第8章 19 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
リリカはテーブルの上にウインドウを表示した。
そこに映し出されたのは、流し目を向ける華やかなキャラクター。
女性らしい曲線美。
指先にまで見惚れてしまいそうな、完成された美しさ。
目が合うだけで吸い込まれそうになる、夕日のような瞳。
「中国のアイドル、汐花」
「すごいでしょ。今年デビューしたトップアイドル……。凄すぎて、ちょっと嫉妬しちゃうけど」
三人の見惚れたような表情を見て、リリカは困ったように笑う。
その様子を見て、紗良は小さく唇を噛み締めた。
「下馬評だと、ヴァーチャルリンクの優勝候補なの。この子のチーム」
汐花のウインドウの横に、もう一人のプレイヤーが表示される。
「九尾の晩餐の、葵時雨……!?」
そこに映っていた葵時雨は、戦場で見せる鋭い表情とはまるで違っていた。
美しく、それでいて凛々しい顔立ち。
どこか儚さすら感じさせる一枚だった。
まるでプロの写真集のような完成度に、三人は目を見張る。
「これが……あの葵時雨? 全然違うんですけど!」
紗良は、かつてランク戦で相対した時のことを思い出す。
余裕綽々のまま叩き潰され、完敗した記憶。
その記憶を勝手に思い出し、紗良は一人で悶えた。
「ってことは、中国のトップアイドルと九尾の晩餐がイベントでタッグを組むってこと!?」
紗良の問いに、リリカは頷く。
「反則だよねー。だからどうしても勝ちたくて、九尾の晩餐と戦ったことがあるあなたたちと手を組もうとしたの」
「私……ズルいでしょ」
「騙すようなことして、ごめんなさい……」
リリカは座り直し、深く頭を下げた。
打算で近づいたこと。
人を利用するような真似をしてきたこと。
また、軽蔑される。
脳裏にサオリの表情がよぎる。
罵倒の言葉が三人の口から飛んでくるのを、リリカは覚悟した。
「リリカ!」
美咲の声に、リリカは肩を震わせる。
「勝ちたいなんて当たり前じゃん! 私はそういうところも含めて推してるんだけど!」
「いつも一生懸命で、ファンが楽しめるように頑張ってる姿、見てきたから!」
「オタク舐めないでよね!」
美咲は思いの丈を叫んだ。
「俺たち、別にリリカから何か被害受けたわけじゃないしな。怒る理由なんてない」
迅も、まるで気にしていない様子で言う。
リリカの胸に、良心の呵責が刺さる。
勝手に相手の気持ちを決めつけて、
勝手に罵倒されると怯えていた。
――私って、ほんと自分のことしか考えてないんだなぁ……。
落ち込むリリカを見て、迅は少し考える。
そして思いついたように口を開いた。
「で、サオリとはどういう関係なんだ?」
リリカの顔を、迅が覗き込む。
「そこ聞く……!?」
思わず顔を上げるリリカ。
その素の反応に、迅は吹き出すように笑った。
リリカはからかわれたことに気づき、軽く迅の肩を叩く。
そのじゃれ合いを見て、紗良と美咲はそろってむくれる。
紗良はリリカを見て、
美咲は迅を見る。
そんな二人の反応までおかしくて、
リリカは、久しぶりに心の底から笑った。
柔らかい風が吹き、麦が揺れる。
風車はゆっくりと回っていた。




