第8章 15 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
神崎は槍に力を込めた。
「迸れ――黒鳴」
瞬間、黒い雷が爆ぜる。
床を焼き、枝分かれした稲妻が幾重にも伸びて、迅へ襲いかかった。
迅は後方へ跳ぶ。
だが雷は生き物のように軌道を変え、執拗に追ってくる。
着地と同時に、強く踏み込んだ。
床が砕け、破片が宙へ舞う。
迅はそれを雷の軌道へ叩き込み、散らすように飛散させた。
「ほう……随分器用なことを」
神崎が目を見開く。
迅は踏み込みの勢いを殺さず、前へ加速する。
距離を詰める――その刹那。
神崎は待ち構えるように槍を携え、直線の動線へ突きを放った。
まるでライフルのような一撃。
迅は殺意を読む。
頬を掠め、紙一重で躱す。拳に力を込めた――しかし。
神崎は外れたことなど気にも留めない。
即座に、次の攻撃へ移行する。
迅は危険を察知、攻撃から反転し、防御へ切り替える。
(来る――!)
マシンガンのような連続突き。
全力で受け流すが、紫電のボディが削られていく。肩、腹部、浅い損傷が刻まれる。
迅はステップで射程外へ逃れた。
神崎は冷たい目で迅を観察したまま、淡々と言う。
「槍のリーチ、舐めんな」
「相性が悪いんだよ、格闘で俺に勝てると思うな」
言葉と裏腹に、神崎は冷静に迅の動きを観察する。
――その頃。
紗良は迅に加勢しようと踏み出すが地面から泡の壁が立ち上がり、行く手を塞いだ。
「……っ!」
「やめといたほうがいいよー。アイツ、勝負の邪魔されると、すごいキレるから」
足を止めた紗良の頭上から、軽い声が降ってくる。
見上げると、天藤が胡座をかいて巨大な泡に乗っていた。
高い位置を浮遊しながら、紗良、美咲、明鏡止水を見下ろしている。
「それにさ。このまま戦ったらフェアじゃないと思わない?
ゲームは平等にやろーよ」
天藤は泡を指に絡ませ、遊ぶみたいに言った。
「……五対三じゃ勝ち目ないって言いたいわけ?」
紗良が睨む。
天藤はクスッと笑った。
「あー、ごめんごめん。言い方が悪かった」
「僕と神崎が組んだら、5人程度じゃ君たち勝ち目ないから…それじゃフェアじゃないだろ?」
次の瞬間。
明鏡止水が踏み込み、刀を一閃した。
――空を裂く刃。
だが、天藤のいた泡は割れたのに、天藤の姿がない。
「……っ!」
いつの間にか、天藤は別の上空に新しい泡を作り、そこへ乗っていた。
「いつの間に……!」
紗良と美咲が身構える。
天藤は肩をすくめ、面倒そうに目を細める。
「イベント前に対抗チームを倒したりしたら炎上しそうだな〜…そのまま大人しくしといて」
「サオリもさ…イベント前なのに何やってんだろ…」
天藤は視線をリリカとサオリへ向ける。
サオリは拳銃を構え、リリカへ照準を定める。
その手は、明らかに震えていた。
リリカはその手を見つめる。
そして静かに目を閉じ、構えていた拳銃を下ろした。
どうして、こんな事になってしまったんだろう。
――あの時のサオリの顔。
絶望した表情が、瞼の裏から消えない。
決意を決めたようにゆっくりと目を開く。
「なんで……なんでそんな顔をするの……!」
サオリは眉をひそめ、リリカの顔を見る。
サオリの脳裏に、リリカと笑い合っていた記憶が浮かぶ。
しかし――
その記憶は、差し出した手をリリカから振り払われた瞬間の記憶と共に砕け散った。
リリカの冷たい瞳。
リリカのファンからの嫌がらせ。
積み重なった確執。
すべてがぐちゃぐちゃに混ざり合い、憎しみが脳裏を支配する。
肩を震わせながら、サオリは引き金を引く。
銃声。
弾丸はリリカの横をかすめ、壁へ突き刺さる。
それでもリリカは、動かない。
サオリは拳銃を握りしめる。
恨みを込めるように、力を込めて――
再び、発砲。
弾丸がリリカの腹部に命中した。
「……っ!」
リリカの身体が崩れ、その場にうずくまる。
「リリカ!!」
迅が叫ぶ。
サオリの手から、拳銃が落ちる。
カラン、と乾いた音が響く。
リリカは崩れ落ちながら、葛藤していた。
怖い、でも立たなきゃ…。
気が動転している為か足に力が入らない。
迅はそんなリリカのもとへ駆け出そうとする。
だが、その進路を――
禍々しい黒雷を帯びた槍が遮った。
「おいおい、お前の相手はこっちだろ?」
神崎が首を鳴らしながら、槍を構える。
「……邪魔なんだよ…!」
迅は拳を握りしめ、言い放つ。
そして、構える。
神崎はその動きを見て警戒する。
現実世界と仮想世界の経験。
アバターの能力。
そして、犠牲を厭わない覚悟ー。
全てが噛み合う。
次の瞬間、迅は消えた。
「…は?」
閃光のような一撃。
神崎の槍をすり抜けて迅の拳が懐へ届く。
「……っ!?」
神崎の身体が大きく後方へ吹き飛ぶ。
槍を地面へ突き刺し、転倒だけは防いだ。
しかし。
雷が走ったような衝撃に、膝から崩れ落ちる。
神崎の胸には、くっきりと拳の跡が残っていた。
「何が起きた……?」
神崎は混乱したまま呟き、状況を理解しようと周囲を見回して自分が殴られた事をようやく理解する。
迅は神崎に目もくれず、リリカのもとへ走っていた。




