第1章 8 現実からー。そして仮想世界へ
バルカン砲の射撃音が、
崩壊していく都市に轟く。
形勢は、一転。
今度はジェットボーイが、
ライジングを追いかける構図だ。
かろうじて立つビルを遮蔽にしながら、
ライジングは地表すれすれを飛行する。
――オーバーヒート解除までの時間稼ぎ。
だが、スキルが使えない今、
旋回性能で勝るジェットボーイに距離を詰められ、
被弾が重なっていく。
ダメージ、蓄積。
神崎のモニターに、
エマージェンシーコールが鳴り響く。
――警告。
――警告。
それでも、神崎は何も言わない。
ただ、逃げる。
「オーバーヒート解除までは……
間に合わないようだなぁ!」
マーカスは、勝利を確信する。
照準を定め、引き金を引く。
空薬莢が宙を舞い、
弾丸がライジングを捉えた。
耐久力――残り二割。
ライジングは、なおも直進する。
その先にあるのは――
崩れ落ちていくビル群。
「……馬鹿な!」
マーカスが叫ぶ。
「自滅する気か!?」
だが、神崎は迷わない。
全神経を、前方に集中。
スキルは、まだ使えない。
翼を折り畳み、
飛翔形態へ移行。
崩壊するビルの瓦礫を、
一本の線のように見定める。
――当たれば、終わり。
だが。
直線上に存在するすべての瓦礫を、
紙一重で回避していく。
砕ける壁。
落下する鉄骨。
そのすべてを抜け――
崩れるビルを背に、
ライジングは沼地エリアへと飛び出した。
追撃しようとしたジェットボーイは、
崩壊するビルに進路を塞がれ、急停止する。
「……なんて、クレイジーなんだ」
マーカスは、呆然と呟いた。
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〈な、なんとぉおおお!?〉
〈神崎選手のスーパープレイだぁ!!〉
〈崩れるビルを――
真正面から抜けたぁ!!〉
〈マーカス選手の追撃を振り切り、
ライジング、生還!!〉
会場が、揺れた。
だが――
神崎の表情は、変わらない。
まだ、勝ってはいない。
ただ、**生き延びただけだ**。
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「ジェームズ!
奴がそっちへ向かった! 気をつけろ!」
マーカスの声が飛ぶ。
ジェットボーイは進路を変え、
ビルを越えてライジングを追う。
一方――
スピリットと亡者兵士たちは、
フォースシャーマンの目前まで迫っていた。
もう、目の前だ。
「……今さら何をしようが無駄だ」
ジェームズは、確信する。
その時。
――沼地に、雨が降り始めた。
大粒の雨。
遠くで、雷鳴。
スピリットの視界の端に、
フォースシャーマンの背中が映る。
手で合図。
亡者兵士たちが、
横並びに距離を詰めていく。
――だが。
「……?」
歩いても、歩いても。
差が、縮まらない。
背中が、遠ざかっていく。
(なぜだ……?)
焦りが、胸を掠める。
ふと足元を見る。
――沈む。
立ち止まるほど、
足場が泥に沈み込んでいく。
雨。
泥濘む地面。
遠ざかる背中。
亡者兵士たちも、
次第に足を取られ、速度を落とす。
その時。
木陰に、淡く光るものが見えた。
――トーテム。
「シャーマンがマイナーキャラだから
知らないでしょ?」
天藤の声が、冷静に響く。
「沼地に雨のトーテムが発動すると、
自然系以外のヒーローには
鈍足効果が付与されるんだよ」
フォースシャーマンが、更に嵐の
トーテムを召喚する。
スピリットの頭上で、
暗雲が渦を巻き、風が流れ始めた。
その背後――
追いついたライジングが、飛翔する。
ライジングは自然系ヒーロー。
鈍足効果の対象外だ。
〈オーバーヒート、解除〉
画面に、解除コール。
電撃ゲージ。
スキルロック。
すべてが、解放される。
「……行くぞ」
神崎は、即座に判断する。
スキル《加速》を使用。
さらに速度を引き上げる。
雨粒を切り裂き、
轟音とともに嵐の暗雲へ突入。
――電撃ゲージ、解放。
必殺技、発動。
**《天雷》**。
暗雲の中で、閃光が瞬く。
脈打つように、
雲全体へ雷が走る。
そして――雷撃の雨。
暗雲は範囲を広げ、
沼地一帯へと雷を降らせた。
スピリットの亡者兵士たちは、
次々と青い火柱を上げながら沼へ沈む。
直撃を免れた兵士も、
水面を伝って雷を受け、倒れていく。
「……オー、マイゴッド」
ジェームズは、足を止めた。
スピリットは、
雷撃の直撃を受け――消滅。
巻き込まれたジェットボーイも、
地面へと墜落する。
――勝敗は、決した。
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〈ここで勝敗が確定!!〉
〈世界大会決勝戦――〉
〈盤面が何度もひっくり返る死闘の末!〉
〈最後に勝利を掴んだのは――〉
〈ホークルミナスです!!〉
観客席から、
割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
「……これが、世界大会……」
紗良は、息をするのも忘れたように、
その光景を見つめていた。
迅は、何も言わず、
ただ静かに勝者たちを見る。
――きっと。
バトル・シティ・オブ・スペースで、
自分が戦うことになる相手たち。
そう思わせるだけの“強さ”が、
そこには、確かにあった。




