第8章 7 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
カフェを出ると、美咲は間髪入れずに飛行船を呼び出した。
東京都市を離れ、サンダーボルトは北へと進路を取る。
機体が高度を上げるにつれ、眼下には広大な自然が広がり、
空を切り裂くように流れる光景が連なっていった。
「すご……」
リリカは思わず声を漏らし、窓の外に目を奪われる。
「仮想世界って、こんなに綺麗だったんだ……」
やがて、ふと我に返ったように身を乗り出し、
操縦席にいる美咲へ声をかける。
「ねぇ、私たちどこへ向かってるの?」
「冒険なんて初めてだから、すっごく楽しみなの!」
「目的地は、生物研究所だよ!」
美咲は操縦桿を握ったまま、楽しそうに答えた。
「世界最大級の研究所だった場所で、
五千年前に閉鎖された遺跡!」
「ここでは研究されてた生物がね、
怪物化して出てくるって感じかな!」
サンダーボルトは雲を突き抜ける。
その先に現れたのは、
まるで巨大な卵の殻を内側から突き破ったかのように、
不自然に盛り上がった大地だった。
地殻のずれを押しのけるようにして、
苔むした研究施設が地表から顔を覗かせている。
文明の名残を示す黒い施設壁は、
崩れながらもなお、異様な存在感を放っていた。
盛り上がった大地の規模は、
一つの都市と並んでも遜色ないほど。
――もし、これが研究所の全貌だとしたら。
迅は無意識に息を呑む。
「……とんでもない大きさだな」
サンダーボルトは、
その盛り上がった大地の隙間を縫うように進み、
やがて地表の中心部へと近づいていく。
そこには、
様々な型の飛行船がすでに停泊していた。
そして、その中央には――
都市の転送ゲートによく似た、
巨大なゲートが静かに設置されていた。その光景に、美咲とリリカは無邪気にはしゃいでいる。
一方で、紗良は一番後ろの席に座り、
窓の外へ流れていく景色をぼんやりと眺めていた。
「どうしたんだよ?」
迅は隣に腰を下ろし、紗良に声をかける。
「……美咲も迅も、あの子にデレデレしすぎ」
小声で、しかし確かに呟く。
だがその表情は、単なる不機嫌とは違う。
どこか、自分自身に納得できていないような難しい顔だった。
「なんか悩んでるんだろ? 言えよ」
迅が促す。
「んー……なんかさ」
紗良は少し迷ってから、ぽつりと零す。
「あたし、性格悪いなって気づいちゃって」
迅は何も言わず、続きを待つ。
「リリカには申し訳ないけどさ……」
「三人で冒険するの、楽しかったじゃん」
「今は……なんか、よく分かんなくなっちゃって」
眉をひそめ、ため息をつく。
「あんなに楽しそうにしてくれてるのに、こんな気分になるの最低だなって」
その視線は、リリカではなく、自分を責めていた。
「なんだよ、そんなことか」
迅はあっさりと言う。
「そんなことって……こっちは結構悩んでるんだけど!」
紗良がむっとする。
「俺はさ」
迅は窓の外を見たまま、淡々と続ける。
「お前の良いとこ、結構知ってるからな」
「だから“そんなこと”なんだよ。いちいち気にすんな」
一拍。
「……は?」
紗良の顔がみるみる赤くなる。
「きゅ、急に変なこと言わないでよ!」
肩を押し、距離を取ろうとする。
「おーおー! 迅と紗良も楽しそうだね〜♪」
前方から、リリカの声が飛んでくる。
振り向いた彼女は笑っていた。
けれど、その笑みの奥に、ほんのわずかな儚さが混じっている。
「みんな、着陸するよ〜! 外に出る準備して!」
美咲の声が機内に響く。
サンダーボルトはゆっくりと高度を下げ、
巨大な遺跡の中心部へと降りていった。




