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第8章 5 冬フェス ヴァーチャルリンク開催

「ヴァーチャルリンク?」


迅が首を傾げて問い返す。


「知らないの!? bsの一大イベントなのに!」


リリカは心底驚いた様子で声を上げ、即座にウインドウを展開した。


ウインドウには、地上から宇宙へと伸びる光の奔流が映し出される。

それは、都市の活気そのものが空を突き抜け、宇宙へと注ぎ込まれていくかのような光景だった。


やがて光は一際強い核を形成し、

その核を中心に、無数の粒子が集まり――星が生まれる。


星は形を変え、

見慣れた夜空に浮かぶ“衛星”として姿を現した。


月だ。


人工衛星視点の映像に切り替わり、

白と黒に支配された月の表面が映し出される。


「あれ? 月なんてこの世界にあったっけ?」


紗良が不思議そうに空を見上げる。


「今はまだ無いけど、この仮想世界に実装されるの! ほら、続き見て!」


リリカは急かすようにウインドウを指さした。


映像は、形成された月の表面を縫うように飛ぶ衛星カメラへと切り替わる。

地上世界とはまるで異なる、

白と黒に支配された、欠落しているのに美しい世界。


その大地に、ゆっくりと変化が訪れる。


光が更に変化を起こす。

瞬くと白い大地から枝が生え色付く。

白は茶色へ黒は緑へ変化した。


木の根や枝が1人でに編まれ、それは建物や地面、階段や街灯に姿を変えていき、

まるで命の息吹を得るかのように、

都市が“実って”いく。


そして――

巨大な大樹を中心に、月の都市が生み出された。


「はー……」


紗良は言葉を失い、ただ映像を見つめる。

迅もまた、小さく息を漏らしていた。


映像は、まだ終わらない。


突如、ウインドウの中央に一人のアバターが現れる。


『諸君! 今宵はbsのアップデート情報の1つをお届けするぜ!』


ヘッドホンをかけ、赤髪を靡かせ顔立ちの整った中性的な青年。


仮想世界で有名なヴァーチャルアイドルの一人、

DBディービーだった。


「この人見たことある!」


紗良は興奮気味に話す。


『実装間近の月の都市で、なんと!ビッグイベントが開催決定!』


『アイドルたちがスポットを巡り、頂点を目指すクールなイベント!』


『その名も――ヴァーチャルリンク!!』


DBが大きく手を広げる。


次の瞬間、

月の都市に花火が打ち上がり、

花火は光の玉となって降り注ぎ、

都市の灯りへと溶け込んでいく。


『ルールは簡単!』


『アイドルたちが月の都市の各スポットを巡り、写真を撮影!』


『写真に感動したら、みんなは“いいね”を押してくれ!』


『いいねが一定数集まると、アイドルのポイントになるぞ!』


『どんな構図でも! どんなシチュエーションでも!映ればオッケー!』


『アイドルたちの創作を、その目に焼き付けてくれ!』


『以上、DBがお送りしました!当日また会おう!』


最後に開催日が表示され、

動画は静かに停止した。


「……ちょうど二週間後だね」


リリカの言った通りの日程だった。


「私と出場予定だった人がね……」


「違法薬物の騒動で出場停止になっちゃって…困ってて…」


リリカは一度言葉を切り、

真剣な眼差しで迅と紗良を見つめる。


「だから……あなたたちの実力を見込んで、頼みたいの!」


「お願い!!私と一緒にイベントに参加して!」 


リリカから少し焦燥感が伝わってくる。


迅は腕を組み、考え込む。


隣の紗良を見る。


先ほど勝手な行動をするなと言われたばかりだ。


そして――何かを、忘れている気がした。


その答えはすぐに訪れる。


ピロン、とデバイスが鳴り響く。


通話に出ると、聞き慣れた声が飛び込んできた。


『迅、今なにしてんの〜!?

 集合時間とっくに過ぎてるんだけど!』


「…あ」


「…あ って何!もしかして集合時間忘れてたの!お師匠みたいな事しないでよ〜」


「いやぁ……今勧誘、受けてるところ?」


『はぁ!? 怪しい勧誘なら早く断りなよ〜!

 遺跡探索、早く行こ〜!』


美咲は急かすように話す。


――これは、抜け出すチャンスだ。


迅はそう判断し、口を開いた。


「じゃあ、そういうことで俺たち行くから――」


「ええ!? ちょ、ちょっと待って!!」


背を向けかけた瞬間、

リリカが腕を掴み、力強く引き留める。


「こんなに真剣に頼んでるのに!

 なんで断るの!? 手伝ってよ〜!!」


『……あれ?』


通話の向こうで、美咲の声色が変わる。


『迅、誰かと一緒にいるの?』


そのまま、通話はビデオチャットへと切り替わった。


「まずい、それだけは……!」


迅は慌ててウインドウを操作し、

カメラを背けようとする。


しかし――

引っ張られていた腕の力が一瞬緩み、

操作が反転する。


次の瞬間、

ビデオチャットの中央に映し出されたのは――


リリカだった。


「……っ!!?」


美咲は言葉を失う。


迅は眉をひそめ、

これから起こるであろう展開を想像し、

静かに息を吐いた。

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