とってもミンチな贈り物
僕はフレアウルフの粉々となった牙と爪だけを集め、ミンチ的な物体と化した死体を大きな袋に入れる。
その後は簡単な消臭魔法を使って血と肉の匂いを消して担ぎ上げる。
牙と爪は塊をすりつぶして別々に袋に入れてある。
ちょうどいい機会なので説明しておく。キョウはドジッ子属性である。
元の世界ではそうでもなかったようだが、異世界に来て能力が飛躍的に上昇したために体の感覚がずれたのだと思われる。
つまり、唯一の体術で抜かれる可能性があるわけだ。別にいいけど。
なぜそれを今説明したか。街へと戻るために歩くこと数分、隣でまた段差の下へと落ちていくキョウを眺めていたからだった。
「キョウ、男がドジッ子属性持ちでも僕は得しないからさっさと治してくれない?」
「それ・・・い・・・まの・・・おれ・・・いう・・・・・・」
どうやら打ち所が悪く股間を押さえながら気絶してしまったようだ。面倒なので段差の下へと飛び降りて死体袋とは逆側の肩に担ぐ。
「よし、行くよ!」
全力で地面を蹴って街へと急いだ。
担いで街へと直行し、衛士に事情を多少脚色して話しながらギルドカードを二人分見せるとすぐに通してくれた。
「エトーさん、お疲れ様です。近いうちに返しに行きますね」
「ああ、ありがとう。君達も無理はしないように」
衛士はエトーさん。いつも見かけるんだけど交代とかしないのかな?
「すいませーん、老紳士のおじいさんいますかー?」
街へと入るなりギルドを目指し、ドアを蹴ってノックする。しばらくすると扉が開く。開けてくれたのは初日に酒飲みへと誘ってきた豪胆なおっちゃんだ。
「おっちゃん、ありがと」
「なんだリュー坊か。キョウ坊はどうした」
開けてくれたおっちゃんに礼を言うとキョウを指差して聞いてくる。もちろん多少脚色して聞かせてあげた。今日の酒の肴にでもなるのだろう、強く生きろよキョウ。
しばらく待つと、中から老紳士が出てきた。
「こちらです。どうぞ」
僕達を連れて応接室まで案内される。二人のギルドカードを見せてD-ランクにしてもらったことを確認してから本題を切り出す。
「こんな特例をありがとうございます。ところで貴方にプレゼントがあるんですよ。」
邪気をなるべく出さないように笑い、死体袋を差し出す。
「フレアウルフのミンチです。こうなりたくなかったら詮索はしないで下さいね、では」
言い残して老紳士の言葉も聴かずに去る。もちろん残念イケメンことキョウは頭を地面につけながら引きずられている。段差に頭をぶつけたが気にしない。
「じゃあ、宿にでも帰ろうかな」
あの温もりが恋しくなり、いそいそと宿屋へ早歩きで向かう。引きずっている生き物の頭にたくさんこぶが出来ているのはきっと気のせいだ、幻覚に過ぎない。
老紳士は応接室の椅子の上でうなだれる。
「フレアウルフを無傷で嬲り殺しとは・・・恐れ入る。あの様子では尾行している者には気づいているようだし早急に王城へ招待した方がよさそう、か?」
震える体を無理やりに押さえ、ギルドマスターとしての顔を取り戻す。そこには毅然とした老紳士がいた。
ゆっくりと目の前においてあったカップを取り、ぬるくなった紅茶を一口飲む。
「ふぅ・・・」
ままならぬ、つぶやきは彼以外には聞こえることはなかった。