第6章 10 暴かれる真実
「ははは……一対一だぁ?
笑わせんな」
威閻は嘲るように笑い、断罪の斧を迅へと向ける。
「お前らぁ!
邪魔者をブッ殺せ!!」
遅れて到着した威閻の部下たちが、一斉に襲いかかる。
その瞬間――
炎の軌跡と、氷結の風が紫電の周囲を舞った。
紫電の姿が、霞の中へと溶けていく。
「……なんだ?」
「いきなり霧が……!」
「ぐぁっ――!」
霧の中で、鈍い衝撃音が連続する。
倒れる音。
砕ける音。
やがて、二つの影が浮かび上がった。
「……悪いけどさ」
「紫の境界は、三人なんだよね〜」
軽い調子の美咲の声。
「……迅には、近寄らせない」
紗良のしっかりとした声。
霧が晴れる。
地面に伏す威閻の部下たち。
そして立っている三人。
吹雪三式。
龍焔。
紫電。
「……強い……」
ローゼは、思わず呟いていた。
会議の場で抱いた印象とは、あまりにも違う。
本当に――あの時の彼らなのか。
「皆!
彼らの援護を!」
ローゼは即座に判断する。
「……威閻は、彼らに任せて周りを片付ける!」
号令と共に、サウスウインドの部隊が動く。
威閻の部下たちと激しく組み合う。
ローゼは銃剣を巧みに回し、射撃。
確実に急所を撃ち抜いていく。
「……調子に乗りやがって」
威閻は怒気を滲ませ、紫電を睨む。
「ムカつくからよ……
望み通り、お前から処刑してやる」
威閻は処刑対象を紫電へと切り替えた。
ローゼよりも近い距離。
断罪の斧の効果が、発動する。
アバターの筋力が、目に見えて増していく。
巨大な斧を、両手で扱えないはずの武器を、
まるで玩具のように振り回す。
迅は、目の前の威閻だけに意識を集中させる。
戦場の喧騒が遠のき、
聞こえるのは、威閻の呼吸だけ。
――この呼吸。
迅は思い出す。
湿って、浅く、
空気を必死に掻き集めるような呼吸。
「……あの時と同じだ」
序列六位――沈・夜哭。
あの時と、同じ。
そして一息の間に斬撃と打撃が交差する。
「……っ!!早い……!」
ローゼは、横目で二人の動きを捉えようとする。
威閻が斧を振るえば、紫電が消える。
紫電が拳を放てば、威閻が消える。
見えるのは、攻撃の“直後”だけ。
一度でも当たれば致命傷になり得る一撃の応酬。
皮一枚でかわし、両者の掠った部分は塵となる。
張り詰めた糸を、限界まで引き伸ばしたような戦慄。
どちらが先に切れるか――。
紫電の身体の中心が、明滅を繰り返す。
カウンターの成功と、失敗。
その応酬によりバフを得ては解除される。
やがて――
威閻の目が、紫電を捉え始める。
「確かに、てめぇは速ぇ……」
「だがなぁ……
こっちは断罪の斧の効果が、常時発動してんだ」
「……あのジジイみてぇに、
先を読む拳じゃなきゃ、俺は捉えられねぇぞ!」
威閻は斧を手首だけで振り回し、回転。
刃が、紫電の頬を掠める。
**ピシリ**と、紫電の顔にヒビが走った。
「――終わりだぁ!!」
怯んだ隙を逃さず威閻は後退する紫電を殴打。
そのまま身体を掴み、地面へ叩きつける。
「……!!」
「処刑の時間だぁ!!」
倒れた紫電の首へ、断罪の斧が振り下ろされる。
その瞬間――
迅は、掴みかかる威閻の腕を捻った。
重心が崩れ、
斧が、振り抜けない。
「……あの技は……!」
紗良は思い出す。
大阪城で見せた――
ゴクウの業。
迅は崩れた威閻の身体を引き寄せ、
地面へと引き倒す。
咄嗟に反撃する威閻。
だが、それを読んでいた。
迅は最短距離で、肘打ちを叩き込む。
――ローゼが撃ち抜いた、同じ肩へ。
威閻は、再び膝から崩れ落ちた。
紫電のカウンターにより、
反逆の坩堝が、強く光を灯す。
「悪いな」
迅は、静かに告げる。
「処刑されるのは……
あんたみたいだ」
「……ふざけん――っ!!」
威閻の腹へ、紫電の拳が突き刺さる。
「ぐぁっ!!?」
吹き飛び、地面へ叩きつけられる威閻。
迅は、大きく息を吐いた。
乾いた笑い声が、響く。
倒れたまま、威閻は不気味に笑っていた。
「……いいぜ」
「お前は絶対俺がコロス……」
操り人形のように、不自然に立ち上がる。
再び、断罪の斧を構える。
威閻は、
**完全な狂乱の渦**の中にいた。
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