社畜保育士、大嫌いな上司を異世界送りにするつもりが送られたのは自分でした。
この作品は、ブラック保育園で働く社畜保育士が、嫌いな上司を異世界に送り飛ばそうとして、なぜか自分が転生してしまうお話です。
異世界系は書くの初めてです。
お手柔らかにお願いします。
「心春先生ー!」
園庭に元気な声が響く。
「見てー!できたー!」
砂場で作った山を指差して誇らしげな子どもたちに、私はしゃがんで笑いかけた。
「すごいね、上手に作れたね」
子ども達は本当にかわいい。
この仕事が好きで、保育士になった。
……はずだった。
子ども達は園庭で元気に遊んでいる。
ブランコを押したり、砂場を見守ったりしながら、私は空を見上げた。
今日はいい天気だ。
子ども達は楽しそうに走り回っている。
その姿を見ると、少しだけ救われる。
でも。
(今日も帰るの遅いんだろうな)
そんな考えが頭をよぎった。
⸻
昼食のあと、子ども達はお昼寝の時間に入った。
保育室は急に静かになる。
小さな寝息だけが聞こえる。
私は机に向かい、書類を書き始めた。
連絡帳。
月案。
行事の準備。
やることはいくらでもある。
そのとき。
ガラッ。
保育室のドアが開いた。
「心春先生」
背筋がピンと伸びる。
振り向くとそこにいたのは主任の田中だった。
この園で一番関わりたくない人。
「まだ誕生会の準備終わってないよね?」
静かな声。
でも責めるような言い方。
「すみません、今やっています」
私がそう言うと、田中は小さくため息をついた。
「若いんだから、もっと頑張らないと」
そして続ける。
「私が若い頃はね、もっと頑張ってたよ」
胸の奥がチクリと痛む。
「今の若い人はすぐ大変って言うけどさ。私なんて毎日夜まで働いてたから」
……比べられても。
でもそんな言葉、口には出せない。
「……すみません」
田中は満足そうにうなずいた。
「あと、廊下の装飾もやっといて」
「今日ですか?」
思わず聞き返してしまう。
田中はにっこり笑った。
「若いんだからできるでしょ?」
そして思い出したように付け加える。
「あとトイレ掃除もお願いね」
「……はい」
「トイレ掃除は若い先生の仕事だからね」
当たり前のように言われる。
田中はそれだけ言うと、さっさと保育室を出ていった。
⸻
夕方。
保護者が迎えに来る時間。
「心春先生、さようならー!」
「また明日ね」
笑顔で手を振りながら子ども達を見送る。
そのとき玄関から明るい声が聞こえた。
「おかえりなさーい!」
田中だ。
さっきまでの態度が嘘みたいに、にこにこしている。
「あやちゃん今日も元気いっぱいでしたよ」
優しい声で保護者に話しかける。
……外面いいんだよな。
私は心の中でつぶやいた。
子ども達は次々と降園していく。
気づけば事務室には私一人。
時計を見る。
19時。
本来ならとっくに勤務時間は終わっている。
でも机の上には
・行事の飾り付けの準備
・書類
・トイレ掃除
仕事は山ほど残っている。
そして田中は――
もう帰っていた。
(……いいな)
私は小さくため息をついた。
トイレを掃除して、飾りを作って、書類を書いて。
気づけば外は真っ暗だった。
園を出たのは22時。
冷たい夜の空気を吸い込む。
胃が痛い。
(明日も仕事か)
そのとき。
スマホで妙な記事が目に入った。
「異世界召喚の儀式」
思わず笑ってしまう。
「なにこれ……」
でもふと、今日の田中の顔が浮かぶ。
「……あの人、異世界行けばいいのに」
ぽつりとつぶやいた。
もちろん冗談だ。
冗談のはずだった。
家に帰った私は、紙とペンを取り出した。
魔法陣を描きろうそくを並べる。
「田中主任、異世界へ送ります」
軽い気持ちで言った。
その瞬間。
魔法陣が光った。
「え?」
部屋が揺れる。
光が広がる。
「ちょっと待って!」
嫌な予感しかしない。
「いや待って!!」
光が私の足元から立ち上る。
その瞬間、私は気づいた。
召喚されているのは田中じゃない。
私だ。
「いやいやいや、ちょっと待ってええええ!!」
光は私を包み込み、視界が真っ白になった。
そして私は――
この世界から消えた。
第1話を読んでいただきありがとうございます。
ブラック保育園で働く心春のしんどい日常からスタートしましたが、ここから物語は異世界へ進んでいきます。
次回からいよいよ異世界編に入りますので、ゆるく見守っていただけたら嬉しいです。
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