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その日の午後、三限の授業のあと、遅めの昼食を食べ終えたとき、涼葉に遭遇した。
朝のことを伝えると、彼女は眉間にシワを寄せた。
「大丈夫なんですか、その紹介会社は。そもそも、どうしてうちに相談してくれなかったんですか」
「ごめん。決まってから驚かせようと思って」
「普通にしてても、綺里姉は十分うちを楽しませてくれるんですから、そんな気遣いは不要です。あと、現地を確かめずにサインするのはやめて下さい」
「もたもたしているうちに、好条件のところはすぐに取られちゃうから。働き始めて、合わなければ辞めればいいじゃないか」
「いつもいつも、そうやっていい加減なんだから。ちなみに、一応の確認ですけど、今日の夕方の約束、覚えてくれてますよね?」
「今日って……。何だっけ」
「ああ、やっぱり……。母校に行くんですよ。スケジュールアプリに予定入れておいたでしょう?通知、見てますよね」
携帯を取り出し、カレンダーを確認すると、確かに項目が追加されていた。
「ホントだ。いつの間に。涼さあ、あーしの秘書じゃないんだから。生活を管理するの、やめてよ」
だが、彼女は聞く耳をまるで持とうとせず、綺里の腕を取って立ち上がった。
「ちょっと待って。今から島本まで行くの?家と真逆だよ」
「新大阪なんて便利なところに住んでるのに、文句言わないで下さい。可愛い後輩が困ってるんですから」
涼葉のおせっかいは、今に始まったことではない。体育会系でもないのに、下の者の相談にはいつも真剣に応える、その慈愛こそが、彼女という人間性の本質だ。
登録者が多すぎてスクロールが止まらぬアドレス帳。その人気や人望は、決して容姿や育ちだけが理由ではないということだ。
「後輩って、また生徒会?」
「生徒会経由で、ソフトテニス部の子です」
いつの間にか、副会長の頃の表情に戻っていた横顔を見て、三年前を思い出した。




