第1章 7 現実からー。そして仮想世界へ
最初に動いたのは、ホークルミナスだった。
都市エリア。
陣地となる地点に、旗が立てられる。
――友軍の旗。
ヒーローたちに恩恵を与える、
フォースシャーマンの適性に合った陣地だ。
次の瞬間。
小さなシャーマンたちが、
次々と召喚されていく。
「……タワーディフェンスか」
美咲は頷く。
陣地を守り、
優位を築くことが、そのまま勝敗に繋がる。
さらに。
旗の周囲に、
天候操作用の晴れのトーテムが設置されていく。
都市エリアに、次々と妖精とシャーマンが召喚。
見る見るうちに“要塞”へ変わっていった。
上空では――
《ライジング》が旋回する。
牽制。
索敵。
そして、いつでも雷撃を落とせる位置取り。
「……隙がないね」
美咲は、息を呑む。
だが――
ナイツ・オブ・クラウンも、
ただの防戦では終わらない。
自陣の荒野エリアに、友軍の旗が立てられる。
《スピリット》の影から、
亡者の兵士が這い出てきた。
フォースシャーマンと違い、
スピリットはより攻撃的な性能を持つ。
召喚した兵士は自立し、
敵陣への侵攻が可能。
フォースシャーマンと比べ防衛力は劣るが、
その分、戦術の幅は広い。
亡者の兵士たちが、
都市エリアへ雪崩れ込んでいく。
そして――
先行して既に都市エリアに偵察飛行に入る、
航空ヒーロー《ジェットボーイ》。
両チームの索敵距離が、
急速に縮まっていった。
――決戦は、もう始まっている。
---
ジェットボーイとライジング。
互いを視界に捉えた瞬間、
索敵形態から戦闘形態へと移行する。
一瞬――
ホークルミナスの神崎の反応が早かった。
ライジングは変形を最短で完了させ、
ボディから雷撃を放つ。
先制。
ジェットボーイは即座に、
緊急回避スキルを発動。
背部からジェット噴射を吹き上げ、
錐揉み回転で雷撃を躱す。
その勢いのまま、
変形させた腕部を展開。
――バルカン砲。
射線が走る。
ライジングも、緊急回避。
翼を折り畳み、飛翔。
身体を槍のような形状へと変化させる。
同時に、空中へ電磁波の歪みを形成。
空間そのものを“崩す”ことで生じた衝撃を利用し、
一気に距離を詰めた。
ジェットボーイの横薙ぎ射撃が、
都市のビルを薙ぎ払う。
ガラスと瓦礫が、雨のように落下した。
地上ー。
援護射撃を行おうとしていた
ホークルミナス陣営の妖精と小さなシャーマンたちが巻き込まれ、
数を減らしていく。
ジェットボーイは追うように上空へ。
両者は距離を保ち、
牽制射撃を交わしながら隙を探る。
---
その頃、地上では――
スピリットの亡者兵士と、
フォースシャーマンの妖精・シャーマンたちが激突していた。
撃ち、殴り、押し返す。
戦線は拮抗。
どちらも、決定打を欠いている。
「……おかしい」
ホークルミナス陣営の天藤は、
ビルの影を縫うように歩きながら、戦況を確認する。
亡者兵士の数が、
想定より少ない。
――半分ほどしかいない。
(完全に都市エリアへ潜伏している……)
本体であるスピリットの姿も、見えない。
(狙いは、こちらの旗か?)
