第1章 6 現実からー。そして仮想世界へ
プレイ映像でアクションが起こるたび、
歓声がうねりとなって会場を包む。
隣を見ると、いつの間にか紗良と美咲がいた。
二人とも、言葉を失ったままモニターを見つめている。
「……すご」
紗良が、吐息のように呟いた。
「でしょ」
三人は人の流れに身を任せ、
会場の奥へと進んでいく。
入場ゲートは複数あり、
受付はウィンドウ操作だけで完了した。
電子チケットが即座に精算され、
デバイスに番号が登録される。
――Gエリア、7番ゲート。
〈会場へようこそ、紫電様〉
〈アバターと電子チケットの照合が完了しました〉
〈自動ゲートをご利用ください〉
無機質なガイド音声。
「仮想世界って、ほんと便利だな……」
迅は、思わずそう呟いた。
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〈会場の皆様、お待たせしました!〉
〈ギャラクシーヒーローズ世界大会――〉
〈決勝戦、選手の入場です!〉
司会の声とともに、
会場の左右から“影”が現れる。
「……あれ」
迅は、息を止めた。
――アバターじゃない。
そこに立っているのは、
現実の人間と寸分違わぬ姿だった。
「え……?」
紗良が、戸惑ったように呟く。
「ホログラムだよ」
美咲が身を乗り出し、柵を掴む。
「現実世界の会場にいるプレイヤーを
リアルタイムでトレースして、
そのまま仮想世界に投影してるの!」
「……じゃあ」
迅は、モニターから目を離せない。
「決勝戦のプレイヤーって、
現実でも、あそこに立ってるんだな」
〈我らがヨーロッパの誇り!
伝説のチーム――ナイツ・オブ・クラウン!〉
歓声が爆発する。
〈そして!
嵐のように現れたアジアの王者!
チーム・ホークルミナス!〉
空気が、震えた。
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〈改めてご説明しましょう!〉
〈決勝戦は――2対2のタッグマッチ!〉
巨大モニターに、競技ルールが映し出される。
〈VRゲーム――
ギャラクシーヒーローズ〉
「ギャラクシーヒーローズって、何?」
紗良が、美咲に小声で尋ねた。
「bsの元になったゲームだよ」
美咲はそう言い、
説明映像を二人に共有する。
ウィンドウに映るのは、
星々を救うヒーローたち。
百を超えるヒーロー。
それぞれが“星の力”を借りて戦う。
「陣地を取ると能力補正がかかるシステムでね、
陣地戦を左右するスキルとか
味方も呼べる」
「逆に、陣地との相性が悪いと
性能が落ちるヒーローもいるの」
「――強さは、キャラ単体じゃ決まらないのがこのゲームの面白い所だよ」
フィールドと、選択と、連携。
それがすべてを左右するという説明が続く。
司会のコールが会場に響く。
〈…決着は全滅、または陣地制圧数で勝敗決定いたします!
えーそれでは会場の皆様、ルール説明はこのぐらいにしまして、さっそくプレイ映像に切り替えます!〉
映像が切り替わる。
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ナイツ・オブ・クラウンの選択は――荒野エリア。
視界が開け、
射撃と索敵に有利な地形。
宇宙船のハッチが開き、
2体のヒーローが身を乗り出した。
まず1人目――ナイツオブクラウンのリーダー。
ジェームズ・トラッド。
使用ヒーローは、
特殊部隊ヒーロー《スピリット》。
盲目の老兵。
魂を切り離し、
自身の周囲15メートルを俯瞰する視点を持つ。
視点は常に、
自分の頭上に“浮いている”。
「……視界が、違う」
迅は、思わず呟いた。
都市エリアに補正。
さらに、部下の兵士を召喚し、
憑依して妨害や戦闘を行う。
「一人で部隊を動かしてるみたいだね」
美咲が、息をのむ。
続いて、もう1人。
――ナイツオブクラウンのキルマシーン
マーカス。
使用ヒーローは
航空ヒーロー《ジェットボーイ》。
人型と戦闘機形態を切り替え、
部分変形で常識外の機動を行う。
スクラップエリアでは、
瓦礫から実弾を生成し、
継続的な高火力を叩き出す。
映像の中で、
2体のヒーローが荒野に着地する。
大地が、震えた。
〈これがナイツ・オブ・クラウンDEATH!〉
会場は、再び歓声に包まれる。
迅は、知らないうちに拳を握りしめていた。
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〈続きまして――
ホークルミナスが使用するヒーローの紹介です〉
その瞬間。
――空中に、ヒビが入った。
ガラスが割れるような音もなく、
ただ、空間そのものが歪む。
ヒビは広がり、
やがて“門”の形を成した。
そこから、2つの影が現れる。
〈ホークルミナスのエースプレイヤー!
神埼が操るのは――〉
影の一つが、羽ばたいた。
〈エレクトロヒーロー
――《ライジング》!〉
鳥型の飛行ヒーロー。
加速行動やアクティブスキルを重ねることで、
体内に電撃ゲージを蓄積していくヒーロー。
ゲージが溜まった瞬間、
広範囲・高威力の電撃が放たれる。
だが、その力には代償がある。
――陣地によるプラス補正がない。
――助っ人ヒーローを召喚できない。
純粋な個の力で戦う、
ピーキーなエース。
〈そして!〉
もう一つの影が、ゆっくりと歩み出る。
〈配信界隈を日夜騒がせる
天才プロゲーマー!
天藤!〉
〈使用ヒーローは――〉
空気が、ざわめく。
〈精霊ヒーロー
――《フォースシャーマン》!〉
精霊と契約する呪術師。
設置したトーテムを中心に、
天候を操るサポートヒーローだ。
晴れ。
雨。
嵐。
雪。
呼び出した天候は、
時間とともに影響範囲を拡大し、
陣地そのものに干渉する。
天候次第では、
ヒーローたちに
プラスにもマイナスにも補正がかかる。
さらに――
トーテムからは妖精や小さなシャーマンが出現する。
トーテムを守り、
戦い、
味方を支援する存在。
「……完全に、要塞向きだね」
美咲は、感心したように呟いた。
2体のヒーローは、
都市エリアの崩れた高層ビルへ降り立つ。
そこから、戦場全体を見下ろす。
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〈さぁさぁ!
選手たちのヒーローが
決戦の地に舞い降りました!〉
〈栄光を掴むのはどちらか!
目が離せません!〉
〈それでは――
ギャラクシーヒーローズ決勝戦!〉
〈――試合開始!!〉




