第6章 3 暴かれる真実
「コホン……」
ローゼは一つ咳払いをし、空気を切り替えるように背筋を伸ばした。
裾をピシッと整え、改めて口を開く。
「では、気を取り直して本題に入ります」
「メールでもお伝えした通り――
私たちサウスウインドは、九尾の晩餐の**独擅場**になりつつある現状を強く懸念しています」
「そのため、連合ギルドの参加を募りました」
ラウンジの視線が、一斉にローゼへ集まる。
「連合ギルドの目的は1つ」
「**九尾の晩餐の弱体化**です」
その言葉を待っていたかのように、
ソファに腰掛けていた一人が立ち上がった。
黒い毛並みを持つ獣人――
ブラックウルフのリーダー、ヴォルグ。
「……勝算はあるんだろうな?」
低い声が、ラウンジに響く。
「九尾の晩餐は3000人以上。
こっちは6ギルド合わせても、せいぜい1000人程度だ」
「どう考えても、人数が足りねぇんじゃねぇか?」
ヴォルグは、そのままローゼへと歩み寄る。
だが――
その前に、白銀の毛並みを持つ獣人が立ちはだかった。
マーク・ミハイル。
二人の獣人が、至近距離で睨み合う。
一瞬、空気が張り詰めた。
「ちょ、ちょっと……!」
「いきなり修羅場なんですけど……!」
紗良は思わず両手で顔を覆う。
だが、ミハイルはそんな緊張を嘲笑うように、ニカッと笑った。
「ははは、まぁ落ち着いてくれや」
「俺たちはな、既に知っているんだ」
「――狐の尻尾の掴み方をな」
そう言って、ミハイルは半ば強引にヴォルグの手を掴み、握手を交わす。
「……ちっ」
ヴォルグは舌打ちし、納得のいかない表情のままソファへ戻った。
紗良は「はぁ……」と息を吐き、胸に手を当てる。
「……っ」
場の空気を整えようとするローゼだったが、参加者達の落胆する顔に言葉が詰まった。
「はぁ…面倒くさいな」
その時一歩前に出たのは、ワトソンだった。
「……確かに」
「僕らが全面戦争をしたら、負ける」
誤魔化しも、虚勢もない。
淡々とした声音。
「他のギルドにも応援要請はかけた」
「でも、九尾の晩餐からの仕返しを恐れて、参加しないギルドや……
そもそも、僕らと競っているランク戦をしているギルドは、最初から応じてこなかった」
ほら見たことかと
ヴォルグは頭を掻き、ため息をつく。
だが、ワトソンは視線を逸らさず続けた。
「……それでも」
「**九尾の晩餐の“弱体化”が目的なら、この人数でも勝算はある**」
一同の空気が、変わる。
「弱体化……?」
「具体的に、どういうことだ!」
声を荒げたのは、三剣の騎士団――アーサーだった。
「我々は奴らの強さを知っている!」
「消耗戦になったら、こちらが必ず負けるぞ!」
脳裏には、あの時の記憶。
幹部二人による、圧倒的な襲撃の光景がよぎる。
ワトソンは無言でウインドウを展開した。
そこに映し出されたのは――
赤黒く禍々しい、ひし形の物質。
「……これが、僕たちの勝算だよ」
「……おい、待て!」
ヴォルグが声を荒げる。
「溶岩薬じゃねぇか!」
「ふざけてんのか!?」
「ねぇ……溶岩薬って、何?」
紗良が恐る恐る尋ねる。
美咲は深く息を吐き、静かに答えた。
「……今、出回ってる違法薬物の名前だよ
見た目が赤黒いからそう呼ばれてる」
「お師匠が言ってたやつだよ」
迅と紗良の背筋に、冷たいものが走る。
「これを使って勝とう、なんて馬鹿な話はしてない」
ワトソンは即座に否定した。
「……それくらい、分かるでしょ?」
その視線を受け、ヴォルグは険しい表情のまま睨み返す。
ワトソンは続けた。
「九尾の晩餐は――
**これを使っている疑いがある**」
一同が、言葉を失う。
「……な……」
先ほどまで吠えていたヴォルグも、完全に面を食らった様子だった。
「もう一度、整理するよ」
「九尾の晩餐の弱体化、その方法は――」
ワトソンは静かに告げる。
「**違法薬物を摘発すること**だ」




