第8章 12 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
各自、仕留めた狼猿にランタンをかざし、淡い光を吸い上げていく。
最後の一体を回収し終えた瞬間――
ランタンの結晶が、七色にきらめいた。
「……幻想的」
紗良は頭上に掲げ、宝石のように輝く結晶を見つめる。
通路に静寂が戻る。
獣の気配は、もうない。
「この辺り一帯のモンスター、制圧できたみたいね」
リリカは髪を指でたくし上げ、そのまま結び直した。
「てか、リリカって戦えたんだね。アイドルなのに」
紗良が少し驚いたように言う。
「今はマルチビジネスの時代! 歌って戦えるアイドル、最高でしょ♪」
リリカは得意げに胸を張る。
美咲が「うんうん!」と何度も強く頷き、横で紗良が目を細めた。
「付近のモンスター、まとめて倒しちゃったっぽいね〜。リポップもしばらくかかるはず」
美咲は狼猿の亡骸を軽く観察しながら頷く。
そして、ぱっと表情を変えた。
「さて! いっぱい生体エネルギーも回収できたし――お楽しみタイム!」
両手を叩く。
「この遺跡、根こそぎもらっちゃお〜!」
美咲が先頭で走り出す。
通路を駆け抜け、次々と扉にランタンをかざして開錠していく。
進化個体は通常個体より多くの生体エネルギーを落とすらしい。
おかげで、この一角の扉は一気に開けることができた。
――ただし。
「うーん、レアは少なめだけど……ダンジョン産の装備は拾えたね」
美咲がストレージに収納したログを展開する。
ウォールシューズ。
グラフィックペイント。
黄昏の勾玉。
「壁を走れる靴に、アバターに直接デコれるペン……それと衝撃を和らげる勾玉、か」
紗良は肩を落とした。
「はぁ……あれだけ戦ったのに、どれも役に立たなそう」
「いやいやいや! どれもめちゃくちゃ使えるから!」
美咲が即座に否定する。
「戦闘に直結しないのもあるけどさ!ほら見て! こうやって――」
言いながら、美咲はウォールシューズを装備して壁へと一歩踏み出した。
ぴた。
壁に“立った”。
真面目な顔で説明している分、光景がやたらシュールだ。
「……う、なんか平衡感覚が……っ」
美咲の顔がみるみる青くなる。
口元を押さえ、壁からずり落ちて膝をついた。
「き、気持ち悪く……なってきた……」
「……やっぱ使えないじゃん」
紗良は呆れきった顔でため息をつく。
迅は黙って、奥の通路を見つめていた。
空気の流れが変わった気がする。
少し歩くと、大広間へ出る。
研究所の中枢のような複雑な機械が、壁一面に並んでいる。
その中でもひと際異彩を放っていたのは――
部屋の中央に鎮座する、巨大なサーバーだった。
サーバーは今なお稼働しており、脈動するように低い稼働音を響かせている。
「この遺跡って、5000年前に閉鎖された研究所なんだよな?」
迅は半信半疑のまま、美咲に問いかけた。
「テキストフレーバーにはそう書いてあるけど……真偽は確かめなきゃね」
美咲はサーバーの根元に設置された操作パネルへと手を伸ばす。
しかし次の瞬間――
《権限レベル3以上のアクセスキーが必要です》
赤い警告表示と共に、エラー音が鳴り響いた。
「だめか……。アクセスキーは下層に降りないと見つからないかな〜」
美咲が地図ウインドウを開き、悩むように眉を寄せる。
そのときだった。
明鏡止水が静かに操作パネルへ近づき、手をかざす。
「何やって……あ!」
美咲が声を上げる。
明鏡止水の目が淡く光り、システムへの侵入が開始される。
一瞬、操作パネルの画面が激しくバグ表示を繰り返す。
そして――
《アクセスキーが承認されました》
表示が切り替わった。
「どうなってんだ……」
迅が呟く。
その場にいた全員が、明鏡止水の行動に言葉を失っていた。
さすがの美咲ですら、この展開は予想外だったらしい。
「擬似的にアクセスキーと同一のコードを複製し、入力しただけだ」
明鏡止水は仁王立ちのまま、淡々と説明する。
美咲は気を取り直し、操作パネルを開いた。
内部データへのアクセスが可能になっている。
研究所三階層までの地図。
研究記録。
そして様々な研究データ。
至るところに、同じ名前が記されていた。
――創立者 メイテス。
「メイテスって誰?」
リリカが表示された名前を指さす。
「原始の英雄、始まりの三英雄の一人みたい」
美咲は用語集ウインドウを開きながら答える。
「8000年以上前のキャラクターで、テキストフレーバーにしか出ない名前なんだよね。NPCとしては、もう登場しないかも」
「えーと……」
リリカが困惑した顔になる。
「この研究所は5000年前に閉鎖されてて、創立者は8000年以上前の人?」
「スケール大きすぎて、ちょっとついていけないかも……!」
リリカは頭を抱えながら話す。
「…どうやらここは、外からの脅威に備えて設立された研究所みたいだな」
迅は表示された研究ログを見つめながら呟く。
「原始の英雄は……何を脅威として、この施設を作ったんだろうな」
そう言って、迅は明鏡止水へと視線を向けた。
明鏡止水は無言を貫く。
そのとき。
「あ! 下に降りる道ってこれじゃない?」
紗良の声が響いた。
地図ウインドウを開き、反対側の通路の脇を指差す。
「このサーバールームを抜けて、反対側に階段があるみたい」
「よし!」
美咲がウインドウを閉じる。
「データもコピーできたし、先に進もっか!」
一同はサーバールームを抜け、奥へと歩き出した。




