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第7章 協定会議

迅達は会議に備えて早めに解散した。

そして、奪還戦から6時間後ー。


闇の中を、一つの影が走る。

音を立てず、闇に溶け込むように。


萬天楼の都市の灯りが届かない一角――

そこには、深く張り巡らされた地下の世界が広がっていた。


仮想世界の**地下市場**。


元は戦闘訓練用として解放されたエリアだったが、

目につきにくい立地ゆえ、正規で使用するプレイヤーはほとんどいない。


今では、裏の取引が行われる場所となっている。


戦闘訓練用エリアという仕様上、

ここではプレイヤーネームが表示されない。


表で見せられない取引を行うには、

これ以上ない環境だった。


ヴォルグは闇に身を溶かし、

獣人の柔軟な身体を活かして、

複雑に張り巡らされたパイプや遮蔽物を

パルクールのように駆け抜けていく。


――俺は、確かに見た。


あの奪還戦のエリアで、

戦うわけでもなく、

ただプレイヤーたちを観察するように動いていた“あいつ”を。


確信に変わった理由は、その視線だった。


ヴォルグは、現実世界で何度も見てきた。

薬物の売人が見せる、

あの独特の目線の動き。


追跡対象が地下エリアへ入り、

さらに奥地へと進んでいくのを見て、

ヴォルグの疑念は、もはや確信へと変わりつつあった。


一定の距離を保ちながら、追う。


地下エリアに漂う鬱屈とした空気。

張り詰めた表情のプレイヤーたち。


この場所そのものが、異質だった。


地下エリアは十二層構造。

奥へ進むほど、地上の灯りから遠ざかり、

鉛のように重たい空気が支配していく。


――どこまで行く気だ……?


警戒と緊張が、波のように胸を揺らす。


八層、九層へと進んでいく追跡対象。

そして――その男は、足を止めた。


……ここが、取引現場か。


ヴォルグは近くの遮蔽物に身を潜め、様子を窺う。


消えかけのライトが、

かろうじてプレイヤーの身体を照らしている。


その時だった。


「……駄目だよ。こんな所に来ちゃぁ……」


ねっとりとした声が、

耳元に直接囁きかけるように響いた。


首元に、どす黒く錆びたナイフが突きつけられる。


「……ロザノフ・ルドロフさん」


――こいつ、どうして俺の本名を……。


その瞬間。


**ヴォルグがログアウトしました。**


---


現実世界 美咲宅ー。


箸でポテチをつまみながら、

美咲は威閻と葵時雨の戦闘データを解析している。


「この新作のポテチ、味濃い〜……」


パリパリと軽快な音を立てながら齧る。


「でもコンビニ行くと、つい気になって買っちゃうんだよなぁ」


画面に映るのは、戦闘ログと装備データ。

美咲が特に注目していたのは――**英雄具**だった。


格闘タイプの紫電を凌駕した威閻のスピードを生み出した断罪の斧。

戦局そのものを塗り替えた、神珍鉄の規格外の能力。


一言で言えば、**パワーバランスが完全に壊れている**。


あの仮想世界において、明らかに異質な存在だった。


迅に借りた紫炎の英雄具《明鏡止水》も解析してみたが、

内部は複雑なコードの羅列で構成されている。


武器の容量データの規格を、明確に超過していた。


「……やっぱり」


英雄具には、

まだ何か“隠されている”――そんな気がしてならない。


「あ、そうだ」


ふと思いつき、美咲はデバイスを操作してウインドウを展開する。


ローゼから教えてもらった、ある人物の連絡先。

通信をかけるが――出ない。


「……出ないなぁ」


諦めず、何度かコールを重ねたところで、ようやく繋がった。


『……しつこいんだけど。何か用?』


少し苛立った声。


「やぁやぁ!夜遅くにごめんね、ワトソン!」


美咲は明るく切り出す。


「ちょっと気になったことがあってさ!」


そう言って、

英雄具の解析データの一部をワトソンへ送信した。


そこには、不明瞭な“バグ”のようなデータが含まれている。


――明らかに、人間が入力したものではない。


ワトソンは黙り込み、データを精査する。


美咲は、余計なことは言わず、ただ待った。


『……これは』


『仮想世界のAIが生成した、独自のコードだね』


『演算に演算を重ねた結果で、人間には解析できないレベルの情報密度だ』


『あえてデータとして残されているのは……』


ワトソンは一瞬考え込む。


『ゲーム全体のデータを圧迫しないために、簡略化して保存しているのかもしれない』


その声に、わずかな違和感が滲んだ。


『……こんなデータを見つけるなんて』


『君、何者?』


「いや〜、師匠の受け売りでさ」


「基礎データに紐づいてる情報を調べる癖があって、たまたま見つけちゃったっていうか……?」


『……もう喋らなくていい』


『余計、訳わからなくなるから』


ワトソンは小さくため息をついた。


『九尾の晩餐が英雄具を集めているのは、前から気になってた』


『どうやら……僕も本格的に調べる必要がありそうだ』


『じゃあ、今日はこれで』


一方的に通信が切れる。


「……相変わらずだなぁ」


美咲はモニターから離れ、

ゲーミングチェアに身を預けたまま、くるりと回る。


「AIが独自に作ったコード、か……」


「開発会社は、どうやって管理してるんだろ」


その疑問を胸に残したまま、

美咲は再びモニターへ向き直る。


答えを求めるように、

静かに解析を続けるのだった。


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