第6章 12 暴かれる真実
葵時雨は神珍鉄の端まで一気に駆け抜けると、その場でしゃがみ込み、指先で神珍鉄に触れる。
神珍鉄は光となって収納され
足場を失い落下する葵時雨は体勢を整え、軽やかに着地した。
その視線の先には――
紫電と威閻が、向かい合っている。
葵時雨の出現に、紗良と美咲が一瞬で身構えた。
「……なんであんたがここに!」
紗良は、身をもって知っている。
異常なまでの実力をー。
美咲は先手をうつ為、氷の刃を振りかざし
走るー。
「だめ…!危ない!」
葵時雨の圧倒的強さを知る紗良が止めに入ろうと続けて動く。
その時ー。
「……ああ……あああああああ!!」
悲痛な叫び声が、戦場に響き渡った。
時が止まったようにその場全てのプレイヤーが固まる。
声の主である威閻が、青ざめた顔で頭を抱え、地面に膝をつく。
「今度はなに!? どうなってるの……?」
混乱する紗良に、美咲が唇を噛みしめて答える。
「……過剰投薬!」
「この人、迅に追い詰められて
限界を超えて薬を使ったんだ――」
美咲は苦虫を噛み潰したような顔で、状況を記録する。
とても、正視できるものではない。
発狂する威閻は、
縋るように葵時雨へ手を伸ばすも力尽き動かなくなる。
迅は、突然倒れた敵を呆然として立ち尽くしていた。
――これが、違法薬物使用者の末路。
「……誰が、こんな酷いことを……」
胸の奥から、怒りが込み上げる。
「こんなことが……許されるのか…」
葵時雨は歯ぎしりをする。
――分かっていた。
白澤が円卓会議で、
違法薬物の議題を上げた、あの時から。
幹部の誰かが、こうなる事を。
覚悟の先の地獄を目に焼き付ける。
こんなおぞましいものが私たちの力なのか。
迅は、葵時雨に近づく。
急な接近に構えるも
迅はお構い無しに葵時雨の肩を掴む。
「早く救急車を呼べ!
この人と現実で知り合っている人でもいい。
手伝ってくれ!」
「それはできない…!
あなたの指示は聞けない!」
葵時雨は掴む迅の手を振りほどこうとする。
しかし、その手を離さない迅。
敵意はないのに掴みかかる手のひらの指圧に
迅の真剣さを感じ取る葵時雨。
次第に抵抗を止め、脱力する。
少し息を整え、迅は続ける。
「状況が変わったんだ。
人の命がかかってる…。
俺たちがいがみ合っている場合じゃない。」
「…っ。
分かった…!ギルドに連絡してみる。
だから手を離して…!」
葵時雨は今度こそ手を振りほどき、ウインドウを展開。
少しして、葵時雨は威閻の知り合いを見つけ、
救急車が手配された。
少しすると現実でデバイスを外されたようで威閻は強制ログアウトし、消えていく。
「迅……」
美咲が声を上げる。
迅は酷く窶れた顔をしている。
迅の表情を見て、言葉を飲み込んだ。
奪還戦エリア全域に、無機質なアナウンスが響いた。
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**MISSION CLEAR**
翡翠の騎士が撃破されました。
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無情な報告。
次いで、結果ウインドウが展開される。
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**最優秀:沈・夜哭**
翡翠の騎士を撃破
**報酬:2,200,000**
英雄具《翡翠の直剣》
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葵時雨に、短い通信が入った。
『葵、撤退の準備をしなさい』
真羅からだった。
「先生……!
これは、どういうことですか……?
まったく意味が分かりません!」
息を整えながら、真羅は淡々と返す。
『おそらく、総帥様か孔岳殿の作戦でしょう』
『我々は囮。
別働隊が、すでに動いていたようですな』
普段であれば、葵時雨はその周到さに感嘆し、称賛していたはずだった。
だが――
今は違う。
目の前で起きた出来事。
崩れ落ちた威閻。
奪還戦の裏で、平然と進められていた“もう一つの戦い”。
背筋に、冷たい悪寒が走る。
(……この組織は、どこまで踏み込むつもりなんだ……)
真羅からの通信は途切れた。
葵時雨は静かに息を吐き、視線を前へ戻す。
立ち尽くす迅へと、ゆっくり歩み寄った。
「敵でありながら……」
「仲間を助けていただき、感謝いたします」
形式ばった、しかし一切の虚飾のない所作。
葵時雨は丁寧に頭を下げた。
そして顔を上げ、淡々と続ける。
「ですが、今回の件――」
「有耶無耶には、できません」
「あなたたちの目的は、
違法薬物使用者を特定し、
九尾の晩餐に打撃を与えること……違いますか?」
迅は視線を逸らさず、静かに答える。
「……だったら?」
「我が主と、話をしていただきたい」
その言葉に、迅は一瞬だけ目を見開く。
「私自身も、戦うべきではなく、
話し合うべきだと判断しました」
迅が、ゆっくりと頷く。
それを確認すると、葵時雨はウインドウを展開し、
一つの特別回線へと接続した。
通信を通じて、空間にデータが構築されていく。
やがて――
葵時雨の頭上に、二頭身の人形が出現した。
そのまま、ぽすりと葵時雨の頭に着地する。
人形は胸に手を当て、落ち着いた声で語りかけた。
「お初にお目にかかります」
「紫の境界の皆さん」
「私が――
九尾の晩餐、当主。
白澤と申します」




