神と魔王
「しかし、難儀なことよ」
難しい顔をしながら彼ら二人の人生を見つめる、神と呼ばれる者。
「神に愛されし若者よ、神に疎まれし若者よ」
片方は愛され、片方は疎まれた。
能力や性格、果ては外見に至るまで全て同じだった桐谷 流と日ノ本 恭二。
神に愛された流は主人公のように、恭二は虫けらのように。
あちらの神が代替わりし、その愛の比重が傾いた。
愛された方は不幸に、疎まれた方は幸せに。
「せめて、もう一度人生を生きて欲しい」
それだけを、それだけを願って呼び寄せた。
「例え、神の掟に背いても」
死に掛けた流を恭二と共に呼び寄せた。運命を捻じ曲げるなど本来ならあってはならないことだ。
「裁きが下るか」
自身に降り注ぐ悪寒。長い間この世界を守ってきた神は黒い光に包まれながら呟く。
「我が兄が、すまなかった」
愛に恵まれなかった恭二はこの世界に来て恋人を手に入れた。
愛に恵まれすぎた流は反転した運命に抗うチャンスを与えた。
「最後に、プレゼントを・・・」
ゆっくりと二人に手をかざす。自身の最後の神の力が失われる。
「くっ・・・くっくっくっ」
黒い光を浴びせた影は、巨大とはいえなかった。
ただ、その体からは黒々とした目がらんらんと輝きを放つ。
神へと裁きを下すものは世界である。世界は善と悪を区別しない。
ただ、運命を変えるものへと罰を与えるだけである。
ここに、この世界初の2代目の神。そして初代魔王が降臨したのであった。
「さあ、神喰らいの我が口よ。次は勇者を喰らおうではないか」
自身の存在を脅かす者へ制裁を、自身へと恐怖を抱くものは絶望を与える。それが魔王の仕事であり、義務である。
「まずは桐谷 流、こいつからだ。運命を捻じ曲げ生きる者よ。永劫の業火に焼かれるといい」
そんな、本人のあずかり知らぬ場所で話しは進んでいた。