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 そんな不幸体質は、大学生になっても健在らしい。


 授業前、廊下を歩いていたところで、ショートメールの着信に気づいた。


「いや、マジか……」

「どうかしました?」

「バイト先が店を閉めたみたいなんだよね」

「それって、時給三千円のとこでしたっけ?南米から届いた郵便物を、小分けにして宅配で送るとかって、超絶怪しげなとこですよね」

「楽な上に高給で、一生の仕事にしたかったのに……。最近、円安が進んでたし、それが原因かもしれないなあ」

「ただの摘発じゃないですか?でなければ夜逃げです。どっちにしても、うちとしては一安心ですけど」


 収入源を失って動揺する綺里(きり)に、一年後輩の相川涼葉(あいかわすずは)は、ひとかけらの同情も見せようとしなかった。


「席はいつも通りうしろですか?」


 そう言って、大教室の階段をさっさと上がって行く。


 ダークブラウンの長い髪が背中で揺れるのを見ながら、頭の中は、未払いの給与がどうなるのかでいっぱいだ。


 窓際の好位置を確保し、ネットの法律相談を検索し始めて間もなく、真面目な後輩は、隣で大きくため息をついた。


「もう忘れて下さい。綺里姉(きりねえ)が捕まらなかっただけでも、ありがたいじゃないですか」

「万単位のお金、そんな簡単にあきらめられないよ」


 だが、彼女は返事をせずに教科書を開き、机に両肘を乗せた。この話はもうしませんと、どうやらそう言っているらしい。


 仕方なく、お気に入り登録してある人材紹介会社のサイトを開いた。今回の勤め先を見つけてくれた実績のあるところだ。


 給料を立て替えてもらえないのか、FAQのページを探してみたが、見つけられない。


 ひとまず次の仕事を探そうと、求人ページを開いた瞬間、横から手が伸びてきて、端末が奪い取られた。


 勝手に何かを打ち込まれ、返された画面に表示されていたのは、女子大学生がいかにも選びそうな、カフェ店員や家庭教師、アパレル関係といったまっとうな職種だ。


「時給が安すぎるよ。それに、自分で言うのもアレだけど、あーしに務まるとは思えない」


 抗議の意味を込めて体を寄せると、またしても無言で、顔を押し返された。


「綺里姉は一生うちの指示に従っていればいいんです」


 普段から先輩に世話を焼く姿はいつも真剣で、今も、不満そうにする横顔は愛らしくはあるが、バイトの選定だけは、簡単に妥協するわけにはいかない。


 講義の間、逆側の椅子に携帯を置き、ひそかに調査を継続したが、いくら検索しても、前回のような好条件は見つけられない。表示されるのは、酒を提供する接客業ばかりだ。二十歳まであと半年近くある。年齢詐称しようかとも考えたが、涼葉に知られたときの反応が恐ろしく、あきらめざるを得なかった。


 これくらいか、と思われる仕事をブックマークしていたとき、周囲で弛緩した空気が広がり、授業が終わったことを知った。


「お願いですから、お金以外の条件もちゃんと考慮して下さいよ」


 バレてたのか。


「うちと同じところじゃダメなんですか?」

「小学生相手の学習塾だっけ――?子供は苦手だしなー」

「またそうやって逃げる。綺里姉は知能も高いし、向いてると思うんですけどねえ」

「知能が高い、は、チンパンジーを褒めるときに使う表現だから」


 そもそも、両親が二人とも歯科医で、一般的にはお嬢様に分類される涼葉がアルバイトをしているのは、就活のとき、学生時代に力を入れたこと、に答えるためだけだ。


 綺里の家庭も、経済的には人並み以上ではあったが、子供に対する扱いは、彼女の家とは雲泥の差があった。


「あーしは、お小遣いを一度も、もらったことがないんだ。うちの母親は、一人娘を若い同居人くらいにしか思ってないんだよ、きっと」

「ご家族への不満と、苦労自慢は聞き飽きてますから。とにかく、決める前に相談して下さい」


 時間の制約がなければ、まだまだ説教されそうだったが、幸い、彼女は次も授業で、どうにか解放された。


「とりあえず、直接聞いてみるか」


 その場で紹介会社へ電話すると、幸運にも、夕方の予約が取れ、そのまま面談に向かうことにした。



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