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第1章 4 現実からー。そして仮想世界へ

その夜。




 美咲から、メッセージが届く。




> なんだよー


> 約束すっぽかしはお互い様じゃん!


(●`ε´●)




 この明るさには、正直救われる。




> 悪かった


> 今から遊ぶか?




 すぐに返信が来た。




> おっけい!


> ログイン待ってるね〜




 迅はグッドマークを返し、


 デバイスを起動した。




---




 ログインし、待ち合わせ場所へ向かう。




 そこに、美咲と――見慣れないアバターが立っていた。




 美咲は親しく誰かと話しているようだ。




 近づくにつれ、会話が耳に入る。




「…もう帰る! やっぱ帰る!」




「まぁまぁ。もうすぐ来るし、観念しなよ〜」




「余計帰る!


 どんな顔して会えばいいの」




 ――まさか。




 迅は、二人の前に立った。




「……あ」




 空気が止まる。




 しばしの沈黙。




「……紗良、なのか?」




 問いかけると、


 アバターは無言で頷いた。




 先ほどのように迅と紗良は、再び無言になる。




 その沈黙に耐えきれなくなったのか、


 美咲が突然、叫ぶ。




「あー!


 二人していい年して、何黙ってんの!」




 紗良は、観念したように息を吐き、


 重い口を開いた。




「迅……お願いがあるの」


「なんだよ…」


 思わず迅は唾を飲み込む。




「私と…勝負して」




「……は?」




 迅と美咲が、同時に声を上げる。




「いや、なんでお前まで驚いてんだよ」


「え、だって……」


 美咲もこの状況に理解が追いついていないようだ。




「いいから!」




 ぷんすかと怒りながら、


 紗良は先に歩き出した。




 迅は思わず、美咲に耳打ちする。




「おい、どういうことだよ……!」




「迅たちがギクシャクしてるから、


 仲良く遊べるように紗良も誘ったの……!」




「私も、こんな展開になるとは思ってなかったよー……!」




「美咲!」




 突然呼ばれ、美咲はびくっと肩を震わせる。




「どこ行けばいいんだっけ……?」




「あ、あはは……こっちこっち〜」




 いつものお調子者も、


 さすがに引きつった顔だった。




---




 模擬戦エリア。




 迅と紗良は、ほぐすように身体を整える。




 仮想世界では不要かもしれない。


 それでも、怪我をしないために身についた癖だった。




 「どうしてお前ゲームやってんだよ、


 嫌い…なんだろ…」




 言葉を詰まさせながら聞くが紗良は


 そっぽを向く。




 「別に夜は外危ないし美咲から誘われたから


 来ただけ、…迅には関係ない」




 「そうかよ…」


 


 迅は顔を引きつらせながらも紗良のアバターを


 見る。


 紗良のアバター名は《龍焔》というみたいだ。




 美咲が調整したアバターで、


 体格は現実とほとんど変わらない。




 ただ一つ、目を引くものがある。




 足部パーツ。


 炎の紋様と、赤い宝石のようなパーツ。




 ――これも、美咲の仕業だろう。




 先ほどの事も全く気は進まない。


 だが、勝負は勝負だ。




 迅は気持ちを切り替え、構えた。


 紗良もまた、いつもの構えに戻る。




 紗良は深く息を吐く。




 感情を、身体の外へ追い出すように。




 集中。


 そして、闘志。




「じゃあ――勝負開始!」




 美咲の掛け声と同時に、


 《龍焔》が駆け出した。




 突進と見紛う初速。




 《紫電》は構えを崩さず、


 迎え撃つ姿勢のまま距離を詰める。




 ――次の瞬間。




 目の前にいたはずの紗良が、消えた。




「どこに――」




 ――ドン!!




 背後から、鈍い衝撃。




 《龍焔》の裏蹴りが、


 《紫電》の背中を捉える。




 足部パーツが、赤く点滅していた。




(やっぱり……足にギミックがある)




 体勢を崩しかけるが、


 迅は細かいステップと踏み込みで、最短で立て直す。




 振り向く。




 《龍焔》も、足蹴りの反動で万全ではない。




 《紫電》は迷わず、


 すくい上げるようにアッパーを放つ。




 ――だが。




 再び、姿が消える。




 視界の端を、炎の紋様が横切った。




 迅は、その軌跡を見逃さない。




 《龍焔》は宙を舞っていた。




 不規則。


 蝶のような、空中機動。




(……蹴ってる)




 迅は理解する。




 足を蹴る動作のたび、


 空中で軌道を変えている。




(宙を、足場にしてるんだ)




 あのパーツが、それを可能にしている。




 迅は足さばきに、意識を集中させた。




 《龍焔》が飛翔し、死角へ回り込む。




 踵落とし。




 ――ガン!!




