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異世界からの帰還  作者: 東波 広
序章【勇者召喚】
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人好き衛士とギルド歓迎

 僕達が森から抜け出ることが出来た理由はこの大きな城壁のおかげである、ありがたや。


「いつまでも門に祈りをささげてないで行くぞ」


 キョウが待ちきれないとばかりに衛士らしき人の前にある行列に並ぶ。


 色とりどりの髪が目の前に立ち並ぶ。もちろん瞳の色もそれぞれ違う。


「魔法とあわせて考えると、異世界か天国かはたまた夢か」


 僕が高尚な思考にふけっていると、「リュー」と呼ぶ声に引き戻される。


 よく見てみるとあと数人で僕達の番みたいだ。


 キョウの元へと行くと視線がすごい。黒髪や黒目がそんなに珍しいのだろうか?


 あたりを見渡すと黒髪はちらほらと見かけることが出来る。そうではないらしい。


「次!」


 僕達の番になり、衛士がキョウに声をかけてきた。


「君達・・・なぜ裸なんだい?」


 言われてから気づく。パンツを残したら全裸だった!正直に話したら即捕縛されそうだ。


 これはまずい、どうにかしなければ!


「ドラゴンに襲われたんだ、死ぬかと思った」


 隣のキョウが平然と言ってのける。嘘をつくのはお兄さん感心しませんよ。せっかく盗賊に襲われたと言い訳しようと思ったのに。


「ドラゴン、ウィンドドラゴンか。よく逃げ切れたね」


 衛士さんは少し考えるとすぐに結論を出して温和な表情を見せる。


 聞き耳を立てていた周りの人たちも同情した視線を向けてくる。ありがとうございます。


「誰かマントを譲ってあげてくれないか!ただでとは言わない!銀貨50枚でマントはないか!」


 後ろ側のでっぷりとした男が手を上げる。馬車の中から絹であろうマントを出して衛士に渡す。


 衛士はその男、商人であろう者に渡された小切手にサインと指紋を書き、押す。


 その商人は鼻歌を歌いながら列へと戻っていった。周囲の商人らしき人たちは顔をそろえて悔しがっている。


「私はエトー。いつでもいいから王城へ金を返しに来てくれればうれしい」


 人好きのする笑顔で僕達を通してくれた。




「キョウ、助かった」


 結果オーライとはいえ、助かったのは事実。お礼を言うとキョウは照れた様子で頭をかいている。


「当面の問題は生活費をどうやって稼ぐか、あとは服だな」


 キョウの言葉に同意しながらも付け足しをする。


「それだけじゃない。一番の問題はこの街の地図を手に入れることだ」


 そう、この街は無駄に広いためどこになにがあるのか分からない。


 中央に王城があるために迷うことはないのだが、どこに行けばいいのか分からない。




 当てもなくぶらぶらと歩いていると、冒険者ギルドと書かれた看板が目に入ってきた。


「キョウ、あれ」


 指先を看板へと向けるとキョウもそちらを向く。


「おお、いいな。さすがにドラゴンは無理だが」


 苦笑しながら共にギルドへと入ると、明るい雰囲気が凍る。


「いらっしゃいませ、当ギルドへ依頼ですか?」


 受付の老紳士が対応する。冒険者達の瞳がギラリと光った気がした。


「ギルドへ登録できますか?」


 老紳士や冒険者達の雰囲気が一変する。


「なんだ、若手の冒険者はここにはほとんどいねぇから大歓迎だぜ!」


 明るい雰囲気が戻ってきて、重い空気が酒盛りへと変わる。僕達を歓迎するムードだ。


「お前ら何歳だ?19歳以下なら酒はのめねぇぞ!」


 辺りが笑いに包まれる。酔っ払いの相手は難しそうだ。


「残念ながら17歳です。大人になったら一緒に飲みましょう」


「俺も17歳だな。堂々と飲むわけにはいかないな」


 二人の返事に気にすることなく酔っ払い達は盛り上がっていく。


「彼らの相手はしなくてもいいですよ。こちらでございます」


 老紳士につれられてギルドの一室へと通される。


「まず、いくつか冒険者になる時点で注意事項がございます」


 僕達に渡された紙に書き込まれたものがそうなのだろう。


「説明いたします。


一、冒険者ギルドの発行するカードは、住民票などの役割も果たします。紛失した場合はすぐに届け出てください。


一、紛失した場合は再発行いたしますが、ギルドランクは2段階下げさせていただきます。登録の際は指紋を登録していますので、指紋さえあれば再発行可能です。


