キョウと海
「おーい、生きてるか?」
浮遊感と共に日本語ではない言語が発音される。だがなぜか理解が出来る。
ゆっくりと目を開けていくと、そこには一面の青い地面が移っていた。
「って、海ーーーーー!!」
高度500メートルほどから見渡せる広大な青い海。
隣で話しかけてきた人物も同様に落ちているようだ。
「海、だよなぁ」
漆黒の髪と瞳。明らかに東洋系の顔立ちだが、しゃべっている言語が違う。
「俺は日本から来た日ノ本 恭二、君は?」
明らかに日本語ではないのに日本から来たそうだ。それにしても落ち着いている。
「僕も日本から来た、桐谷 流。流は流れる方のりゅうだよ」
とりあえず自己紹介をしておく。高度残り300メートル程度だ。
日ノ本くんは目を見開いて固まっている。何かおかしいところでもあったのだろうか?
「日本語、いやまさか」
どうやら僕と同じことに気がついたらしい。それにしても順応が早い。
残り100メートルを切ったため手を伸ばして飛び込みの選手のように着水の形を取る。
ちらりと隣を見てみると、彼は両足から着水するようだ。
ドッパァァァッァァアア!!
僕の横で大きな水音が響き、そのまま数十メートル海中を進む。魚の形が日本とは違う。
勢いが衰えたところで衣服を脱ぎながら海面へと上昇していく。息がギリギリもたないかもしれない。
「ぶはぁ!」
文字通りパンツ一枚になった僕は海面から顔を出して日ノ本くんを探す。
「おおーい!」
少しはなれたところから声が聞こえてきたので返事を返しながら泳いでいく。
「うっ、ぷぁ。日ノ本くんも無事だったんだ、よかった」
無自覚に微笑みを向けながら安堵する。心細いことは確かだが、彼と一緒にいることでほんのすこし和らいでいる。
「恭二、もしくはキョウって呼んでくれ。とっさに足から着水したけどダメージはほとんどなかった。かなり身体が強化されてると見て間違いないと思う」
彼はそういいながら微笑み返してくる。彼の服は既に海の中のようだ。
「了解、キョウ。僕は流、もしくはリューが呼ばれなれているよ。とりあえず陸地に上がろう。落ちる前に島が見えた」
米粒大ではあったが、確かに島が見えたのだ。
僕は先導して島の方向へと向かう。あの変な形の雲の方角だったはずだ。雲はほとんど動いて無いから方角はあっているだろう。
「リュー、なんか嫌な予感がしないか?」
突然キョウが話しかけてくる。嫌な予感?
キョウの方へと振り返った瞬間に僕の心は凍りついた。
「ちょ!鮫とかシャレになってない!」
ものすごい大きさの尾びれが見える。数百メートルは離れているためすぐには追いつかないだろう。
「マジか!リュー、急ぐぞ!」
二人で全力でクロールをする。すると異常な速度で進む。いまなら世界記録を塗り替えることも可能だろう。
すごく小さな、30メートル四方ほどの島が見えてくる。木は生えていないが仕方あるまい。
クロールの勢いを殺さなかったせいで、島に突撃して端から端まで二人で転がってしまった。
鮫は急に進路を変えると、僕達を襲ってきた時とは比べ物にならないスピードで帰っていった。
「た、たすかったー」
体を投げ出し大の字に寝転がる。日差しは強くないためこのまま寝てしまってもいいだろう。
「俺、疲れた。ふぁぁぁあ、あふ」
あくびをするキョウに同意してしばらく休むことにした。
眠気に逆らわず、ゆっくりとまぶたを閉じて意識を手放した。