 重い一撃。




 だが、《紫電》は振り向き、


 両腕で受け止めていた。




(今――)




 カウンター。




 拳が、紗良の左肩を捉える。




 体勢が崩れる。




 《龍焔》も負けじと宙を蹴り、受け身を取る。




 最短で立て直し、


 さらに宙を蹴って一回転。




 地面すれすれから、


 摩擦で火花が散りそうな勢いのアッパー。




 宙に、焔の軌跡が描かれる。




 ――だが。




 カウンター成功により、


 《紫電》はさらに加速していた。




 推進力。




 焔の軌跡を、ジャブで掻き消す。




「……!?」




 推進力を失った《龍焔》のアッパーは、


 軌道を逸れ、《紫電》の頬をかすめるだけ。




 刹那。




 完全に無防備になった腹部へ――




 コツン、と。




 拳が触れた。




 《龍焔》は、その場に崩れ落ちた。




 紗良は立ち上がらない。




 完全な敗北だった。




---




「……はぁ、負けた」




 迅は無言で、手を差し出す。




 しばらくの沈黙の後、


 紗良はその手を取り、立ち上がった。




「迅……」




「お前、やっぱすごいよ」


 迅の一言に紗良は目を見開く。




「え?」




「毎日鍛えてなきゃ仮想世界でいきなりあんな動きできない…と思う」




「ふふ…何それ、全然褒めてない」




紗良は少し笑う、糸が解れたような


そんな様子だった。




「実はね…」




 紗良は、少しだけ目を伏せる。




「勝ったら、ゲームやめてって


 お願いするつもりだった」




「……そうか」




「でも、今は違う」




 顔を上げ、まっすぐ言う。




「負けたからじゃない。


 戦って、分かったの」




「今の迅には……


 ここが必要な場所なんだって!


 ふふっゲームって面白いね!」




「なんだよ、それ」




 迅は苦笑する。




「今どき、戦って分かり合うなんて、


 少年漫画でもやってねーよ」




 二人は、顔を見合わせる。




 そして、笑った。




 それは――


 久しぶりに見る、二人の笑顔だった。




---




「どうだった!? どうだった!?」




 美咲が駆け寄り、興奮気味に聞く。




「龍焔の性能は!」




「すごく動きやすかったよ」




 紗良は軽くジャンプしながら答える。




「空中を飛ぶから、かなり難しいかと思ったけど……


 この身体、軸がしっかりしてるのかな。


 振り回されなかった」




「姿勢制御重視のパーツ構成だからね〜」




 美咲は満足そうに頷いた。




「重心を少し下半身寄りにしたのが良かったかも。


 迅もそうだけど、普段から運動してる人は


 やっぱ身体の使い方が上手いのよね〜」




 一拍。




「ちなみに私は、そのパーツ使った瞬間、


 思いっきり頭ぶつけたよ」




「……想像つく」




 しみじみ語る美咲に、迅は即座に返した。




「このアバター……」




 紗良は指先をいじりながら、少し照れくさそうに言う。




「今後も、使い続けてもいいかな……


 私も、もっとこのゲーム遊びたいし……」




「いいよ! むしろ大歓迎!」




 美咲は勢いよく答え、


 紗良の手を取ってぶんぶんと振り回す。




「また三人で遊べるね!」




 紗良は少し驚きながらも、


 抵抗せずに笑った。




---




 ログアウト後。




 迅の端末に、ほぼ同時に通知が届く。




紗良


> 今日は迅の気持ちも考えないで


> 振り回してごめん!


> ゲームでも、迅さえ良かったらよろしく!




美咲


> 仲が元通りになって良かったね!


> 明日、ゲーム大会が開催されるんだけど


> 三人で見に行かない?




 迅は少し考えてから、返信する。




紗良へ。




> 俺も酷いこと言ってごめん


> これからもよろしく!




美咲へは、


 **大歓迎!**のスタンプを添えた。




 ――もう少しだけ、頑張ってみるか。




 迅はスポーツウェアに着替え、


 夜の街へ走り込みに出かけた。




 拳の熱は、まだ消えていなかった。



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