亡者兵士を迂回させ、
都市の端から回り込み、
後方から急襲すれば――理論上は可能だ。
だが文字通り完全な遠回りである。
更に上空では神崎が、
牽制射撃を続けながら地上も監視している。
さらに――
ここは都市エリア。
ホークルミナスの陣地だ。
防衛に特化したフォースシャーマンは、
すでにスピリットの1.5倍の戦力を展開している。
旗の周囲には、
囮の妖精とシャーマンを配置。
フォースシャーマン自身も、
即応可能な位置で索敵を続けている。
布陣は完璧。
――それでも。
都市エリアのどこかで、
不気味な“影”が、静かに動いていた。
---
天藤は強襲を警戒しつつ、索敵範囲をさらに広げた。
フォースシャーマンの索敵スキル――
**《見張り火のランタン》**。
自身を中心に、半径三十メートルの敵反応を感知する能力だ。
天藤はそのランタンの火を、
周囲のシャーマンたちが持つ松明へと分け与える。
感知範囲は半減する。
効果時間にも制限がある。
だがその代わり、
遠隔地に配置したシャーマンたちも索敵が可能になる。
――広域警戒。
しばらくして。
数百メートル先から、
微かな反応が浮かび上がった。
「……いたか」
天藤は即座に、その地点へ向かう。
だが――
「……!」
地下通路へと続く、足跡。
ビルの影に隠れるように、
地面に刻まれていた。
「やられた……」
このフィールドは、
毎回自動生成される。
そのため、
稀にこうした**隠し通路**が生成されることがある。
本来、重要エリアでは事前にマッピングを行い、
そうした構造を洗い出しておく。
だが今回は――
主要道路下に地下通路が存在しなかったため、
隠し通路は生成されていないと判断し、
エリアの確保を優先していた。
「判断、ミスったか……」
今から追えば、
トラップが仕掛けられている可能性が高い。
ならば――
旗へ戻り、防衛を固める。
それがセオリーだ。
そう判断した、その時。
---
上空。
2体のヒーローが、
ビルの谷間を縫うように駆け抜けていく。
空中戦で優位を取っているのは、神崎。
ライジングが雷撃を放ち、
ジェットボーイを執拗に追い立てる。
「……クレイジーだ」
マーカスは呟く。
しかし神崎も歯を噛みしめる。
マーカスの飛行技術も一級品だ。
巧みにジェット噴射を切り替え、
軌道をずらしながら雷撃をかわす。
だが――
ライジングの追撃を、振り切れない。
「……仕方ない」
マーカスは決断する。
「ジェームズ!
予定より早いが――開始しろ!!」
〈……おうよ〉
くぐもった爆発音が、
都市の下から響いた。
――地下。
天藤は、
その風圧で即座に理解する。
(地下通路……!)
---
スピリットは、
ビルの中腹から戦況を監視していた。
地下へ張り巡らせていた亡者兵士たちが、
通路の主要な柱へ爆弾を設置。
――一斉爆破。
連鎖する爆音。
地面が、裂ける。
地下の崩落に耐えきれず、
その上に建つビルが、次々と倒壊していく。
瓦礫の雪崩。
巻き込まれる――
ホークルミナス陣営の旗。
トーテム。
築き上げた拠点が崩れ消滅した。
「……なんてことだ」
天藤は、
崩壊していく都市エリアを見つめる。
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その瞬間。
ジェットボーイのスキルが発動。
崩壊によって生まれたスクラップを、
次々と吸収していく。
「来るぞ……!」
そして――必殺技。
**《流星砲》**。
吸収したすべてのスクラップを弾丸へ変換し、
無数の射撃が放たれる。
その嵐のような攻撃に巻き込まれていく妖精。
シャーマン。
そして、ライジング。
スキルを使用し回避。
ライジングは限界まで加速し、
弾幕を掻い潜る。
耐久力を半分まで削られながらも、
オーバーヒート状態で都市後方へ退避した。
逃げ切れなかった妖精とシャーマンは、
全滅。
「……っ、クソが」
神崎は、
オーバーヒートゲージを睨みつける。
――一分。
その間、
スキルは使用不可。
神崎は叫ぶ。
「隣の沼地エリアに逃げろ!」
天藤は言われなくても理解していた。
既に沼地エリアへフォースシャーマンを
進ませている。
だが――
途中、巧みに配置されていた亡者兵士からの射撃。
耐久力が、みるみる削られていく。
残り、三割。
それでも何とか追撃を振り切り、
沼地エリアへと滑り込む。
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その頃。
ナイツ・オブ・クラウンは、
都市エリアに新たな友軍の旗を設置していた。
影から、
スピリットの亡者兵士が、次々と現れる。
「マーカス!」
ジェームズが叫ぶ。
「お前はライジングにとどめを刺せ!
俺はフォースシャーマンを仕留める!」
亡者兵士たちが、
沼地エリアへ進軍を開始する。
――ホークルミナスは、
絶体絶命の窮地に立たされていた。




