい挙動を繰り広げている。
どう考えてもやましいことをした人物だ。平時からこれなら真昼間から警察に捕まるくらいの怪しさだ。
「落書きしちった☆(キラ)」
無駄にイケメンなキョウがてへっと頭を小突く。そんなことをしてもイケメンはイケメンなのだ、死すべし。
「うっさい、黙れ残念イケメン」
朝から無駄にイケメンオーラを食らって機嫌を損ねていた僕は、鳩尾にフックを入れてから首筋へ手刀を落とす。気絶したキョウを止めとばかりに布団にくるめて縛る。
手近な場所においてあったロープで某宇宙人と化したキョウを窓の外から吊るす。落ちてもこいつなら死なない。
「よし、女将さんに挨拶してくるか」
昨日おとといと心外ではあるもののキョウのおかげで大量収入を手に入れた僕達は、町の子供に金を握らせてオススメの宿屋を聞いた。大人は打算で動くからな、子供の意見の方が信用がおけることも多い。
その試みは間違っていなかった。食事も寝心地も雰囲気もいいその宿は、値段が張るもののその値段につりあうだけの宿であった。
「女将さん、おはようございまーす」
女将さんは僕のおばあちゃんと遜色ない外見で、人間族だ。この人のおかげでこの空気は保たれているのだろう。
「おぉ、おぉ。よく寝られたかい?お連れさんはどうしたね?」
お連れさん?そんなものいません。でかかった言葉を飲み込む。
「キョウは寝坊です」
にっこりと笑う。そこ!悪魔の笑みとか言わない!
「そうかい、食事の用意はしてあるよ。ゆっくりお食べ」
僕は相槌をつきながら食堂へと向かう。この宿は各室毎にトイレ・シャワールームが付いていて、食事は共同で取るそうだ。なんでも大勢で食べるほうが美味しいからだとか。
おかげでここに住む人は多い、泊まるではなく住むのだ。本当に気に入った人は50年以上の予約を入れているらしい。今は別の街に依頼で出向いているのでいないそうだが。
言われたとおりゆっくりと食べる。今日の朝はシチューとスープにパンとサラダだ。
ゆっくりと支度をして
ドゴッ
外から聞こえてきた音で意識を切り替える。案外早く起きたものだ。
まったりとスープを飲んでいると、ドタドタと落ち着いた雰囲気をぶち壊しにしながらキョウが駆け寄ってくる。
「リューーーーーーーー!!!俺の朝飯はどこだ!そして死んだらどうすグプゥ!」
うるさいキョウの頭を叩いて黙らせると女将さんがご飯を運んでくる。グッジョブ!
僕はキョウが朝ごはんを食べ終わるまで部屋で準備をしながら待っていた。
「うぅ・・・腹が・・・腹が・・・」
「バカは死んでも直らない。シチューを20回もおかわりするなんて人間じゃないよ」
言外に化け物と言ってみた。わざわざ金を払ってまでおかわりするんだからおかしいと思う。
「大丈夫だ・・・ぜ・・・使うのは魔法だけ・・・だからな」
お腹が既に10センチほど出ている。これを笑わずに何を笑えと!?
噴出しそうな口を押さえつつ初日とは別の衛士に挨拶をして北の山へと向かった。