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第5章 4 分かたれた仮想世界。

「……おい、いつまで持たせるんだ、あれは」


「よせ。総帥の御前だぞ」


しわがれた声と、落ち着いた声が円卓の間に反響する。


白澤は、ひと言も発さず、ただ目を閉じていた。


「先生……総帥は、何も仰らないのですが……

 お疲れなのでしょうか」


葵時雨が、小声で隣のプレイヤーに問いかける。


「ここ数日、ギルド運営で休まれていないと聞いた。

 会議が始まるまで、お前も静かにしていなさい」


「はい!」


元気よく返事をする葵時雨に、

“先生”と呼ばれたプレイヤーは、軽く息を吐くようにため息をついた。


そのとき――


ウィーン。


円卓の間へと続く回廊から、大きな影が現れる。


「…李・酒龍。

 どこで油を売っていた……」


「ガハハ。まぁ、堅いこと言うな」


豪快な笑い声。


「少し野暮用があってな……」


李・酒龍は、どかりと円卓の席に腰を下ろす。


円卓の半数近くのプレイヤーが、露骨な侮蔑の視線を向ける。

だが、李・酒龍は毛ほども気にしていない。


その瞬間。


「――集まったな」


白澤の声が、円卓の間に響いた。


空気が、変わる。


背筋に走る畏怖。

緩んでいた緊張が、一瞬で引き戻される。


「それでは、円卓会議を始める」


短く、重い宣言だった。


---


司会として席を立つのは、

序列二位――**才智の孔岳**。


孔岳がウインドウを展開すると、

今回の防衛戦の戦果が、円卓に共有された。


---


**序列一位 殲滅の李・酒龍リ・シャオロ**

ケニア・ナイロビにて単身で

戦の化身ガネーシャを撃破

英雄具《象牙の首飾り》を入手


---


**序列二位 才智の孔岳コウガク**

イギリス・ロンドンにて部隊を率い、

多数のプレイヤーを排除

部下・雲仙ウンセンにより

森の精霊フォース・シャーマンを撃破

英雄具《精霊のトーテム》を入手


---


**序列三位 覇道の真羅シンラ**

ドイツ・ベルリンにて

序列九位・葵時雨と共闘

大手ギルド《三剣の騎士隊》を撃退

1つ目の鉄人メタルアイを撃破

英雄具《不浄の盾》を入手


---


**序列四位 鋼鉄の饕餮トウテツ**

タイ・バンコクにて

被害を最小限に処刑人キルジャックを撃破

英雄具《断罪の斧》を入手


---


**序列五位 黄金の虎晶コショウ**

カナダ・バンクーバーにて

中型ギルド複数と相対するが突破し、盲目の兵士スピリットを撃破

英雄具《魂のドッグタグ》を入手


---


**序列六位 暗殺の沈・夜哭シン・イェク**

日本・東京にて

奇襲により、最短時間で奇術師マスクを撃破

英雄具《悲哀の仮面》を入手


---


**序列七位 赤獅子の威閻ケンエン**

キューバ・ハバナにて

他陣営を翻弄し神罰の使徒エンジェルを撃破

英雄具《神託の杖》を入手


---


**序列八位 匿名隊・兎鳴ウーイン**

オーストラリア・シドニーにて

空間の支配者ザ・ヘブンを撃破

少数部隊で試験段階であったダンジョン産武器を使用、有用性を示す。

英雄具《支配の儀式剣》を入手


---


**序列九位 蒼龍の葵時雨アオイシグレ**

序列三位・真羅と同じく

ドイツ・ベルリンにて共闘

《三剣の騎士隊》エースプレイヤー二名を撃破

主力の足止めに成功


---


ずらりと並ぶ戦果。


一同は、それぞれのウインドウに視線を落とし、

静かに結果を確認する。


---


「ほう……全員、英雄具を持ち帰るとはな」


李・酒龍は足を組み、

手にした英雄具――《象牙の首飾り》を、誇示するように掲げた。


