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第1章 9 現実からー。そして仮想世界へ

会場を後にした三人は、まるで一本の壮大な映画を観終えた直後のような、




 興奮と高揚感をまだ身体に残していた。




 周囲のプレイヤーたちも同じだ。


 通路を埋め尽くすアバターたちは、


 それぞれに声を荒げ、身振りを交えながら試合を語っている。




「あのシーン凄かったよな!」




「Mr.神崎、クールで素敵だったわ……」




「いやいや、ナイツ・オブ・クラウンの作戦も最高だったろ」




 ざわめきは、しばらく途切れそうになかった。




 美咲は歩きながら、噛みしめるように両手を握  る。


 指先が、微かに震えている。




「どうだった? 世界大会!」




「……面白かった」


 迅は少し間を置いて答える。




「ゲーム大会って、正直あんまり良いイメージ持ってなかったけど……知らないって、良くないかも」




「俺は何回か配信も見てたけどさ」


 


 迅は肩をすくめる。




「今回の試合、特に面白かった気がする」




「アジアチーム、わざと隙を作ってたように見えたんだけど……考えすぎかな」




 迅は歩みを緩め、思考に沈む。


 あの試合、ホーク・ルミナスの陣営配置は完璧  


だった。


 対処が、あまりにも早すぎるからだ。




「へー、迅も思った?」


 美咲が少しだけ口角を上げる。




「あたしも神崎選手の動き、おかしいと思った。スピリットの亡者兵士、あれわざと見逃してたでしょ」




「……そんなところまで見てたの?」




 紗良は思わず足を止め、二人を交互に見る。


「すごい通り越して、ちょっと怖いんだけど」




「まぁ大会も興行だからね、プロ意識ってヤツ?  …はいはい、この話はここまで!」


 美咲はぱん、と手を叩く。


「せっかくだし、ドイツ観光しよ!」




 強引に2人の手を引き、出口へと急ぐ。




 街は依然として熱気に包まれていた。


 既に、先ほど活躍したアバターのエモートやスタンプが並び、


 即席のショップが立ち並んでいる。




 「……とりあえず買うよね」


 美咲は迷いなく購入ボタンを押す。




 一方で紗良は、ショーケースに並ぶ洋菓子から目を離せずにいた。




「食べてみたい……でもこれ、仮想世界のお菓子なんだよね」




名残惜しそうに呟いた瞬間、


美咲がケースの端に浮かぶウインドウを、指で軽く叩く。




《ご購入のお客様へ》


《当商品は各国主要配送拠点に配置済みです》


《購入完了後、当日中に指定先へドローン配送が可能です》




「……え」




「今日、現実で食べられるってこと?」


紗良の声が一拍遅れて跳ねる。




次の瞬間、彼女は美咲の腕を掴んでいた。




「これと、これと、これ! お願いします!」




軽快な決済音。


ウインドウに表示される文字。




《配達予定時間:5時間29分》




「……早っ!」




嬉しいのか驚いているのか分からない動きで、紗良はその場で落ち着きなく揺れる。




ひとしきり買い物を終え、3人は広場のベンチに腰を下ろす。




「はー、楽しかったぁ……」


紗良は大きく伸びをし、街並みを見渡す。


「また明日も来たいかも。まだ全然見きれてないし」




「……そうだね。また——」




美咲の言葉を遮るように、


街全体に**エマージェンシーコール**が響いた。




警告音。


悲鳴。


ざわめきが、一気に恐怖へと変わる。




転送ゲートエリアへ向かうと、


その上空で**巨大な戦艦**が街を覆い尽くすように浮かんでいた。




艦影が落とす影だけで、都市全体が薄暗くなる。


——あれが落ちてきたら、それだけで街が半壊する。


そんな質量感だった。




転送ゲートは、もはや通路ではない。


巨大なウインドウへと姿を変え、イベント内容を映し出している。




《制限時間:1時間》


《目標:侵略者の撃破》


《期間中、転送ゲート使用不可》


《参加人数:無制限》


《クリア条件:戦艦リーダーの撃破》




迅は、表示を追いながら眉を寄せる。




《失敗条件:制限時間経過》


《ペナルティ:都市の一時侵略状態化》


《都市機能の一部停止》


《侵略者強化、防衛戦から奪還戦へ移行》




「……都市機能の一部停止って、どういうこと?」




「強制イベント、やばすぎない?」


「俺もう寝るとこなんだけど!」




周囲では悲鳴に近い声が上がる。


だが、そんな混乱を無視するかのように、


開始までのカウントダウンだけが無情に進んでいく。




迅は念のため転送ゲートに手を触れた。


——反応はない。




「やっぱり……転送できないか」




「日本都市は……大丈夫なのかな?」


紗良が不安そうに訊ねる。




迅は視線を落とし、考え込む。


ヨーロッパ各都市は世界大会の影響でログイン数が多い。


だが、日本都市は違う。


今この瞬間、残っている人間だけで対処しなければならない。




——他の大陸も、同じ状況かもしれない。




「仮に日本都市が失敗したら」


美咲が、迅の思考をなぞるように言う。


「私たち、日本都市所属だよね。ペナルティ……こっちにも来るかも」




そう言って、美咲は少しだけ楽しそうに笑った。


まるで、この状況そのものを観察しているかのように。




開始まで、残り10分を切る。




「ゲート正面は避けた方がいいかも」


「敵がなだれ込んでくる可能性ある」




美咲はそう言って、2人を左翼側へ誘導する。




正面ではすでに、多くのプレイヤーが陣形を組んでいた。


武装を射撃系に切り替え、来たる敵に備えている。




射撃がどこまで通用するかは分からない。


それでも、ヨーロッパのプレイヤーたちは——


どこか、この状況すら楽しんでいるように見えた。




世界大会の熱が、士気を押し上げている。




「……そろそろ始まるね」




美咲がウインドウの時刻を見る。


迅と紗良は無言で身体をほぐした。




——戦闘に備えるために。




《開始まで 0秒》

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