第6章 13 暴かれる真実
九尾の晩餐の当主 白澤を名乗る人形。
「……当主自ら、ご登場ってわけね」
美咲は警戒を隠さず、迅の隣に立つ。
(…え?可愛いんだけど……!
なにこれ、気になるんだけど!!)
内心では二頭身の人形に興味津々だったが、
顔色ひとつ変えず、真剣な表情でそれを誤魔化した。
紗良もまた、白澤人形をチラチラと見る。
2人の様子に呆れる迅。
「……その姿、
ふざけてるわけじゃないよな」
迅は怪訝な顔で、
白澤の人形をじっと見つめた。
「これは失敬。」
白澤は穏やかに微笑む。
「本体とこの身体を葵時雨からの回線で接続し、
会話しています」
「この身体に戦闘能力は一切ありませんので
その点は、ご安心を」
そう言って、ひらりと手を振る。
仕草だけ見れば、場違いなほど朗らかだった。
「あまり時間がないようですね」
白澤は表情を変えず、周囲を見渡す。
「手短に、要点だけ話しましょう」
迅は、奪還戦の仕様を思い出す。
リザルトが表示された後、
一定時間が経過すれば、全員が強制的に元のエリアへ戻される。
――時間制限つきの対話。
「早速ですが、
九尾の晩餐が溶岩薬と関わりを持っていた件については、認めましょう」
「当然、
それが許される行為ではないことも」
あまりにも淡々とした口調だった。
「……まるで、
自分は関わってませんって言い方だな」
迅は視線を逸らさず、真正面から問う。
白澤は、一瞬も言葉に詰まらず答えた。
「威閻は、溶岩薬に関する情報を秘匿し、独断で使用していました。
これを組織の責任と言うにはあまりに飛躍していると思いますがいかがでしょうか。」
確かに感情論を抜きにすれば至極真っ当な意見だ。
これを容認すれば、どの組織も外部からの悪意によって容易に破壊されてしまう。
「組織と個人を切り離して考えたらだけどね。
幹部が使ったって事実は大きいよ。」
美咲は白澤の論理の隙を突く。
そう、これは組織側に立つ幹部の行いによるもの。
1ギルドメンバーが起こしたものではない。
個人の責任で逃れられるものではない。
「我々にとって幹部は組織の顔ではありません。資質を示す存在であり、道具であり、手段です。
そこらの組織と一緒にされては困ります」
白澤は不気味なほど朗らかに宣う。
嘘偽りなく本心を述べ続けている。
こんな事を饒舌に話すトップが存在するのだろうか。
「あんたらが普通の組織ではないのは分かった。
だが、不正は不正だろ」
「確かに、不正をしたのは揺るぎない事実」
「では、不正と九尾の晩餐が起こした
問題についてどう処理するか――
正式な話し合いの場を設けましょう」
「九尾の晩餐と連合ギルドで協定会議をいたします」
「今回の話は、そちらで共有していただいて問題ありません。
証拠も――すべて」
そう言って、美咲へと視線を向ける。
まるで、
“それを止める権利など最初から存在しない”
と言わんばかりに。
「では――
紫の境界の皆さん」
「明日、また会えるのを愉しみにしています」
その言葉を最後に、
人形は電池が切れたように力を失い、
そのまま、葵時雨の手の中へと落ちた。
同時に、
奪還戦エリアが、ゆっくりと崩れ始める。
戦場は、否応なく終わりを迎えていた。
「葵時雨!」
迅が声をかける。
「お前とはちゃんと戦いたい…!
だから、この件はきっちりけじめをつけるぞ」
迅はかつて選んでもらったパーツの手を差し出す。
葵時雨は少し迷いが晴れたような顔をし、消えていった。
元の転送エリアへと戻ってくる。
そこに、葵時雨の姿はない。
ワトソンとミハイルは、
傷だらけのまま地面に座り込んでいた。
「……シンドかったな」
「あぁ、全くだ……」
「無事だったのか!」
ローゼが迅達に駆け寄り、安堵の息を吐く。
「葵時雨を止められず、申し訳ない……」
一瞬言葉を選び、ローゼは続けた。
「こちらは葵時雨を取り逃したうえ、
彼女の立ち回りで注目を集めてしまい、
他ギルドからの襲撃を受けた…」
「結果、辿り着けず迷惑をかけた…
しかし、幹部2人を相手にしてよく無事だったな?」
「その件で、話がある」
迅は一歩前に出て、
話し合いの提案も含め、
戦場で起きた出来事をすべて説明した。
「……そうか、威閻がそんな目に。
それにまさか、あの白澤が
戦場に“仮の姿”とはいえ出てくるとはな」
ローゼは呟く。
「珍しいのか?」
迅は問う。
「珍しいなんてものではない。
今回の為、多くの九尾の晩餐が参加した
戦場のデータを見たが白澤を見たことがない。
戦場にはまず出てこないものと見ていたが」
「よほど今回の違法薬物は、
根が深いということか……」
「そういえば
ワトソンと……ミハイルは無事なの?」
紗良の問いに、
ローゼは微妙な表情で二人を指差す。
ワトソンが疲れ切った声で言う。
「はぁ…ミハイルって、
数字も読めないほど頭が悪かったっけ?」
「序列3位と序列1位だよ?
どう考えても序列1位のほうが強いでしょ」
「あ~あ、言っちまったな」
ミハイルは肩をすくめ、鼻で笑う。
「机に齧りついてる奴は
数字でしか物事を測れねぇんだな」
「序列なんて貢献度を
可視化しただけの数字だろ?」
「あの爺さんが本気出したら、
序列1位なんて目じゃねぇよ」
「……何それ」
ワトソンは呆れたように息を吐く。
「妄想で論理を否定するとか、
話にならないんだけど」
「机上の空論で
ゴリ押しする奴がよく言うなぁ!」
二人は、火花を散らしながら言い争っている。
「……何やってるの、あれ」
心底冷めた表情で呟く紗良。
ローゼはその視線から逃げるように顔を背けた。
「私も理解できないが……」
「どうやら、
どちらが“より強い相手と戦ったか”で
言い争っているらしい」
「……しばらく、放っておいてくれ」
そう言って、
ローゼは両手で顔を覆った。




