第8章 11 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
狼猿の獣じみた様相に、脳裏で威閻の姿が重なる。
迅の表情が強張る。
苦しみ、藻掻き、獣のように吠えていたあの姿。
あの時、救えなかった影が、シルエットとなって脳裏に再生される。
――だが。
迅は顔を背けない。
右手のアバターパーツに視線を落とし、強く握る。
内側から込み上げる黒い衝動。
深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。
……ずっと考えていた。
どうして自分は戦うのか。
その答えはきっと出ない。
これからも迷い続けるだろう。
だから――決めた。
「俺は、もう逃げない!」
その言葉は出力となり、紫電が前へと踏み出す。
モンスターの群れへ、一直線に駆ける。
「迅!!」
紗良の叫びが通路に響く。
彼女も地を蹴る。
「あの群れに1人で突っ込むなんて正気!?」
リリカも遅れて、後を追う。
その場に残ったのは、美咲と明鏡止水。
「援護に行かないのか?」
明鏡止水が静かに問う。
「……待機だよ」
美咲は明鏡止水のボディに手を当てる。
その瞳に迅の後ろ姿が映る。
獣の咆哮。
そして迅の咆哮がぶつかる。
最初に飛び込んできた狼猿へ、二連撃の殴打。
顎が砕け、悲鳴とともに前のめりに崩れる。
続く二匹、三匹。
首、心臓、急所を正確に狙う鋭い殺意。
「……つくづく、あの時と重なるな」
迅はその殺意を真正面から受け止める。
狙いが分かる。
分かるからこそ、対処は容易い。
最小限の動きで受け流す。
爪を手の甲で弾き、
噛みつきは皮一枚で躱す。
すれ違いざま、紫電の拳が顔面へめり込む。
鈍い衝撃音。
紗良は走りながら、その背中を見つめて息を呑む。
あの姿――
試合で、誰よりも鮮やかに舞っていた頃の迅。
迷いも焦りもなく、
ただ前を見て戦っていた頃の姿。
胸が熱くなる。
涙が滲む。
だが、振り払う。
紗良は宙を蹴った。
焔の軌跡が空間に鮮やかな弧を描く。
「迷ったっていいんだよ……!」
その声は、戦場に溶けない。
「あたしが迅の隣にいるから!」
着地。
迅と紗良は背中合わせに立つ。
迫り来る狼猿の群れ。
二人は、同時に構えた。
お互いがお互いの死角を補いながら、取り囲む狼猿の攻撃を捌いていく。
右と左。
地上と空中。
迅と紗良は絶えず位置を入れ替え、流れるように戦場を舞う。
最後に残った通常個体へ、紗良の横蹴りが炸裂。
狼猿は壁へと叩きつけられ、鈍い音を立てて崩れ落ちる。
――その瞬間。
紗良の背後を覆う巨大な影。
進化した狼猿の剛腕が振り下ろされる。
「紗良っ!」
迅が割って入り、両手でその一撃を受け止める。
衝撃。
腕のアバターパーツが軋み、警告音が鳴る。
だが、止めた。
「今!」
紗良は迅の肩を踏み台に跳躍。
落下の勢いをそのまま乗せ、踵落としを叩き込む。
頭蓋骨が砕ける音。
追撃。
龍焔の脚部から焔が噴き出し、進化個体の顔面を焼き尽くす。
1体、絶命。
残り5体。
「今度はこっちの番!」
紗良が地面すれすれを滑るように舞う。
――竜蛇の印。
足払いで2匹を転倒させ、
そのまま正面の空を蹴って反転。
バク転の着地と同時に、倒れた進化個体の背へ膝を深く沈み込ませる。
発火。
炎が炸裂し、1体を焼き切る。
残るもう1体へ、迅が突進。
加速エネルギーを拳に集約し、
起き上がろうとする狼猿の背中へ渾身の右ストレート。
衝撃が貫通し、狼猿は血反吐を吐いて折れ曲がる。
残り3体。
3匹は一斉に距離を取る。
本能的な警戒。
そこへ、遅れて駆けつけたリリカが拳銃を構える。
「そっちばっか警戒してて、いいのかな?」
発砲。
黒い弾丸が宙を切る。
しかし、その弾はどの狼猿にも向かわない。
次の瞬間。
強力な電磁波が発生。
これまで壁や床にめり込んでいた弾丸と、
今放たれた黒い弾が、見えない線で繋がる。
「――アッセンブル」
低く呟く。
磁場が形成される。
吸い寄せられるように、すべての弾丸が中央の黒弾へ集約。
その軌道上に立っていた三匹の進化個体は――
無数の弾丸に貫かれ、動きを止めた。
沈黙。
リリカは銃口から立ち上る煙を吹き払い、
軽くウインクする。
「はい、フィニッシュ♪」