「えらく気前のいい戦果じゃねぇか……」


孔岳は一瞥だけ李・酒龍に向け、淡々と続ける。


「この戦果は、出現した地域の特定、配置を精査し、

 幹部を適切に配備できた結果に過ぎない」


孔岳はウインドウを操作し、次の情報を映し出す。


「現に、配置を避けた地域では――」


画面に複数の名前が浮かぶ。


「アメリカ大手ギルド《サウスウインド》のジェニス・ワトソン。

 そして、最近監視対象として位置付けた二名――暁月とスクリーム。

 さらに、ギャラクシーヒーローズ世界大会で決勝を戦った

 プロゲーマーチーム同士が結託してできた連合ホーククラウン


「いずれも防衛戦に成功し、英雄具を獲得している」


「ほう……」


李・酒龍は顎をさすり、

ウインドウに表示されたプレイヤーたちを、値踏みするように眺める。


「中々、面白そうな奴らが揃ってるじゃねぇか」


その空気を切るように、虎晶が口を開いた。


「戦果は結構だが……財政は問題ないのか?」


視線が孔岳に集まる。


「今回の奇襲のため、

 ギルド資産の大半を戦艦9機に投じたと聞いている。

 今後の運営に支障は出ないのか?」


孔岳は一瞬も迷わず答えた。


「――杞憂だ」


「すでに、私が手を打っている」


孔岳は幹部全員にデータを共有する。


「……なるほど」


虎晶が静かに唸る。


「この流れなら、資金の八割は回収可能か。

 戦艦9機も含めれば……むしろ、プラスだな」


孔岳は小さく頷き、次の情報へと移る。


「次に、今回唯一、防衛戦を失敗した地域について報告する」


ウインドウに映し出されるのは、

イタリア――ローマ都市。


「ヒーローの情報はギャラクシーヒーローズ由来の情報だ。

 ヒーロー名は翡翠の騎士シュトルツ


映像には重装甲のタンクヒーローが映る。


「味方キャラクターが近くにいるほど性能が上昇する特性を持つ。

 現在、奪還戦に我々の先行部隊が参加しているが――」


孔岳は言葉を切る。


「……結果は芳しくない」


「奪還戦が一カ所のみの為、各国のプレイヤーがローマ都市に集結しつつある。その結果、プレイヤー同士の争いが激化し、同士討ちが奪還戦エリアにて多発。

 奪還戦自体が難攻不落になりつつある」


「奪還戦の未解決が、仮想世界全体に

 どの程度の影響を及ぼすかは不明だ」


孔岳は白澤を見た。


「至急、事態収拾の為この場で出撃する幹部を選任すべきだと進言しますがいかがでしょうか」


「その前に、一つ」


白澤が、静かに手を挙げた。


「真羅」


真羅は一礼し、円卓の中心にウインドウを展開する。


そこに映し出されたのは――

ひし形の薬品。


禍々しい、赤黒い色をしていた。


「先日、ギルド内部の構成員が所持していた違法薬物です」


真羅は続ける。


「出所までは特定できておりません。

 見立てでは――すでに相当数、各国に流れ始めています。奪還戦の激化もこの薬物によるものと推測しています。」


「使用者は強力な性能を得る反面、理性に問題が生じ、

 相対すれば、アバター破壊を厭わない例も確認されております。

 使用者との戦闘についてはこの面々に要らぬ心配だとは思いますが…この薬物はかなり脅威だと断定し、調査の継続を進言します」


真羅の言葉を継ぐように、白澤が口を開いた。


「許可する、その他の者もこの薬物に関する情報があれば、

 必ず私の元まで持ってくるように」


「些細なことでも構わない」


一同は、無言で頭を下げる。


円卓の空気が、わずかに震える。


会議は、そのまま奪還戦の議題へと移っていく――。


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