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【短編版】魔力無制限の大魔法使いは、静かに読書したいだけ

作者: 紙絵
掲載日:2026/09/27

 リウム王国の森の入り口。

 そこには、魔法の知識が誰よりも豊富で、おまけに魔力が尽きることがないという『大魔法使い』が住んでいるらしい……


「ふわぁ……」

 

 ノアは読んでいた本を閉じると、大きくあくびをした。

 ゆっくり本を読むため、この山小屋は見つからないように魔法がかけてある。

 彼の望みは、誰にも邪魔されずに読書をすることなのだ。


「ノア! やっと読み終わったのね! 私、お腹空いちゃったわ!」


 金魚鉢の中から、赤い金魚がパクパクと言葉を話している。


「エレナ、ごめん。本に夢中になって忘れてた」

「ノアらしいわね」


 ノアはパンを金魚にあげると、自分もお腹が空いていることに気が付いた。


「ちょっとパン、買ってくるよ」

「行ってらっしゃい」


 ◇

 

 第一王子のルーカスは、従者と共にその山小屋を目指していた。

 近頃、竜の動きが活発になってきており、ここ王都の近くにも竜が何匹も出たと、騎士団から報告があったのだ。


「まだ着かんのか?」

「おかしいですね……山の入り口と聞いたのですが、もう一時間は迷ってますよね」

「竜退治……早く頼まねばならぬというのに」


 ルーカスは辺りを見回す。周りは木々が生い茂り、鳥が飛んでいる。家はどこにも見当たらない。


 その時——


「殿下!!」


 足元に巨大な黒い影……上を見上げると、そこには竜の群れが飛んでいた。

 数十匹の竜が、大きく翼を羽ばたかせながら飛び去っていく。

 この先にあるのは——


「王都に向かうつもりか!?」


 ルーカスの顔から血の気が引いた。このままだと、王都が竜の餌場となってしまう。

 

「王都に戻るぞ! 騎士団と共に竜を撃退する!!」

「はっ!」


 二人は急いで山道を駆け下りる。


「……あっ!」


 従者の手から一冊の本が落ちた。道の脇には小川が流れている。


「貴重な魔導書が!!」


 落ちる——!!


 その瞬間、フワッと優しい風が吹いた。

 その風に乗って、魔導書がフワッと巻き上がる。

 それを手に取ったのは——空から降りてきた一人の少年だった。

 黒髪にローブ姿。

 なぜか口にパンを咥えている。

 少年は、そのまま地面に静かに着地する。


「あ、あの! その本……」

 

 従者が声をかける。

 少年はパンを飲み込むと、口を開いた。

 

「これ、魔導書だよね? しかも、すごく珍しい」

 

 ローブ姿の少年は、本をじぃっ……と見つめている。


「それは、この辺りに住んでいるという、大魔法使い様へのお土産です。本好きと噂がありましたので……」

「もしかして、君はその大魔法使いの弟子か?」


 ルーカスが、はっと思い至る。


「ローブ姿だし、飛行魔法を使っていたし!」

「僕は……」


 ——ギャアアアオオ!!


 少年が何か言いかけた、そのとき、王都の方角から竜の咆哮が聞こえてきた。


「まずいっ!!」


 ルーカスは急いで王都へと向かおうと、走り出しながら少年に声をかける。

 

「君、その本師匠に渡してくれ! 師匠に竜を倒してくれと伝えてほしい……!」

「え!? これ、くれるの?」


 少年が、口をポッカリ開けて、驚いた顔をする。


「ああ。竜退治をしてくれるなら、魔導書くらいいくらでも! 師匠によろしく!」

「君、本を落とす前に拾ってくれてありがとう。それじゃあ、私は殿下を追いますので!」


 二人はバタバタと、急いで山道を駆け下りて行った。少年はその後ろ姿を見て、王都の方を見て、そして、本を見てニヤッと笑った。


 ◇


 王都の街は騒然としていた。

 竜の群れが、王都の上空を旋回している。

 王国直属の魔法使いたちが、街全体を防御結界で覆い、竜の侵入を防いでいた。

 しかし、数十匹もの竜が炎を吐き、爪と牙で結界を破ろうとしている。

 結界が破られるのも、時間の問題である。


「こっちへ! 地下へ急いで!」

「王都の外はダメです! 竜が多すぎる……!」


 ——バキ……!!

 

 防御結界にヒビが入った。竜が鋭い爪を突き立てている。

 

「ルーカス殿下!」


 騎士団がルーカスへ向かって、一斉に敬礼した。

 

「騎士団の皆! 我々で王都を守るのだ!」

「おおーー!」


 ——バキバキバキバキッ……!!


 ついに防御結界が破られた。竜たちが次々に王都の街へと飛来する。

 ルーカスたちは剣を抜き、竜に向かって構えた。


「ギャアアアオオ!!」


 竜の雄叫びが間近で聞こえた、その時


 ——ピカッ……!!!


 視界が真っ白になった。

 一瞬、すべての時が止まったような感覚……


 ——ドカーーン!!!


 遅れて、凄まじい雷の音が轟いた。

 白い光が消え、徐々に視界がクリアになっていく。


「竜たちが……」

 

 竜の群れは、一瞬で黒焦げになり、煤となって地上へ落ちていく。

 その場にいた誰もが、何が起きたのか分からなかった。


 呆気にとられるルーカスと騎士団の目に映ったのは、空を飛ぶ一人の少年だった。

 少年は右手を広げ、掌を開く。

 すると、強い風が吹いた。

 竜だった煤が風に舞い上がり、王都の外へと吹き飛ばされていく。

 続いて、少年は破られた防御結界を指差し、詠唱する。すると、瞬く間に結界は元通りになっていった。


「……これは!?」

「もしかして、彼が……探していた……」

「大魔法使い!?」


 少年は、ルーカスの目の前に着地する。


「魔導書のお礼。竜の数、思ったより多かったから、もう少し珍しい本、くれない?」

「……あの、君は……大魔法使い、ノアなのか?」

 

 ルーカスが恐る恐る尋ねると、少年は首を縦に振る。


「僕の名前はノア・ミラー」


 ルーカスが息を呑む。

 

「じゃあ……君が!」

「大魔法使いかは分からないけど、魔力無限の呪いにかかってるから、魔法はいくらでも使い放題だよ」

「……なんと!!」


 ノアは大魔法使いと呼ばれることなど気にも留めない。彼の望み、それは……

 誰にも邪魔されずに、読書をすることなのだから。


「で、本くれるの?」

「ああ。もちろんだ!!」

 

 ノアはニヤッと笑った。

読んでいただき、ありがとうございます!

面白ければ星5、つまらなければ星1

ついでにブックマークもいただけると嬉しいです。


気に入った方、連載版もあります。

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