第8章 10 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
「もー何体来るの〜!!」
止む気配のない襲撃に、リリカは戸惑いながら拳銃を構える。
だが、狼猿たちは照準を読んでいるかのように絶えず位置を変え、弾道を避ける。
「こっち来ないでっ!」
リリカは狙いを定め発砲。
しかし銃弾は虚しく空を裂き、躱される。
その内の1体が地面を蹴り、すり抜けるように懐へ滑り込む。
牙を剥き、リリカの首筋へ噛みつかんと口を開いた。
――弾切れ。
リリカは反射的に目を閉じた。
次の瞬間。
カウンター。
紫電のアッパーが、狼猿の顎を正面から捉える。
鈍い破砕音。
牙が砕け、天井へと叩き上げられる。
跳ねるように地面へ落下。
「反逆の坩堝」発動。
加速。
紫電は踏み込み、真正面から群れを捌く。
狼猿の爪と拳がぶつかる。
爪が砕け、狼猿の手が粉砕され、
そのまま本体ごと吹き飛ばされる。
迅の猛攻に狼猿は怯む。
相対する中、その足元に霜が広がる。
美咲が氷結の刃を地面へ突き立てていた。
展開された凍結の霜が罠となり、狼猿の動きを鈍らせる。
すかさず左右から紗良と明鏡止水が壁を走り、踏み込む。
紗良は車輪のように横回転し、炎の風車を形成、狼猿の首をへし折っていく。
明鏡止水はすり抜けていく度に狼猿の関節を的確に断つ。
そして、最後の一匹。
紫電の拳が狼猿の腹を突き破り絶命させる。
静寂になる通路。
リリカは、構えていた拳銃をゆっくりと下ろ辺りを警戒する。
視界に広がるのは、力なく倒れる狼猿の群れ。
そして屍の上に、立つ四人の姿。
「……噂以上の強さ……」
リリカは呟く。
そのとき。
ウインドウに赤い警告が流れる。
《付近でキルハザード地帯が発生しました》
《このエリアからの離脱を推奨します》
通路の奥から、複数の足音。
プレイヤーたちがなりふり構わず走ってくる。
「逃げろ!」
「高脅威モンスターの群れが来るぞ!!」
悲鳴と混乱。
その背後の暗闇から、重い足音が響く。
一歩。
また一歩。
そして爆発音のような咆哮が通路を振動させる。
唸り声は、先ほどの狼猿とは明らかに質が違う。
空気が重くなる。
逃げ遅れたプレイヤーの一人が、狼猿に背後から組みつかれる。
「離せっ……やめろって!!」
次の瞬間。
鋭い牙が首筋に食い込んだ。
悲鳴が途切れる。
プレイヤーの身体は光の粒子となって霧散する。
プレイヤーを殺した狼猿の身体が、ミシミシと不気味に軋む。
骨格が膨張し、筋肉が肥大する。
体格は二倍ほどに膨れ上がり、腕は丸太のように太く、爪は刃物のように伸びる。
その様子を、迅は一瞬も見逃さなかった。
「……進化したのか」
低く呟く。
美咲が素早くウインドウを展開する。
「モンスターがプレイヤーをキルすると進化して高脅威モンスターに変化。
それが一定数発生したエリアを“キルハザード地帯”って呼ぶみたい」
淡々とした説明の最中――
別のプレイヤーが狼猿に捕まる。
迅は即座に地面を蹴った。
だが距離がある。
狼猿はすでに噛みつく体勢。
クソっ……間に合わない!
――銃声。
乾いた破裂音が研究所に響く。
狼猿の片目が弾け飛び、動きが止まる。
「動きが止まってればこっちのもんよ!」
リリカが拳銃を構え、片目を閉じたまま微笑む。
「ナイス……!」
迅は拳を握り締める。
怯んだ狼猿の顔面へ、渾身の右ストレート。
弾ける衝撃。
大きく仰け反り、後方へ吹き飛ぶ。
後続の狼猿に激突し、数匹が体勢を崩す。
「た、助かった……!ありがてぇ!」
組み伏せられていたプレイヤーは何度も頭を下げ、もつれながら逃げ去った。
静まり返る通路。
迅の前に、影が並ぶ。
通常個体が10匹。
進化個体が6匹。
計――16体。
黄色い瞳が、一斉にこちらを見据える。




