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第8章 18 冬フェス ヴァーチャルリンク開催

セーフルームの外では、通路を埋め尽くすようにトカゲの群れが蠢いていた。


時折、大きな目玉が扉の隙間からこちらを覗き込んでくる。


その様子を見て、紗良は口を半開きにしたまま身をよじった。


「キモ……」


部屋の中心には、不思議なオブジェがある。


デバイスと木が同化したような装置だ。


デバイスを守るように幹が覆い、金色の葉が静かに揺れている。


葉が揺れるたび、小さな光の玉がふわりと漂った。


「このデバイスで外に出られるみたいだね」


美咲がデバイスへ手をかざす。


すると光が一気に増していく。


やがて光は部屋全体を満たし、視界が真っ白に染まった。


――次の瞬間。


光がゆっくりと落ち着く。


鳥のさえずり。


風に揺れる葉の音。


そして、頭上に広がる青い空。


気がつけば、そこはすでに遺跡の外だった。


迅は振り返る。


そこには、セーフルームと同じ金色の神樹が静かに佇んでいた。


「は~……なんとかなった……」


紗良はその場にへたり込み、大きく息を吐く。


美咲は金色の神樹をじっと見つめていた。


その横で、明鏡止水は周囲を警戒するように視線を巡らせている。


そして――


リリカは少し離れた場所に立っていた。


空を見上げながら、静かに佇んでいる。


その視線の先には、黒い飛行船。


遺跡を背にして、遠ざかっていく。


リリカは風に髪をなびかせながら、その飛行船をただ静かに見送っていた。


まるで置いていかれる子供のよう。


「リリカ!」


迅は歩み寄り、声をかける。


リリカは視線を逸らした。


どこか気まずそうな様子だ。


さて、どう切り出したものか。


少し考えたあと、迅は素直に思ったことを口にした。


「力になれるか分からないけど……話を聞かせてくれないか」


リリカはゆっくりと迅の顔を見る。


その表情から、哀れみや同情ではないことを理解する。


だが――


「…あ、…っ」


リリカは言葉が出てこない。


息が詰まったように、喉が震える。


身体も小さく震えていた。


そのとき、美咲が迅の横に立つ。


「落ち着いた場所で話そうよ」


少し優しい声で言う。


「ここの近くに村があるみたいなの」


サンダーボルトが迎えに来るように空中を浮遊する。


着地の風圧で、周囲の木の葉が舞い上がった。


美咲はリリカの背中を軽く押す。


「早く行こ!」


少し強引だが、その仕草には優しさがあった。


美咲とリリカ、そして紗良が飛行船へ乗り込む。


周囲を見回した迅の視界の端に、明鏡止水の姿が映った。


明鏡止水は、近くに立つ石像を見つめている。


杖を掲げた人物の石像だった。


「何突っ立ってんだ! 行くぞ!」


迅が声をかける。


石像は後光が差すように光に照らされており、その前に立つ明鏡止水へ影を落としていた。


しばらく見つめていた明鏡止水は、静かに踵を返し飛行船へ乗り込んだ。




サンダーボルトは地表すれすれを滑るように低空飛行する。


美咲の言った通り、目的地はすぐ近くだった。


視界の先に、大きな風車と一面の麦畑が広がる。


何の変哲もない、小さな村。


地上に降りると、村の奥から子どもたちの遊ぶ声が聞こえてきた。


村へ足を踏み入れていく。


村人たちは不思議そうにこちらを見ている。


紗良が小声で美咲に話しかけた。


「ねぇねぇ、この人たちってNPCなんでしょ?なんか生きてるみたい……」


「そうだよ〜」


美咲は気軽に答える。


「原理は遠征調査に行った森と同じ。AIがシミュレートして、村人たちの出生から生い立ちまで作られてるの」


「ここまでくると、もう現実と遜色ないね」


美咲が子どもたちに手を振る。


すると子どもたちははしゃぎながら手を振り返した。


やがて一行の前に、宿屋兼レストランが見えてくる。


看板には


――とまり木の宿


と書かれていた。


二階のテラス席に腰を下ろし、一同は深く息を吐く。


ようやく気持ちが落ち着いた。


下では、子どもたちに囲まれる明鏡止水の姿が見える。


リリカはテーブルに映る自分の顔を、じっと見つめていた。


その様子を見ながら、迅が口を開く。


「まず、教えてほしいことがある」


リリカが顔を上げる。


「俺たちが出会ったのは偶然じゃなかった。……そうだろ?」


リリカは目を見開き、迅を見る。


「……気づいていたんだ」


迅は、リリカとの出会いを思い返す。


商業施設での、ぶつかった瞬間。


ぶつかる直前、リリカと視線が合っていた。


その視線は、驚きではなかった。


観察するような目。


ほんの刹那の出来事だったが、迅はその違和感を覚えていた。


それからずっと考えていた。


なぜリリカは自分たちに近づいたのか。


リリカは胸元の服をぎゅっと握りしめる。


「あなたたちを知っていたの」


「九尾の晩餐と戦ったギルド……」


「私がイベントで優勝するためには、どうしてもあなたたちの協力が必要だったから」


迅は静かに尋ねる。


「どうしてそこまでイベントに固執する?」


リリカは一度目を伏せ、そして答えた。


「私がこの業界で生きていくため」


「この世界は……移り変わりが激しすぎるの」


「常に表舞台に立っていないと、すぐに埃をかぶって……過去になっていく」


その言葉には、確かな重みがあった。

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