表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/45

0-4

 その日の夜、派遣先についての詳細が記載されたメールが早速届いた。


 初出勤は次の金曜日。住所は淀屋橋、オフィス街だ。一階ロビーで受け付けを済ませ、七階の役員会議室へ向かうよう指示があった。


 ふむ。最近のエステはしっかりした組織らしい。


 途中、意味のわからない単語があり、調べようとしたとき、母の呼ぶ声がした。


 自室を出てリビングに行くと、YouTubeをテレビに映しながら、トレーニングウェア姿の母親が奇妙な動きをしていた。


「それって、ヨガ?ピラティス?」

「二つのいいとこ取りをした、ヨピラティっていう、新しい運動よ。悪いんだけど、私を動画で撮影してくれない?」


 いいとこ取りを売りにした商品の多くは、実際には悪いとこ取りだと、何かで読んだことがある。


「そうなんだ……。ところでママ、ひらふくってどういう意味か知ってる?」

「それ、平服(へいふく)じゃないの?平服でお越し下さいって」

「すごい。何でわかるの?超能力者?」

「逆にそれ以外の使われ方知らないわ。意味は、フォーマルな格好をしなくていいってこと」

「何でわざわざそんなこと書くんだろ。スーツで着て下さい、ってならまだわかるけど」


 そう言うと、画面を消し、汗を拭きながら、娘に向き直った。


 過去に何度も見てきた、説教をする前の目だ。


「あーし、また変なこと言った?」


 彼女は、今度は視線を落とし、深いため息をつく。


「ねえ、綺里ちゃん。そのあーしっていうの、せめて、あたし、にならない?わたしか、わたくし、にしてもらえたら、さらにいいんだけど」

「何度か試したよ。でも、三つ子の魂百までって言うでしょ」

「三つのときはそんな変な言葉遣いじゃなかったでしょう。あーあ。どこで育て方を間違えたのかしら」


 芝居がかって、頭を振った。


「本人の目の前で失敗作的な嘆きをするの、やめてほしい。そもそも、育ててないし、お小遣いだってもらったことがない」


 小学校に入ってすぐ、父の海外赴任が決まった。母は当然日本に残るのだろうと疑っていなかったが、「ごめんね、パパを一人にするとすぐ浮気するから」と無垢な瞳を向け、一秒も迷わずに同行を選んだのだ。結果、綺里は父方の祖父母に預けられることになった。


「そういうこと言わない。誰にだって色んな事情があるんだから」


 娘より男が大事だという感性は、今となってみれば多少は理解できる。が、捨てられた当時は、その前後の記憶がはっきりしないほどに、心に深い傷を負っていたように思う。


「お金だって、綺里ちゃんからほしいって、言ったことないじゃない」


 二人が帰国した頃には、自力で稼ぐことが習慣になっていただけだ。


「まあいいわ。見た目と言葉遣い以外はいい子なのはわかってるから」


 都合が悪くなるといつもそうであるように、彼女は適当な褒め言葉を並べ、それから、体操を再開した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