一、B-ランク以上になると強制依頼があります。強制依頼は拒否できません。失敗した場合はランクを一段階下げさせていただきます。


一、自衛のため以外は人をあやめてはいけません。もちろん手配者は別です。


一、依頼は採取系依頼を除き、同ランク以下の依頼しか受けられません。10の依頼を失敗するとランクが一つ下がります。


一、ランクはA+からF-までの18段階です。同ランク以上の依頼を20達成するとランクが一つ上がります。


一、パーティー登録をするとギルドカードに極少量の魔力を流すことでメンバーの居る大まかな距離と方向を知ることが出来ます。パーティーのランクは全メンバーの平均値です。なお、パーティーの最大人数は10人でパーティー登録は解除しない限り有効です。リーダーと副リーダーの登録はして置いてください。メンバーの追加はリーダーか副リーダーが許可した者のみとなりますのでご了承ください。


一、依頼は依頼掲示板より受けてください。討伐系依頼は一度に二つまで受けることが出来ます。護衛・雑務系依頼は一度に一つしか受けることが出来ません。採取系依頼は対象となるものを持ってきてもらえればその場で依頼完了となります。


一、依頼掲示板などのギルドを介した依頼を月に一度必ず受けてください。依頼を受けなかった場合は三ヶ月依頼を受けることが出来ません。例外として妊娠・出産・怪我などは申請すれば受けなくてもかまいません。


一、虚偽があった場合、速やかに処罰が下されます。ご注意ください


当面はこんなところでしょう」


 当面って随分と多いよ。多すぎて頭が混乱するよ。


「あなた方にはフレアウルフを狩って頂きます。成功すればD-から、失敗すればF-からです。もちろん受諾しなくてもかまいません」


「「受けます」」


 二人共声をそろえて言う。その前に少し言いたいことがある。


「すみませんが服の貸し出しなどはしていませんか?マントの下が裸なんですが」


 老紳士は目を見開くと女性ギルド員に指示を出した。


「手配しました。金貨1枚の依頼ですが、半額にしてもよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


 すかさずに返事をする。値段がどのくらいかは分からないが背に腹はかえられない。


「ではお願いします。こちらに登録名と本名、種族と指紋をお願いします」


 すっと差し出された紙を見て、同様に差し出されたペンで書き込んでいく。


 桐谷 流と書くと、自然とローマ字崩しでリュウ・キリタニと表記される。登録名はリューにした。種族はもちろん人間である。最後に指紋を押せば完璧だ。インクで赤く染まった指が気になるが・・・。


 隣を見るとキョウジ・ヒノモトとかかれ、登録名がキョウになっている。


「はい、確認いたしました。フレアウルフはこの街の北にある山に住んでいます。この街の地図を渡しますのできちんと準備を整えてください。銀貨50枚は先に渡しておきますね。失敗したらしばらくはただ働きをしてもらいます。期限は5日、討伐証明はカードの記録から分かりますので剥ぎ取りの判断もお任せします」


「ついでにパーティー登録もお願いできますか?リーダーはキョウ、副リーダーは僕で」


「分かりました。こちらで処理しておきますのでお任せください。こちらにサインだけお願いします。リーダーの方にはこちら、副リーダーの方はこちらを読んでおいてください」


 僕達は渡された紙をしまってからギルドを出て地図を確認しながら準備を進めることにした。




「マスター、よろしかったのですか?」


 服を用意した女性ギルド員が老紳士へと話かける。


「大丈夫だ。問題ない」


 老紳士は笑みを浮かべながら先ほどの彼らへと思いを馳せていた。


 女性は邪魔をしないようにとそっと扉の外へと出て行く。普段ならあんな特別待遇はしないはず。


「あの子達、何者かしら(貴族の子?それならギルド員である私も知っているはず。妾の子かも・・・)」


 無粋な推理をしながら女性ギルド員は消えていった。ドアの前に残っていればギルドマスターから答えが聞けただろう。


「17歳の少年。黒髪黒目の勇者、か。国王に報告せねばな。どちらが勇者なのやら」


 背もたれに行儀悪く寄りかかる。そこにはギルドマスターとしての威厳も、老紳士風の高貴さもなかった。

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