戸惑って営業スマイル
まずい、まずいな・・・思考が危うい。
先ほどから悪い方へ悪い方へと考えが進んでいく。
それを払拭するためにギルドへと登録することにした。
「すいませーん、依頼受けたいんですが」
「お、リュー坊。キョウ坊はどうした」
「おっちゃんはキョウが好きですねー。今回は一人で受けに来たんです」
軽くふざけながら答える。
自分の中の悪い思考が少し薄れた気がした。
「おっちゃん、仕事ないの?」
「あるわ。実はここだけの話だけどな・・・」
このおっちゃんはいつもここに居るのだが、仕事は大丈夫なのだろうか?
「おっちゃんはAランクの冒険者でな。ここで死にそうな新人を追い返すって仕事があんだよ。あと町の防衛が。ここで酒飲んでりゃいいってんだから楽でいいぜっ!」
ガッハッハと豪快に笑う姿は、まるで酒豪のようだ。むしろダメな男とでも言うべきだろう。
しかし、この目には嘘の欠片も無い。これはそう思い込んでいるか本当かの二択だろう。
「そーですかー。じゃあ僕は依頼受けてきますね」
「おぃ!信じてねぇだろ!」
「いえいえー、信じてますよー?」
意図的に棒読みで返した僕に過剰反応してくるおっちゃん。
こんな人が居るところで大声で話してたらそのギルド側の意図も意味ないだろうに・・・。人選ミスじゃないか?
「このゴブリンの巣穴駆除を受けたいのですが」
ゴブリンの巣穴駆除依頼。内容はその依頼名どおりなのだが、この難易度はDランクの最高峰とも呼ばれるべき高さである。
ただでさえゴブリンが数十数百と沸いてくるうえに稀に魔法を扱うハイゴブリンやゴブリンロードが出現し、クイーンゴブリンが居た場合はそれらの統率が完璧に取れており、人間の小量の軍と戦うようなものである。
「はい、こちらですね。ギルドカードをお借りします・・・どうぞ、こちらの依頼の受注を完了しました。いってらっしゃいませ」
美人な女性ギルド員ににっこりと微笑まれて一瞬焦ってしまったのは内緒だ。あれは営業スマイルなんだ!